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申し子、雨期の中で 1


 雨期が始まった。

 これで雨の日が二日続いている。雨期と言っても降ったり止んだりだと聞いているけど、そろそろ止むのだろうか。

 雨空を見上げ、なんとなくしっとりとした気分で王宮口へ向かう。


 近衛団で支給されている魔道具があるので傘は差していない。制服の中の背中部分に付けたそれは、雨除けの結界を展開する魔道具だった。水分自体を結界の中に入れないようにするから、泥はねの心配もなくて大変快適。

 首のうしろに起動スイッチがあって、水分補給する時は切らないとならないらしいけど。


 抱っこされているシュカは(ほこらで、あまやどりしてるみたい)と不思議そうに眺めていた。


 王宮口から入り、雨除けのスイッチを切る。近衛団控室のロッカーに魔法鞄を入れ、廊下へ出ようとしたところでレオナルド団長が控室へ入ってきた。


「あっ、レオさん。おはようございます」


『クー』


「お、はよう」


 さっと顔が赤くなり、少し目線をずらされた。

 なんだろう、あたしなんか変?

 扉近くの鏡で顔と髪を確認して、制服を見回したけどおかしいところはないような気がする。

 まぁいいか。そのまま廊下へ行こうとすると、背中から声がかけられる。


「ユウリ、その、たまには昼食をいっしょにどうだ……?」


 振り向くとやっぱり顔が赤い団長が、ちょっと困ったような顔で立っていた。

 熱でもあるんじゃないのかしら。団長だし休めないとか。


「レオさん、具合悪いんですか? ちょっとかがんでください」


 頭をちょっと下げてもらって、おでこに手を当てる。

 そんなに熱い感じはしない。

 あっ、でもすごく顔が赤い!


「熱あるんじゃないですか?! 帰って寝た方が!」


「い、いや、大丈夫だ。具合は悪くない……」


「……そうですか? それならいいですけど……。あ、お昼の休憩は十二時からです」


「わかった。『白(ひげ)亭』に十二時だな」


 レオナルド団長と食堂で食べるのは久しぶり。ちょっとソワっとしてしまう。

 納品口へ行くと、エクレールが青虎棟側の[納品青]に、マクディ警備副隊長が[納品金]に立っていた。リリーは休憩なのかもう次の場所へ行ったのか、いなかった。


「マクディ副隊長、エクレール、おはようございます。」


「おはようございます、ユウリ。一時間よろしくお願いします」


「おはよー」


 今日の[納品青]ラッシュの相棒はエクレールらしい。しっかりしてて頼りになるから助かるのよね。この国の警備の勉強にもなる。

 シュカを床に降ろすと、角の方へ行き丸くなった。すっかり定位置だ。

[納品金]に交代で来た人も立ち、マクディ副隊長が[正面口]に向かうころ、空話具からベルの音が流れる。

 今日も王城の一日が始まる。




[納品青]の立哨が二時間終わると、次は[正面口]に二時間立哨となる。

 正直、一つの持ち場に二時間は長い。人が来ない時間帯だと退屈で倒れそうになる。だけど、一時間に一回は休憩を回してもらえるし、移動の間も休憩を挟んでいいことになってるから、なんとかね。

 一時間立哨くらいが飽きなくていいんだけど、女子が少ないから女性に入ってほしい場所と時間はなかなか短くはできないのよね……。


 どこかの局のお偉いさんが入ってきた。ぼんやりモードから切り替える。


「おはようございます」


「おはよう。雨が続くねぇ」


「そうですね。そろそろ晴れ間が恋しいですよね」


 挨拶をして身分証明具を情報晶にかざしたのを確認。


「いってらっしゃいませ」


 笑顔で目礼をして、お通りいただく。

 早いとこちゃんと所属と名前も覚えないとならないわよね。


 馬車で来るお偉いさんたちは正面玄関から入ってくる方々が多いけど、国土事象局の長官様のように納品口から入ってくる方もいる。

 馬車の駐車場、こちらでは繋ぎ場って言うらしいけど、そこからだと納品口が近いらしい。[納品青]から廊下へ出ると二階への階段も近いので、アリだと思うわ。


 つらつらと考えごとしながら立っていると、真横の警備室からマクディ副隊長とスカートの白制服を着た女の人が出てきた。


「お疲れさまです」


「あ、ユウリ。ちょうどよかったー。この人が新しく入った、エヴァ。来週から番に就いてもらうから」


「ユウリです。横の白いのはシュカです。よろしくお願いします。あ、敬語敬称なしでどうぞ」


「わかった。私もそれでよろしくね。シュカは撫でてもいい?」


「もちろん」


 エヴァはかがんで、床に座っているシュカを優しい手つきで撫でた。

 三十代だろうか、落ち着いた雰囲気のお姉さまだ。小麦色の髪が肩の上で緩くカールしている。笑うと可愛らしくもあり。これはモテそう。高位文官のおじさまたちコロコロさせそう。


「[朝五番]に入ってもらうことになると思うから、よろしく」


「リリーは昼番ですか?」


「うん、そう。これでやっと四人になったよー。けど、ユウリまだ辞めないよね? 辞められたら三人になっちゃうし、辞めないよね?!」


「エヴァさ……が慣れるまではいますけど。でも辞めても文句言わないでくださいね? 女の人が入るまでって約束でしたからね?」


「う……ユウリが冷たい。俺とユウリの仲なのにぃ」


 どんな仲だというのよ。しっしっと追い払うと、エヴァがクスリと笑った。大人の余裕ってやつでしょうか。副隊長につられて子供っぽいことしたって、恥ずかしくなる。

 マクディ副隊長は、そこで真面目な顔になって、ため息まじりに言った。


「アイツがそろそろ戻ってくるから、俺、副隊長番に戻るのよ。だから、ユウリが頼みの綱というかさ……。よろしく頼みます」


 頭をガンと殴られたような衝撃。


 ()()()がそろそろ戻ってくる――――――――?!


 このところ忘れてたけど、アレ、あの悪ダヌキ、謹慎明けるんだ!!

 時間帯としては朝番と隊長番はモロ被りなわけで。うわぁ、サイアク……!

 よろしく頼むって言われたって、あたしだってただの衛士だし、それどころか新人だし、何をどうしろと言うのよ?!


 あたしは痛むこめかみを押さえて、がっくりとうなだれた。






 次話 『申し子、雨期の中で 2』

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