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申し子、調合液について相談する 2


 大きな体を小さくしながら、先に部屋へ入っていくレオナルド団長。

 そんなすまなさそうにしなくてもいいのに。きっと心配してくれたんだろうし。

 ちょっと丸まった背中を見ながら、かわいい人だな……と思った。こんな大きくて屈強な近衛団の団長に思うことじゃないかもしれないけど。やっぱり大型犬みたいだ。


『クー。(レオしゃんのおうち来たことあるよ。つくえがお山なの)』


 そういえばシュカは団長といっしょに行ったことがあったっけ。机がお山?


「……部屋の間取りは同じなんですね。あ、でも置いてるものが違うから、雰囲気も結構違うわ……」


 広々としたLDKはあたしの部屋にはない執務机がどーんと置いてあった。部屋の中は片付いて綺麗なのに、大きな机の上だけが書類山積みでカオス。

 わかります。部屋はアルバート補佐が片付けているんですね!


 ふふっと笑うと、気付いたレオナルド団長が片手で口元を押さえながら顔を赤くした。


「あ……俺はあまり片付けが得意ではなくて……」


「レオさんはいろんなことできるから、苦手なことくらいないと」


「……そうか」


「アルバートさんが来るまで、お仕事していてもいいですよ。お茶入れましょうか」


「頼む。ではお言葉に甘えて仕事をさせてもらおう」


 シュカはさっさと団長の膝の上へ乗った。あたしがお茶入れるのを邪魔しないように、気を使ったのよね? そうよね? (多分、違う)


 キャビネットには見慣れない素敵な食器や茶器が並んでいて、さすが男爵様は宿舎備え付けの器具なんて使わないんだなと感心した。


 お茶を入れて、レオナルド団長に勧められたお菓子を食べていると、アルバート補佐がやってきた。


 配達の間に入ってくれる話はすぐに引き受けてくれたけど、報酬の話で揉めた。

 だって二人とも受け取らないって言うんだもの。


「――では、調合液(ポーション)を買い取っていただくというのはどうですか? 『銀の鍋(シルバーポット)』だけは今までと同じ値段でお願いしたいんですけど、他はどこにでもお好きな値段で売っていただいて構いません」


「それではユウリの儲けが少なくなるな」


「いえ、全部『銀の鍋』に売ったのと同じだけの儲けです。それで充分です」


 団長はうーんとうなった。アルバート補佐は眼鏡の縁に触れながら考え込んでいる。


「例えばそのお話に乗るとして、どこに売りましょうか。あちら(辺境伯)に売れば高く買い取ってくれるでしょうし、貴族間のやりとりに上手く使うでしょうけど……。少し(しゃく)ですね」


「そうだな。こちらで手にするのは高く売った分の儲けだけだからな。もっと効果的に……おっと、買い取る方に考えてしまったが、ユウリは本当にいいのか?」


 二人の話を聞いていて、ふと『町おこし』という言葉が頭をよぎった。

 男爵領、のんびりしていてとってもよかった。でも、辺境伯領の後に行ったせいか、何もないと思ったのも事実。

 人が増えれば経済も活発になるだろうし、そうすると税収も上がる?

 白狐印が人気あるというのなら、人を呼べるんじゃない?


「――はい。よかったら買い取ってください。男爵領では売らないんですか?」


「うちの領には調合屋がないんだ。もしかしたら食料品店(グローサリー)で少しだけ扱っているかもしれないが。うちみたいな人口が少ない町では、最初から転移でよその町まで買いに行くか、配達屋(ポーター)へ頼むかどちらかだから、店自体が少ないんだ」


 過疎の村みたい……。


「……お金がかかる話だから、提案の一つだと思ってくださいね? 売店、作っちゃいませんか? 景色が綺麗な場所に、領主邸みたいな素敵な建物の」


 大きくなった話に、団長は面白そうにあたしを見た。

 あたしの構想は、道の駅っぽいものを男爵領に作ったらどうかなということだった。道の駅メルリアード。あ、語呂もいい感じよ。


 町おこしに道の駅は王道でしょ。なんにもない町が個性ある道の駅を運営して、すごい集客数を誇るなんてサクセスストーリー、いくつもあった。


 白狐印の調合液と、男爵領の名産を売るお店。

 海が綺麗だったから、海の見える見晴らしのいいところに建てて、ちょっとした休憩スペースなんて用意して旅行気分を盛り上げて、よその領から来てもらったお客さんにお金を落としていただくのです!


「――――いいな。すごく面白そうだ。だが、そもそも男爵領で白狐印を売っているという情報をどう流す?」


「王都か辺境伯領都に、アンテナショップ……ええと、男爵領はこんなところです、遊びに来てねというPRするお店、それも作りましょう。そこで、白狐印を少量と男爵領の名産品、それと男爵領の売店の[位置記憶]した記憶石(アンカーストーン)を売ればいいと思います。白狐印が売り切れていたら、その記憶石で[転移]すれば買いに来れますから」


 面白そうに聞いていた顔が、キラリと目を光らせた。


「記憶石を売る、か。うん、面白い。アルバート、いけるか?」


「はい、すぐに。素晴らしい提案でした。ユウリ様、近々またお時間いただけるようお願いします。それでは、失礼しますね」


 アルバート補佐はお茶も飲まずに帰ってしまった。

 ええ? 用事いいのかしら? 調合液の話を聞きに来たわけじゃないわよね。何しに来たんだろう?


「……アルバート、書類を持っていくのを忘れてるな。こんなミス珍しい。よっぽどユウリの提案が魅力的だったのだろうな」


「そうですか? あたしのいた国では、そんな風に町おこしをすることがあったんです」


「町おこし、ぴったりな言葉だ。なかなか夢がある話だったぞ。その売店から街に発展していったら面白いだろうな」


 団長のワクワクしている少年みたいな顔を見て、うれしくなる。

 メルリアード男爵領の発展に役に立てたらいいな。

 あっ、田舎でスローライフ、男爵領でするのもいいかもしれないわね。






 部屋に戻って久しぶりにスマホのマップを立ち上げた。

 男爵領の地図を眺めようと思ったんだけど、目に入った『銀の鍋』のタグを見て驚く。

 あたしが付けた[調合液・マヨネーズ]と書いてあるタグには、イイネ! のフラッグが立っていた。

 そして新たな公開タグが付いていた。


 [マヨウマ!入荷求む!]






 次話 『申し子、魔道具に心躍らせる』

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