表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/160

申し子、調合液について相談する 1


 朝番は夕方に時間があるのがいいわよね。

 今のところ八時上番の[朝八番]専任になっているので、仕事の前にトレーニングもできるし、仕事の後にこうやって調合液(ポーション)を納品することもできる。


 目の前のカウンターでは、ミライヤがベビーピンクのツインテールを揺らして、回復液の確認をしているところだった。


「――はい、確かに受け取りました。あと、最近マヨネーズが売れるの早くて、数多めに入れてもらえるといいんですけど、どうです?」


「そうなの? マヨネーズが広まるのはうれしいから、がんばってみるわ」


「遠くから買いにきてくれるお客さんもいるんですよぉ。それで売り切れていると申し訳なくて。ユウリの負担が増えるのも本意じゃないんだけどなぁ……。悩ましいです」


「ありがと。やれる範囲でがんばるから、大丈夫」


 回復液はまだまだ在庫があるし、あとはマヨネーズ作ればいいだけだから問題ない。


「あ、そういえば、機能性能計量晶はもう買ったんですか~? 赤鹿(レッドディアー)狩りで貯まったって言ってましたよね?」


「そうそう! それがね……団長が知り合いのお宅で中古のがないか聞いてくれるって言うから、ちょっと待ってたんだけど……」



 ◇



 昨夜、レオナルド団長が部屋を訪ねてきたのだ。

 熟成された赤鹿の肉と、機能性能計量晶を持って。


「――この間の肉と、これはうちの長兄からだ」


「…………ええ?! な、なんでですか?! 新品に見えるんですけど?!」


「新品だな。場所を取らない最新型と聞いたぞ。ユウリが欲しがってるものを聞かれたから、そう答えておいたんだが。回復薬のお礼だそうだ」


 確かに団長の手にある機能性能計量晶は、水晶の下の土台がスリムで『銀の鍋(シルバーポット)』のものより小ぶり。


「はい?! 回復薬のお礼が最新型の機能性能計量晶っておかしいでしょ!! っていうか、お礼はもういただいてます! お肉やらお菓子やらたくさんいただいたじゃないですか」


「これは長兄から個人的なお礼だって聞いている。もらっておけばいい。白狐印の回復薬はお金を出せば買えるものじゃないらしいし」


 団長はそう言って、おかしそうに笑った。


「どこで手に入るのかもわからない、幻の調合液と言っていたな。ああ、そうだ、もし黄色のものが手に入るなら、買わせていただきたいと言われている。もしあれば買い取らせてもらってもいいだろうか?」


「ええ?! 幻?! もちろんありますし差し上げます! あたしが作っているっていうのは、ご存じないんですか?」


「ああ、あまり知られない方がいいと思ってな。気付いているかもしれないが、一応ユウリがどこかで買ってきたという(てい)にしてある。幻だから、もし手に入れば幸運というところだな。少し売ってもらえればそれで充分なんだが」


 とレオナルド団長は言うものの、調合液数本じゃ釣り合わないと思うのよ!

 差し上げます。いや、買い取らせてもらう。と押し問答を繰り広げ、買い取ってもらった挙句に、結局は情報晶を受け取ってしまったのだけど――――。



 ◇



「――――まぁ、そういうわけで、ピカピカ新品最新型の情報晶で性能を計ったものが、そちらになります」


「ひゃー! さすが次期辺境伯様、やることが違いますねぇ?!」


「本当にすごいわよね、たかだか回復薬のお礼に機能性能計量晶。びっくりよ」


「あ、たかだか回復薬っていうのには同意できません。白狐印の調合液、本当にすぐ売れちゃいますから。ただ、買うのはお城勤めの人たちで、本当に疲労回復に飲みたいだけって感じで、あんまり話題にのぼってなかったみたいなんですよ」


「お疲れの人たちが飲んでるのね。開発の参考にするわ。――ん? なかったみたいって過去形なの?」


「そうなんです。この間買った男の人が、奥さんにお土産に買っていったら、大変な騒ぎになったって言ってました。なぜか、社交界で話題なんだそうですよ」


 半目でじとーっとミライヤがあたしを見る。

 嫌な汗が背中を流れるわよ。


「ご、ごめん……個人的に売ったやつが、多分そういったところに流れてるんだと思われる……」


 そう、レオナルド団長からも、店主と相談した方がいいかもしれないって言われている。

 一つの店でしか売っていなくて売っているお店を特定されたら、危ないかもしれないって。

 無理やり売らされたり、貴族同士の争いに巻き込まれたり、作り手を教えるように脅されたり。


「ミライヤには悪いんだけど、他のお店にも卸してもいい?」


「うちのことは気にしなくていいですよぉ。他の店でも売った方が、作り手を特定されづらいと思います。間に誰か入ってもらうのはどうです? 販売店への配達をしてくれる信用できる人に。その方がユウリの安全も確保できて、ワタシも安心です」


 それいいかもしれない。

 ただ、心当たりになるような人いない。

 こっちにきて知り合ったの近衛の人たちばっかりだもの。みんな働いていて配達の仕事なんてできないわよね。


「……考えてみるわ」


「ユウリ、こういう時は地位のある人に相談ですよ! ね? いますよね? 身近に地位も人脈もお金も持っている人が!」


 …………いますけど、あたし本当に甘え過ぎだと思うのよ。

 なんだかんだでずーっとレオナルド団長にお世話されてる。知り合いが少なくて頼れる人も少ないから、どうしても団長にばかり言うことになってしまう。


「大丈夫ですよぅ。きっと相談されたがってると思います」


 されたがってるって……。

 まぁ結局多分、団長に相談するんだけど。なんかちょっと複雑よ……。


 ちなみに、白狐連れていると白狐印の調合液の作り手だと思われないかっていうのも、聞いてみた。

 そしたら「神獣の白狐を連れているような凄腕の獣使い(ビーストテイマー)は、調合液なんて作りません」ってきっぱり言われたわよ。えー、そうなの? 解せぬ。






 次の日、さりげなく聞いてみると、レオナルド団長が二つ返事で引き受けてくれた。


「わかった、下番後に部屋へ呼びに行くから待っててくれ」


 大変いい笑顔でございます。

 獅子様の晴れやかな笑顔は素敵だけど、なんというかこうミライヤの思うツボって感じでますます解せぬわ。


 夕方、部屋へ寄ってくれたレオナルド団長といっしょに団長の部屋へ向かった。アルバート補佐が来る日らしいので、いっしょに話をすることになっている。


「同じ棟なんですよね? 近くていいです……え?」


 あたしが見上げると、きまり悪そうな申し訳なさそうな顔をした団長が、となりの部屋のドアの前で立ち止まった。


「あ、いや、その、空いていた部屋がたまたま俺の部屋のとなりだったんだ。何かあった時にすぐに駆け付けられるからいいかと思って、勧めたんだが……。すまない……。言おう言おうと思っていたんだが……」


 身分証明具をドアノブのところにあて、ガチャリと扉を開ける。


「散らかっているが……入ってくれ」


 となりって誰が住んでるのかなって思っていたのよね……。

 レオナルド団長が、おとなりさんだったのね。






 次話 『申し子、調合液について相談する 2』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ