表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/160

獅子団長、警備副隊長からの信じられない話

 

 * * *



 俺、いったい何を見せられてるんだ……。

 マクディ警備副隊長は、油断すれば遠退きそうになる意識を必死に留めた。そのとなりには、同じく魂を飛ばしかけているエクレールがいる。


 笑う子も泣き、泣く子はおおいに泣き出す。近衛団の獅子ことレオナルド団長が、ふんわりと笑っている。


 昼食が載ったトレーをかいがいしく二つ持ち、当たり前のようにテーブルのとなり同士におきましたよ! 奥さん!

 当然のように調味料を回したり、これ恋人か、いや夫婦ってことですかね?!

 砂糖吐くわ!!


 なんだよもー、かわいくておもしろいユウリ嬢。憎からずっていうか、いいなって思ってたのに、すっかり団長が囲い込んでんじゃねーか。

 ユウリの方もまんざらでもない様子で、にこにこしながら団長を見上げているのも信じられない。あの獅子をこんなに手なずけるとか、猛獣使いなの? そういえば白狐もなついている。凄腕の獣使い(ビーストテイマー)かよ。


 マヨネーズとかいう卵のソースと同じトローリとした笑顔の我らが団長を見て、マクディは半目になった。

 確かにマヨネーズはめっちゃウマイけどさ。ってか、ユウリ嬢、料理も上手いのか。まったくもってずるいわ、団長。


 マクディはさらにちぇーと思うのだったが、そんなことばかりも言ってられない。

 早急にシフトをなんとかしないとならない。


 団長と別れ、警備室に戻ってからも、人員のリストとシフト表を見ながら頭をひねる。

 後はもうみんなに謝り倒して、休みを減らしてもらうしかない。ため息をもらしていると、休憩に入った昼番が警備室に顔を出した。


「副隊長ー、じーさまどんな感じだ? かなり悪いのか?」


 気軽に声をかけてくるのは、獣人の女性衛士ルーパリニーニャだ。マルーニャ辺境伯の姪だが、彼女の辞書に敬語の文字はない。


「過労だってさー。しばらく休みになるわ。なぁ、ニーニャ、お前の地元とかで誰か警備に入ってくれるやついねー?」


 ルーパリニーニャは怪訝(けげん)な顔をした。


「ユーリはいつ入ってくるんだよ。今、研修中じゃないのか? 早く入ってもらえばいいじゃないか」


「へ? そんな話聞いてねーよ? 書類整理している普通の令嬢が、警備になんか入るわけないだろー?」


「普通の令嬢? あれが? ププッ! ユーリの棒術はなかなかのもんだよ。あの殺さず確保するための型。あれ、絶対に警備やってたって」


「はぁ?!」


「朝、訓練場に行ってみりゃわかるよ。毎朝振ってるって言ってたからな」


「……マジか」


「アタシもう飯食いに行くから、エクレールにも聞いてみろよ。アイツも知ってるからさ」


 そう言い残して、ルーパリニーニャは出ていった。

 マジか。ともう一度マクディは思う。

 警備をやっていた光の申し子。そんな都合のいい存在がちょうどよく城に現れるもんか? てか、ユウリのあの小さく細くかわいい姿で、警備? なんかの間違いだろ?

 半信半疑のまま、早朝番の仕事を終えたエクレールにも聞いてみた。


「ユウリ様ですか? 棒術は素晴らしいですね。すぐにでもポストに入れるとは思います。……いや、でも……ひ……ですよ? そんな方に警備など……」


「何? ユウリの話か? あいつ出入り監視の仕事上手いのな。長官も適当にあしらってたし、ニーニャとリリーより上手いんじゃないか。あれってなんなのかね、性格なのか社交性なのか。そろそろポストインするのか? よかったじゃねーか、副隊長。っていうか、なんでエクレールはユウリに様付けなの?」


 同時に戻ってきたリドまでそんなことを言いだす。


 なんか、俺たちが知らない光の申し子がいるらしい――――?


 狐につままれたような気持ちのマクディは、とりあえず団長に報告しようと、そのまま近衛執務室へ向かったのだった。



 * * *



「――――と、いうわけなんですけど……」


 報告を終えたマクディ副隊長が、困惑しきった顔でこちらを見ている。

 多分、俺も同じ顔で見返しているだろう。


「確かに、ユウリは不思議な棒を持っている。だが、あれは魔法使いの杖(メイジズワンド)で、殴ったり棒術に使うようなものじゃなかったぞ」


「でも、ニーニャもエクレールもなかなかの棒術だって言うんですよ? 魔法を使う時の杖として使っているなら、素晴らしい魔法の使い手だって言いますって」


 それは確かにそうだ。第一、城の敷地内では、生活魔法の初級魔法しか使うことができない。訓練場で水を出して見せたりはしないだろう。

 ルーパリニーニャもエクレールも、嘘をつく性格ではない。

 が、ユウリのあの華奢な体で、棒術と言われてもにわかには信じられないじゃないか。


 だが、もしも、本当にユウリが警備をやれたとする。

 近衛団警備隊は貴族の親族か、国軍に五年以上在籍した者でないと入隊できないが、特例もあるし……そうか、うちの親族として入れるな。陛下も駄目とは言わないだろう。入るのに問題はなさそうだ。


 ユウリにとってはどうだろう。

 調合師として楽しい時期のようだし、警備をやらせるのはかわいそうな気がする。

 彼女は根が優しいのだろう。「役に立てるのはうれしい」そんな言葉を、何回か聞いた。

 そこに付け込んではいけないと思うのと同時に、そこが警備にとってのかけがえのない資質のような気もした。


 そして俺自身は。

 もちろん、近衛団団長としては、入隊の勧誘はしなければならないのだと思う。しかし……俺は……。

 大勢の目に触れさせたくないと思う。本当は、執務室にかくまっておきたい。

 しかし、初めて会った日に見せた、美しい答礼も思い出した。

 そうだ、なぜ忘れていたのか。こめかみ横にピンと揃った指、完璧な敬礼だった。その姿は格好良く、一瞬見惚れたのだ。

 あの姿をもう一度見たい気持ちもある――――。


「まずは明日の朝、確認してからだな……」


 俺はマクディと目を合わせ、うなずいた。






 次話 『申し子、見せる』 一章最終話

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ