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申し子、ダンジョンで見たもの


 カーブを曲がると、となりを歩いていたシュカがふわっと小さくなった。


「シュカ?!」


『クークー(魔が足りないの。元のいきに戻ったの)』


「元の域に戻った……?」


 さっきは魔の領域で、今はいつもの領域ってこと?

 立ち止まり振り向いたレオさんも指をあごにあてている。


「元の領域ということか? 魔素の量が違う場所ということだろうか……。ただ、俺には違いがまったくわからない」


「わかりませんね……」


 さっきは立ちくらみのようなものがあったけれども、あれも気のせいと思えばその程度のものだった。

 正直、“魔”のあるなしはよくわからない。


 シュカはその後も進むたびに白狐になったり小さく縮んだりを繰り返している。


『――――違う世界といえばいいのかな。世界同士がちょっと重なってるの』


 ひょろりと白狐姿なったシュカは、となりを歩きながらそんなことを言った。


「この世界と魔の世界?」


『うん、まぁそうかな。そういうところから魔の気が流れ込んでるみたいだよ』


「――――え、ちょと待って。もしかしてこの世界の魔素って、違う世界から流れ込んできているものなの?」


『そうなんじゃないかな?』


 ということは、もしかしたら魔の世界とやらと切り離したら、魔法のない世界になるということ……?

 魔法のない世界といえば、元いた世界がそう。

 同じ神様が見守るこの世界とあの世界は、たしかにさほど離れた世界ではないのかもしれない。


 シュカはふと立ち止まって、耳をひこひことさせた。


『…………ねぇ、レオさん。この先はちょっとまずいかもしれないよ――――?』


 すぐにレオさんはあたしをうしろに守るように、構えた。

 少しすると、音とともに奥から何かが来る振動を感じる。

 通路の向こうから勢いよく現れたのは冒険者姿の男の人たちだ。


「――――デライト卿か?! 逃げろ!! 魔物どもが暴れ出した!! 入り口を封鎖するっ!!」


「なにっ?!」


 レオさんに抱えられた時、シュカが口を開けてズズズゾ――――っとあたりの気を吸った。


「シュカ!!」


『魔の気いっぱい! まんぞく!』


 コ――――ン!!

 高く鳴いて身軽に跳ぶと、奥から追って出てきた有象無象たちに襲い掛かった。

 物理的にありえない大きさに開いた口からは牙がのぞき、うねうねしたものを噛みちぎっていく。

 あっ……これ、どっちが魔物かわからないわよ…………。


 レオさんもいつの間にやら取り出した長剣で、巨大海兎ジャイアントシーヘアだの大蛇などを薙ぎ払っていく。

 刃に何か付与されているのか金色の光が残像のように軌跡を描いた。


 ――――これが国王陛下の獅子の勇姿――――……。


 そんな場合ではないというのに、思わず見惚れてしまう。

 大きな体は重さを感じさせずにひらりと跳ぶ。


 なんてなんてかっこいいのでしょう――――……!!

 え、この素敵な人があたしの未来の旦那様なんて、うそでしょう…………?!


 ギルドの人たちも気を持ち直し、魔法を打ち込み始めた。

 その後戦いはすぐに終わった。

 ええ、ふわーっと見惚れているうちに終わってしまいましたとも。


 そして今、すごい色に染まった白狐だった生き物が、目の前に。

 悪夢のような灰色のグラデーションを中心に、地獄に染まったような赤黒と冥界のヘドロのような緑がアクセントを添えている。


「[洗浄(アウォシュ)][清浄(アクリーン)][乾燥(アドライ)]!」


 あ、やり過ぎた――――――――と思った時には、もうシュカは小さくなっていた。


『クー』


 ちょっと力が入っちゃって、範囲が広くなってしまったらしい。周囲の魔素を使い過ぎた。

 何か言いたげなシュカが見上げているけど、仕方ないのよ! すごい色だったんだもの!

 はっと周りを見ると、ダンジョンのあたり一帯が大変きれいになっておりました……。

 レオさんが困った顔をして笑った。


「……魔核が取りやすくなってよかったが……」


 汚れひとつなくキランとした魔物・魔獣の死骸は、寿命で安らかに旅立ったのだと言ってもだませそう――――なわけない。シュカが噛みちぎってブツ切りだ。


 冒険者ギルドのみなさんは固まっている。


「魔量怪物…………?」


 ぼそりと声が聞こえた。

 つぶやいた人は周りの人たちに「子爵夫人になんてことを!!」と殴られていたけど、その通りなので引きつり笑いするしかない。

 口止めをお願いしておいた方がいいのかな。

 ちらりとレオさんを見ると、うなずいて笑った。


「支部長。すまないが、この件は口外無用で頼みたい」


「――――承知した」


 納得はいかないだろうなと思うけど、さすが冒険者ギルドの支部長。

 しっかり飲み込んだようだった。


「とりあえず、一旦外に出よう。新たにわかったこともあるし、会合を開いた方がいいかもしれない」


 魔核だの蛇の皮だのを回収して、あたしたちは帰還した。




 ◇




 すぐに開かれた会合には、冒険者ギルドの人たちと領兵団の人たちの他に、テリオスさんとミライヤが呼ばれた。

 本当は国土事象局現地調査部に報告できるといいんだけど、来てもらうのに時間がかかるので、とりあえずでこうなったと。

 テリオスさんに間に入ってもらうことが織り込み済み。まぁ、それがなくてもダンジョンとか魔素の話に詳しいからメンバーには入れられると思うけどね。


 ミライヤに関しては、ご意見番。あたしの師匠だし……。

 引っ越し途中だっただろう二人は突然呼び出されて、はてなマークを頭に浮かべているみたいだった。


 先ほどのあれがどういう状況で起こったのかレオさんが説明を求めた。

 話をふられた、いかにもベテラン冒険者という風貌のギルドの支部長が、難しい顔で口を開いた。


「魔物は元々たしかにそこにもいた。だが、さらに目の前で吹き出したんだ。あれは、多分――――――――規模の小さい魔素大暴風だろう」


 その場がしんと静まり返る。息づかいも止まったかのように。

 前回の魔素大暴風から時間はそんなに経っていない。

 記憶がまだ新しい、今。

 その場にいた全員の顔が厳しいものとなった。






いつも応援ありがとうございます!!

物語も終わりに向けてまとめながら書いているので、前話に直しなど入ることもあります。スミマセン…。

大きく変わるものなどはお知らせしますので、どうぞご了承のほどよろしくお願いします~!

('ω')ノシ

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