申し子、ダンジョンへ行く 2
※ぬめぬめ軟体君が苦手な方はご注意くださいませ!
ごつごつとした岩肌に囲まれた通路が下へ続いている。
明かりもついているし、足場は木材で階段になっていて降りやすくなっていた。
「歩きやすくなってるんですね。もっと暗いのかと思ってました」
「入り口近くの階段は人通りが多く、事故も起こりやすい。安全のためにここだけ明るくしているんだ。フロアに着いたら初級魔法の[暗視]を使うといい」
しばらく下ると階段が終わり、前方へ伸びる通路へと変わった。そこそこ広さがあり、三人横に並んで歩いても大丈夫なくらい。
「足元の整備はしてあるのだが、どうだ? 歩きづらくないか?」
「だいじょうぶです。行けます」
先をレオさんが行き、斜めうしろをついていく。
シュカは毛を立たせてふわっふわになりながら肩から降りて、となりに並んだ。
『クー! クー!(行くの! なんかすごいの!)』
背中を丸くしてぴょんぴょん跳びながら歩いているけど、何がすごいの……。ちょっと怖いんだけど…………。
そういえば、前にダンジョンができた時も毛が立っていたわよね。魔の気が多いとかなんとか。
ダンジョンは魔の気が多いものだのだろうから、これが普通なのか……も……?
もう何度も来ているのだろうレオさんは、通路の分岐も迷わず進む。
曲がり角を曲がったとたんに、たちくらみのような変な感じがした。それと同時にシュカが煙に巻かれて変化した。
『――――ここ、地下じゃないよ』
そう言ってあたしの方を見上げたのは、子犬みたいな子狐でも縁が溶けかけているフェンリルでもなく。
まごうことなき白い狐だった。
「え…………シュカ…………? 狐になってるわよ…………?!」
『もともと狐だよ!』
「そ、そうだった!」
最近では子犬やフェンリルの他に、襟巻きという姿が増えたうちの神獣。そういえば白狐だったわ。
前にいたレオさんも目を見開いている。
「――――もしや、これが本当の姿なのか」
『そうだよ。魔の気がたっぷりないと戻れないんだ』
コン! と短く鳴いて空で一回転して見せた。
狐だ。狐の妖怪っぽい!
「ひょろっとして、かわいい…………!! 狐みたい!!」
『狐だよ!』
あたし、ひょろっとした生き物が特に好きなのよ!
猫とかイタチとかフェレットとか。
シュカはどんなでもかわいいけど、この本当の姿とやらは格別だ。
「それで、シュカ。地下じゃないと言っていたか? どういう意味だ?」
『ここは魔の領域だよ。いつもいる域じゃない』
「魔の領域」
『魔で作られた、魔の気に満ちた域』
さっき、平衡感覚を失うような感じがしたのはそれか。
「…………何度も通っているのだが、何も感じたことはないな。だが、たしかに魔物が出るのはこの先だ。ユウリ、行けるか? 無理せず戻ってもいいんだぞ」
「行けます。ここまで来たら、ぜひダンジョンを味わってみたいです」
「そうか。それならよかった。――――ほら、ご希望のモノが来るぞ!」
ズルズルと引きずるような音が近付いて来る。
曲がり角の先からぬるりと現れたのは、大猪くらいの大きさのアメフラシ(紫色)だった。
「――――ひぇっ!」
なんかいろいろ思ってたのと違う?!
「巨大海兎だ」
「海兎?! そんなかわいいものです?!」
「ほら、ツノのところが兎みたいだろう?」
いやいやいやいや!! 紫アメフラシだし、紫カタツムリ(殻なし)ですよねぇ?!
巨大海兎はぬめぬめと動きながら突如ずるんっと立ち上がり、紫色の液体を吐き出した。
『シュ――――ッ!!』
威嚇?!
驚いているうちに、レオさんが呪文を放っている。
「[創風紐][創氷枷]。――――ほら、ユウリ。好きにしていいぞ」
魔法で縛られ足止めされた巨大海兎をさあどうぞと差し出され。
座り込んだシュカがなんとなくチベットスナギツネのようになっている気がする。
…………なんかチガウ。激しくなんかチガウわよ…………。ダンジョンで魔獣と戦闘ってこういうのじゃないと思うの…………。
大変いい笑顔のレオさんに抗議することもできず、あたしも呪文を唱えた。
「[創風紐]」
赤鹿とかはこれで絞めて獲っているからとりあえず使ってみたけど――――。
「ユウリ、それは止めた方が――――……」
止める言葉は一足遅かった。
魔力にぐっと力を込めて絞めたところで、巨大海兎は上下真っ二つにぶちっと切れた。得体の知れない紫色の液体をまき散らしながら。
レオさんがとっさに抱えて後ろに下がってくれなかったら、かかっていたかもしれない…………。
「ひぇぇ…………」
「あー……この魔獣には雷系の魔法が効くんだ。海のモノはだいたい雷でいい。凍結系でもいいな」
「雷系ですね……。[創雷槍]……だったかな……」
「それは使用魔力が多…………いや、なんでもない。それでもいいぞ」
『ユウリ、あれ食べる?』
シュカが鼻先で示すのは紫色の身。
「うっ…………食べられる魔獣肉を獲りたいとは思っていたけれど、それはさすがに食べられないでしょ…………」
『ちょっと違うやつだけど似ている小さいの、日本のどこかで食べてたよ』
「…………マジか…………」
日本人チャレンジャーが過ぎる…………。
「鑑定」
|ジャイアントシーヘアの身
|食用可(要加熱)※毒有
|下痢に効く:小
|特定の病に効く:中(※体液)
ウソでしょ…………。
毒はあるけど食用可っておかしくない?
それに薬にできそうな効果がついてる。ああ、そうか。病気の細胞にとっても毒ってことかも。でもアレの体液とかイヤ過ぎる!
「……レオさん、アレってこのダンジョンで結構出ます?」
「そうだな、すごくたくさんではないが稀ってほどでもないな」
「それなら師匠に相談して必要ならまた獲りに来ればいいかな……」
正直、持って帰りたくない。
薬になりそうなものを素通りするなんてアリエナイ! と大騒ぎするベビーピンクの頭が脳裏にちらついたけど、無視することにした。
いや、だって毒々しいし。実際に毒有って鑑定されてるし。触りたくないです……。
そしてなんとなく食べたそうにちらちら見ているシュカを急かして、あたしたちは先に進んだ。
今後の更新予定としましては、遅くとも隔週で更新したいと思っています。
あと数回で最終回予定なのでがんばります!
ではではみなさま元気でお過ごしくださいね~('ω')ノシ