申し子、新築物件内覧会
お待たせしました!
目の前で起こった出来事に呆然としているのはあたしだけだった。
まぁそれはそうでしょう。みなさんにとっての建築はこれが普通なのでしょう。
って、異世界の建築、おかしいよ!!
「レオさん……。レイザンブール城より大きく見えるんですけど……」
「ああ、ダンジョンのある中庭をぐるっと囲っているからだろうな。建物自体はさすがにレイザンブール城よりは小さく作ったぞ」
あ、その辺は何か忖度的なものがあるのね……。
石造りの建物は、レイザンブール城やゴディアーニ辺境伯領主邸よりも堅牢に見え、城というよりは軍事施設や砦の雰囲気だ。かっこいい。
海側のこちらは真ん中に入り口があり、向かって右側が領兵舎。一階は執務室や応接室やミーティングルーム、トレーニングルームになる。二階は食堂と宿舎。
左側が冒険者ギルドの出張所で、冒険者ギルド・ゴディアーニ支所との転移ゲートと簡易受付、それに食堂と売店が入る。二階は宿屋と食堂。中庭に面した部分がちょっとしたテラスになっていて、中庭を見下ろしながら食事ができるようになる予定。
兵舎の方も冒険者ギルドの方も、一階は外からの入り口が正面にひとつだけで、中庭へ出る出口は棟の中心にひとつずつになる。
ようするに中庭から中へ入る場合、冒険者ギルド内か兵舎内を通らないと外には出られない作りになっていると。魔獣や魔物をなるべく外に出さない対策ね。
広い中を見て歩く時間はないので、馬車で外側を回りその奥にある棟へと向かった。
一番山側にある棟が領主の居住区と執務棟になり、そこだけ三階建てになっている。
ここが近々、住む場所になるんだ……。
玄関は馬車寄せがあり表の玄関よりも立派だった。
領主へのお客さんもこちらから出入りするから、当然といえば当然だけど。
足を踏み入れると、シュカは一目散に中へ走っていった。
「シュカ! 変なところに入り込まないでね!」
『クー!(はいらないの!)』
シュカは初めての建物好きだよね。
しかもここは広いから、楽しめることだろう。
まだ何もない建物の中は広い。なかなかこの先どうなるのか想像もつきづらくて、ただガランとした中を歩いた。
「――――一階は来客向けと執務関連の部屋がほとんどだな。ユウリ用の談話室――サロンもあるが、他に何か希望があるか?」
「全然思いつきません……。こんなすごい所に住むなんて考えたこともなかったので……」
小市民からすると、観光施設かアミューズメントパークですよ、これ……。
正直に言うと、レオさんはおかしそうに笑った。
「そうか。後から変更もできる。何かあったら言ってくれ」
少しうしろに付いていたミライヤも「広い……中の移動に転移ゲートが欲しいくらいですぅ……」とつぶやいていたから、この国の人でも慣れない大きさなのね……。
玄関ホールからすぐの場所には大広間もあった。ダンスホールとか言われるような場所だ。
侯爵ともなるとそういった部屋が必要なのか……。ダンスホールなるものがあるってことは、ダンスをするってこと。ダンス……。今やっと現実を知って、震えてるわよ……。
他に端の方に使用人用の出入り口と階段があり、ランドリースペースなどができる予定になっている。
二階は執務室や書斎の他にメインダイニングと厨房が作られ、プレイルームやティールームやゲストルーム、あとは使用人食堂と居室ができる予定。
三階はわりと領主様のプライベートスペースが多く、中にサブダイニングやミニキッチンもあって、その他にゲストルームと使用人の居室となる。
「二階にも三階にもゲストルームがあるのは、人数が多かった時の予備的なものですか?」
レオさんはわたしの耳元でこっそりと告げた。
「大きな声では言えないが――――親しい身内は三階でそれ以外は二階ということだ。付き合いで泊めなければならないこともあるからな」
ああ、なんと貴族的な!
あたし、ホントにこういう世界で生きていけるのかな。
――――っていうか、肩を抱かれたままなんですけど…………!
「――――このまま抱きしめてしまいたい誘惑にかられている」
って、もう、信じられない!
つい先日まで全然そんなそぶりも見せていなかったのに!
慌てるあたしの顔を見てうれしそうにして、最近のレオさんはホントに悪い男です!
周りを見るとそれぞれ見て歩いていて、こちらのことを気にしてないみたいでよかった。
少しうしろできょろきょろしている、ミライヤとテリオスさんはちょっと大きさにおよび腰みたいだ。
「――――移動だけで疲れそうですよぅ…………」
「せめて執務室に近いところに部屋がほしい……いや、出入り口の近くの方がいいでしょうか……」
一応、裏階段と表階段で施設を分けて配置されるから、そんなに横移動はないと思う。
こんなに広いもの、ずっと右行って左行ってと移動していたら、時間ばかりかかってしまう。
使用人が使う階段の方に使用人の部屋や家事施設をまとめて作ったり、わたしも少しだけ意見を出させてもらった。
暮らす人のことを考えた配置予定になっているはずなのだけど……。
実際に住んでみないと、わからないかもしれないな。
「――――早くこちらへ引っ越したいものだな」
なんだかんだ言って、みんな楽しみなのだ。
レオさんのつぶやきに、あたしも大きくうなずいた。