表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/160

申し子、魔法で料理する

 

 マヨネーズ、マヨネーズ。確か卵黄一個と塩少々とお酢を最初に混ぜるんだけどお酢どのくらい入れるんだっけ。油も案外使ったような記憶がある。


 部屋で食材をキッチンに乗せながら記憶を探るが、なかなかおぼろげなもので。

 しょうがないわよね、手作りマヨネーズって二回くらいしか作ったことなかったもの。

 こんな時にスマホがあればすぐにダーグルでダグれるのに。って、スマホあるんだった!!


 魔法鞄に手を突っ込み、スマホを取り出し電源を入れる。アイコンは減っているけど、本当にいつもの画面が表示された。しかも充電がいらないって、便利になってるし。

 ダーグルを開けば見慣れたロゴが迎えてくれた。よかった、これがあればたいがいのことはなんとかなるわ。

 さっそくマヨネーズレシピをダグった。卵黄一個で塩小さじ一、お酢大さじ一、油適量な感じでよさそう。


 まずは卵に「[清浄(アクリーン)]」と唱える。生で使うからしっかりきれいにしないとね。

 卵白をスープボウルに割り入れて除け、卵黄だけ金属製のボウルに入れる。

 そこに塩と白ワインビネガーを入れて、泡だて器で混ぜる! 混ぜる! 混ぜる!

 よく混ぜてもったりしてきたらポクラナッツ油をちょっとずつよく混ぜ混ぜ。固さをみながら油を足して出来上がり。今日はちょい緩めの仕上がりだ。


 なぜか以前作った時よりも混ぜるのが楽だった。前と違うのは油と酢の種類だけど……ポクラナッツ油を使ったせいかな。これならちょくちょく作ってもいいかも。


 ついでに残った卵白と卵をもう一個と[創水]で出した水を薄力粉と混ぜ、なんちゃってクレープ生地を作った。

 あとはフライパンで薄く焼けばいいだけなんだけど、キッチンの大理石っぽい台の上には金属の輪が三つ置いてあるだけ。手前にボタンも付いているし、これがグリルだとは思うけど……。


 扱うものが火だし説明を聞かずに使うのもためらわれて、勉強も兼ねて魔法で作ってみることにした。

 お皿にスプーンで薄く延ばして、魔法書で呪文を確認しながら「[乾焼(アベイク)]!」と唱える。

 ブオッ。

 周りに熱気が舞い、お皿の上には焦げ茶色の物体が乗っていた。


 ……ちょーっと力入っちゃったかなー……。

 お皿にはなんの焦げ目も付いていないのが不思議。

 もう一回、今度は優しく優しく……「[乾焼(アベイク)]」。

 焼き目のない乾いた一枚が焼き上がっていた。見た目はかなりクレープ。

 こうなるとおもしろくなってきて次は[網焼(アグリル)]を使ってみると、所々に焼き目がついたチャパティ風に出来上がった。

 お皿じゃなくフライパンの上で魔法を使うとさらにいい焼き色に。熱伝導率の違いとかなのかしら。


 できあがったものは全部魔法鞄へ。多分、保存するには一番いい場所な気がする。

 シンクの横にある二段に分かれた箱は多分冷蔵庫だと思うけど、中を開けても冷えていないし、コンセントなんてものも当然ない。レオナルド団長が来たら聞いてみないと。


 調理器具や服を片付けているところに、ベルがリンと鳴った。

 はいはいーと玄関ホールへ行くと、真っ暗なはずの扉が光っており、レオナルド団長の大きな姿が浮かび上がっていた。

 来訪者がわかるようになっているみたい。この部屋、セキュリティも素晴らしいわよ。


 戻って来た団長は、大きなボストンバッグの魔法鞄からベッドへマットレスと新しいリネンを出してくれた。


「何から何までありがとうございます」


「いや、気にするな。大したことじゃない。――あとこれを」


 差し出されたのは、使い切りの紙の容器に乗せられた、蒸し野菜と焼いた鶏肉と目玉焼きと黒パンだった。


「食堂で買ったものだが、よかったら食べてくれ」


「あ、ありがとうございます……」


 栄養バランスもばっちりな一皿がうれし過ぎる。明日の朝の分もありそう。でも、三食もお世話になるのが申し訳ない気持ちにもなった。


 ――そうだ。


「ちょっと待っててもらえますか」


「ああ。構わないが、どうした?」


 焼いたクレープ生地を出して、買ってきたチーズを薄く切り乗せ、砕いたコショウをちょんちょんと乗せる。丸い生地を折りたたんで長方形にしてから、ポクラナッツ油をまんべんなく塗りフライパンに乗せた。魔法書をめくってお目当ての魔法を探す。


「……えーと……これこれ。[油揚(アディーフラ)]」


 火力に気を付けながら魔力を操作すると、ポクラナッツ油の香ばしい香りがふわんと漂い、きつね色の揚げチーズ巻きが出来上がった。

 お皿に乗せて、レオさんに差し出す。


「たいしたものじゃないんですけど、よかったら夕食の一品に加えてやってください。ワインにも合うと思います」


「これは……?」


「チーズのフライみたいな物ですね。実はさっきお城の外で買い物してきたんです。テキトーおつまみでお礼にもなりませんが」


「――この短い時間で街へ行ってきたのか?」


「はい。見たかったのでちょっとだけ行きました。駄目でしたか?」


「……いや、駄目というわけではないんだが……驚いたというか……ユウリは行動力があるんだな。そういえば料理の手際もいい。魔法を知らなかったとは思えないな」


「お世辞でもうれしいです」


「いや、世辞じゃない。本当に美味(うま)そうだ。ありがたくいただこう」


 獅子様はちょっと照れたように笑った。

 家魔具(かまぐ)(家庭用魔法器具)という道具たちの使い方も、忘れずに教わっておく。なんと玄関ホールにあるロッカーもどきは、洗濯魔具だって。

 レオナルド団長は「疲れていたら明日は来なくてもいいからな」と言い残して帰っていった。


 いやいや行きますとも。

 このくらいで疲れるような体力じゃないですよ?


 夜ごはんは、皮目パリパリのチキンと蒸し野菜にマヨネーズをかけてクレープ生地で巻いて食べた。

 このチキン、お城の客間でいただいたのと似てる。臭みはないけど味が濃いの。

 ちょっとだけかけたコショウが大変いいアクセントになっていた。あー、いい香り。マヨコショウってばマイルドで刺激的でたまらないわ。


 食後にスマホをじっくりと見てみれば、なんとダーグルマップが使えた。

 マップを開くと、現在地は大きな敷地の中の小さな建物の中となっている。すぐ下に大きな王城の形があり、レイザンブール城だとわかった。


 これ、この世界のマップだ。

 建物の名前が入ってないのが残念なところだった。

 ああ、でも、ラベルを貼ることができるから、少しずつ自分で作っていけばいいね。


 ここが『レイザンブール城』、お城を出て広場の前のお店が『銀の鍋(シルバーポット):調合屋』、南に下ったところが……多分この辺が「セイラーの麻袋」だと思うんだけどちょっと自信がない。行った時に正確な場所のラベルを貼ろう。

 ラベルは公開にしておく。もし他の申し子が見ることがあれば、情報を共有できるものね。


 スマホのアラームがあるから起きるのも心配ないし、明日からはいつものトレーニングも再開しようかな。

 人気動画サイトの「(おと)ってみた」で好きな作り手さんの曲を聞いて、ウェブ小説を読んで、ベッドでゴロゴロして、異世界らしからぬ夜は更けていくのだった。






 次話 『申し子、日頃の訓練が大事』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ