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申し子、婚礼の支度(そんなものまで買っちゃいます?!) 2


「「新年早々、お呼びいただきありがとうございます!」」


 嫌味というわけではなく、本当にうれしそうな師弟コンビが前子爵邸にやってきた。

 ヴァンヌ先生とミライヤだ。


『クー!!』


 シュカは大歓迎で二人のところに跳んでいった。

 いつもおやつで餌付けされてるものね……。


「いらっしゃいませ……? あれ? 来るの今日でしたっけ?」


 二人に来てもらうとは聞いていたけど、こんなに早いとは思わなかった。

 聞けば、待ちきれなくて早く来ちゃった。テヘ。ということらしい。

 でも、いいところに来てくれた! この後の衣装選びに大変心強いです!


 談話室での打ち合わせは、裁縫ギルド・デライト支部の支部長、副支部長、部下のお姉様たち十数名と、レオさん、アルバート補佐、マリーさん、ヴァンヌ先生、ミライヤ(膝の上にシュカ)の大人数で行われた。


 オシャレな雰囲気のヴァンヌ先生はやはりオシャレ番長らしく、あたしを上から下まで見ると、裁縫ギルドの人たちに言った。


「ユウリは小さいし細いから、しっかりパニエを入れないと子爵に負けるわね。あとはレースを立体的に縫い付けてボリュームを出したらいいと思うの」


「わたくしどもは大きいリボンを付けることも考えていたのですが、レースもよろしゅうございますわね!」


「ユウリはリボンってタイプじゃないわね。所作がきりっとしているから、かわいいのはやめた方がいいわ。レースで優雅にした方が無難」


 褒められている気がしないのよ…………。


 裁縫ギルドのみなさんが、一斉にメモを取っている。

 ここで完全にヴァンヌ先生が中心となった。


「――――それで、式用のドレスは白なのね? 神殿で映えるように、パニエのボリューム増しのデザインで、うしろのトレーンもしっかり長くね。パレード用とお披露目用は邪魔にならない程度に盛って。色は――――希望があるのかしら? ユウリ?」


「青…………がいいなぁなんて思ってるんですけど…………」


「ふうん、青ねぇ……? デライト卿はご自分の衣装の色にご希望などあります?」


「黒…………だろうか…………」


 …………みんな生温かい目で見るのはやめてほしい…………。


「この寒々しい季節に、外のパレードで青と黒はないわね。その色はお披露目用にしましょう。ゴディアーニ辺境伯家で存分に愛し合っている姿を見せつけてきたらいいわ」


 言い方! ねぇ、言い方!!


 あとはユウリの好みで装飾してもらいなさいよと言われたけれども、ドレスのことなんてさっぱりわからないので、聞かれたままに答えていい感じにまとめてもらって第一回の打ち合わせは終了した。


 デザインがまとまり次第、布をどれにするとか第二回の打ち合わせがあるらしい。

 それもヴァンヌ先生が来てくれるそうだ。

 助かります! もう、どこまででもお迎えに行きますよ!


 裁縫ギルドのみなさんが帰っていった後、それまでおとなしかったレオさんの目が輝きだした。

 シュカを撫でながら生温かい笑みを浮かべていたミライヤもあきらかに笑顔の出力が上がり、ヴァンヌ先生はさっきよりさらに生き生きした顔になっている。


 ――――まぁ、あたしもやぶさかではないわね…………!


 アルバート補佐が、くるくると丸まっていた大きな紙をテーブルの上に広げた。

 それを前にして、レオさんは大変いい笑顔を見せた。


「さあ、ユウリ宮殿パレス……失礼、デライト城の計画に取り掛かろう」




 ◇




 温泉が噴き出してから、調査のためにずっと一般人の立ち入り禁止にされていたダンジョン。

 入り口とその付近の補強が済んで、出入り口の場所が確定したのだそうだ。

 ダンジョンの本体部分は魔素が壁を天然コーティングしているとかで崩れる心配が少ないらしい。


 レオさんはそのダンジョン入り口を中庭扱いにして、ぐるっと囲うような“口”の字型のお城を計画しているらしい。

 もし万が一ダンジョンの中の魔獣や魔物が出てきてしまった時に、この敷地内で閉じ込めておけるような設計にすると。

 なかなか体当たりだけど、領民を守りたい姿勢がとてもステキだ。


 でも、そんな危険があるかもしれない場所だから、あたしが住む場所は別に作りたいと思ってくれていたと――――。

 うれしいけど、それはちょっとさみしい。

 一応神獣のシュカもいるのだし、そういう場所にこそ申し子が住んでいた方がいいと思う。


 ――――まぁ、もうユウリの城を他に作るって言われないからいいけど!


 楽しみなのはみんなといっしょなので、熱心に予定図を眺めた。


「正面玄関から左右に兵舎と冒険者棟にわけて、奥を領主邸にしようかと思っている」


「それじゃ薬草畑はその奥ですか? 裏庭のあたり?」


「裏庭から山の方までが畑にできる場所だな。庭はユウリの畑にして、その向こう側の山までを領の畑とするのでどうだ?」


 ちらりとヴァンヌ先生を見ると、満足そうにうなずいた。


「デライト卿、地下は使われませんの?」


 メディンシア領立学園は地下の広い空間を薬草畑にしていた。

 雨風雪にも左右されず、便利そう。


「便利そうではあるが……検討中だ」


「そうですわね。地下のシステムはかなり高額ですから、無理なさらずともよろしいかと思いますわ。枠を作るのも資材を相当使いますし、外と連動した魔法光の周期システムと水の循環システムは、魔法陣の施工もその後の魔粒代もかなりかかりますから」


「え……そんなに大変な感じですか……」


「そりゃぁそーですよぉ。地下で地上と同じように栽培できるんですよ?」


「まぁ、そうだろうな。だが、金額は特に気にしない。父が城を建てると言っているから、俺が用意した分は余っているしな。いくらかかってもユウリが満足してくれるものを作りたい。――――検討中なのは、ダンジョンとの干渉を様子見ないとならないからなんだ」


 だから少し待ってくれるか? と、ここのところご機嫌続きで笑顔とお金の大盤振る舞い中のレオさんはにっこりとした。


 あたしはといえば、やった! うちのダーリン太っ腹! なんて思えるはずもなく。


 ――――婚礼とそれに付随するところに、この領主様はいったいいくら使うのだろうか、恐ろしくて聞けない…………!


 小心者で小市民の元社畜は震えながら笑みを返すのだった…………。






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