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申し子、聞いてませんけど?!

警備嬢終わっちゃう!という悲し気な声も聞かれましたが、もうちょっとだけ続きます。

よろしければ飽きるまでお付き合いくださいませ。


それでは暑い日が続きますが、アイスの食べ過ぎに注意して乗り切りましょう~

(;'∀')ノ


「お料理がいっぱい用意されていて、やることがなかったです」


「いつも作ってもらって悪いな」


「料理はキライじゃないですし、ここの厨房は広すぎなくて使いやすいから好きなんですよね」


「……ユウリは小さい家がいいとずっと言っていたな。新しい領主邸は、ゆくゆくは侯爵邸になる。だから、あまり小さくは作れないんだ。すまない。代わりにユウリ専用の使いやすいキッチンを用意しよう」


「…………え、ちょっと待ってください。侯爵邸に、なる? 子爵邸が侯爵邸になる? どういうことですか……?」


「前に、メルリアードとデライトの合併案が出ている話はしたな?」


 ダンジョンが男爵領に近いあたりにできたからって聞いたわね。

 合併した領の名前の候補に“豊穣の天使(メーテリア)”とかあって、恥ずかしくなるような理由だった記憶もあるけど……。


「聞きました……」


「合併して侯爵領になる予定なんだ」


「え……。侯爵ってかなり高い爵位ですよね? すごいですね…………?」


 ちょっと待って。

 レオさんが侯爵領の領主になるってことよね。

 侯爵領の領主ってことは侯爵になるってことで、結婚すると、あたし侯爵夫人になるってこと――――――――?


 あたしの顔色が変わったのか、レオさんは慌てた。


「――――っ! すまない! 合併したら爵位が上がるものなんだ。ユウリは知らなかったよな…………?」


「はい…………。それに、あの、子爵の上は伯爵かと思っていたんですけど、侯爵でした…………?」


「いや、伯爵で合っている。元々、海沿いは国防を担うからほとんどが侯爵領なんだ。この辺りはかなり昔にゴディアーニ辺境伯領から分けた領で、軍事力が高い辺境伯の影響も強いから大きさに合わせてそれぞれ男爵・子爵となったと聞いている。ダンジョンができたから伯爵、合併で侯爵へ上げると陛下がおっしゃってな……」


 さらに困った顔のレオさんから語られたのは、恐れ多くも国王陛下のお気持ち。

 光の申し子を守るのに、侯爵くらいないとだめだと前々から言われていたのだとか…………。

 今回、いい機会になったとお喜びなのだそうだ……。

 気にかけていただいていることはとてもありがたいのだけど――――……。


 ――――侯爵夫人とか、異世界から来た庶民にはムリじゃない?


「侯爵になると町の自衛団ではなく、領兵が持てるようになる。そのくらい領の力が強ければ、光の申し子を安心して任せておけるということだ。――――いや、その侯爵夫人にという話ではなく、住んでもらうのに侯爵領なら不足はないってことで、侯爵夫人がいやなら、その、婚約は取り消してもいい……」


 とても取り消していいという顔には見えない、失敗してしまったワンコのような顔。


 ええ、ムリです…………そんな顔の獅子様を突き放すなんて!

 だって好きですし?! 

 身分なんて気にしませんって、自分が下の身分になる時にしか使えないと思った。

 上の身分になるのは気にするでしょう。

 あ、でも玉の輿狙うような女子は気にしないのか。


「――――本当は喜ぶべきなんですよね、きっと」


「いや、結構いるぞ。貴族と結婚したくないという女性は」


「そうなんですか?」


「ああ。ミューゼリアもそうだ。王立学院の男などほぼ貴族籍を持つというのに貴族の男とは結婚しないと言ってな。泣いた男は数知れずだ。音楽の女神の前に、玉砕した男たちのむくろが山になっていたぞ」


 ――――ミューゼリアさんっ!!

 あの美貌ならそうでしょうそうでしょう。

 泣いた男子学生たちには悪いけど、死屍累々の中に降り立つ美貌の魔王を思い浮かべて笑ってしまった。

 レオさんはほっとしたように表情をゆるめた。


「だから、ユウリの思うままでいいんだ。喜ぶべきとか思うな。結婚ができなくても恋人でいてくれるなら、いや、そばにいてくれるだけでいい」


 こういう時、うちの領主様はすごくいじらしいことを言う。

 あたしはそういうのに、多分、とても弱い…………。


「あの、がんばります。……侯爵夫人なんて想像もつかないですけど、勉強します」


「…………ユウリ」


「今日みたいに、上手く対応できないこともあると思うんですけど、よろしくご指導のほどを…………」


 レオさんはあたしの手を取って、ぎゅっと握った。


「ユウリがそう言うのなら、その努力家な性格でどうにかしてしまうのだろうな。だが、そんなにがんばらなくていい。俺はそのままのユウリで笑っていてほしいと思っているんだ。――――ひとつ考えがあるんだが、聞いてくれるか」


 ワインを傾けながら語られたのは驚きの計画だった。

 あたしの気持ち次第だと言ってくれたそれは、きっと実行されることになるだろう。

 国王の獅子と呼ばれたレオさんだからできることで、あたしたちの未来のことを考えてくれた、この先が楽しみになるような話。

 そんな夢のような、でも現実になるだろう話をつまみに飲むワインは、とても美味しかった。

 






 ちなみに次の日早々、子爵領の前領主邸にゴディアーニ辺境伯がやってきた。

 そして土下座に次ぐ土下座を繰り出してあたしの動揺を誘い、なし崩し的に侯爵邸の建築費用を全額持つという約束を取り付けて帰っていかれました。

 なんでそんなにお金を出したいのですか、辺境伯様…………。


 最初からそういう話だったらレオさんに丸投げして、あんな恥ずかしいめにあわなかったのに……とちょっとだけ思っちゃったけど、うちの領主様や補佐がホクホクしているから、まぁいいことにしよう――――?






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