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申し子、昼餐会の準備中


「――――ユウリ、さっきからうわの空ね?」


 薬草の説明をしていたヴァンヌ先生が苦笑した。

 自分でも落ち着きがないのはわかっている。

 でもそわそわしちゃうのよ…………。


「あ……すみません。ヴァンヌ先生……。ゴディアーニ辺境伯卿から昼餐会に招待していただいて、落ち着かないというか……」


「あら、それはたしかに緊張するわね」


「うわぁ……。実質王家の次に高貴なご家族と食事ですかぁ。食べた気がしないんじゃないです?」


「ちょ、ちょっとミライヤ! そうやって緊張をあおらないで!」


 現在、王家の下の爵位の公爵家はひとつで、国王陛下の弟君の大公閣下。その下に辺境伯という爵位があると。

 侯爵、辺境伯のほとんどが海側の領地になり、他国からの侵略に備えている。中でも国軍が駐在する辺境伯は守りのかなめ。だから辺境伯は高位貴族の中でも特に高位で重要な家なのだ。


 そのあたりは聞いたり勉強したりで、だいぶわかるようになったのよ。

 そして、思えばレオさんはそんな高位貴族である辺境伯の一族。

 もちろん知ってはいたけれども実感がなかった。この国で暮らすうちに肌で知ることも多い。

 やっぱり、頭で知っているだけのことと、ちゃんと理解したことっていうのは違うものだった。


 あたしはひとつため息をついた。


「…………欲しいものを言わないから、直接聞きたいんですって…………」


 二人は驚くでもない様子でうなずいた。


「あぁ、なるほどねぇ……。ゴディアーニ卿、実力行使に出たのね」


「やっぱり薬草園もらっておけばよかったんじゃないです?」


「でも、いただいてもあたしの手には余るし。欲しいものは自分の力で手に入れた方がうれしいし大事にすると思うの」


「それはなかなか気概があってステキだけれども、貴族様には理解しがたいかもしれないわね」


「ワタシはユウリのそういうところ好きですよぅ」


 ミライヤの言葉にちょっと照れてしまう。

 わかってもらえて話を聞いてもらえるっていうのは幸せなことよね。


「それにしても、ユウリもだいぶ貴族様になってきましたね」


「え、え? そう、なの? そんなことないと思うけど……」


「だって、前は『着ていくものが! ドレスがわからない!』って大騒ぎしていたじゃないですかぁ」


「あははは……。今もそんなにわかってないけどね。マリーさんとかが教えてくれるしだいたいやってくれるから……。あたしの力じゃないのよ」


「そう、それですよ。ちゃんと人を使うところで使うということです。貴族ってそういうものらしいですよぅ?」


 いやいやいや、全然貴族じゃないし、貴族らしくもない。逆立ちしてもなれる気がしない。

 本当にまだまだしきたりとかわかってないから。根っからの日本の平民だもの。

 でも、デライト子爵領でがんばるならもっと勉強しなくてはね。


「――――ヴァンヌ先生、作業を止めてしまってすみませんでした。続きお願いします」


「ええ。では、傷用の薬草の説明をするわよ」


 傷用の薬草は緊急用治癒液に使うものと、あとさらに細かい効果が違うものが何種類か。

 そこから組み合わせて治癒液を作っていくことになる。


「先生、傷用も飲み薬ばかりですか?」


「飲み薬だけど、傷に関しては直接かけることもあるわね」


「かけると液体だと落ちてしまいませんか?」


「ユウリは使っているところをまだ見たことがないのね。調合液は魔力で作っているから水のように流れてしまわないのよ。もちろんドバドバかけ過ぎれば流れていくけれども」


 ということは、魔力が液体を患部にとどめる役目もしているということか。

 じゃぁ逆に、とどめておく役目を他が担うなら魔力がなくてもよかったりするとか?


「――――塗り薬というのはないんですか?」


「塗り薬?」


「はい。あの、傷に塗るというかのせる薬ってないのかなと」


 あたしがそう言うと、ヴァンヌ先生はカッと目を見開いた。


「ちょっとそれ詳しく」


「…………あたしが元いた国には魔力というものがなかったので、ぽってりとしたクリームみたいな、流れていかない硬さのものを傷につけたりしていたんです。さっきの薬草の説明も聞いていて思ったんですけど、魔力なしでそのままでもそこそこ効きそうだから、硬ささえ変えれば魔力が少なくても薬が作れるんじゃないかなって」


「それもっと詳しく!!!!」


 今度はミライヤがカッと目を見開いた。

 魔力が少ないのが悩みの調合師には気になる話かも。


 そして二日間かけてヴァンヌ先生指導の下、魔力なし水分少量で傷に効く薬草をすりつぶしたペースト状の薬を作った。

 なんというか、昔の薬というか大変時代錯誤な薬の様子。時代劇とかで見たことがあるような気がする。なんだけど、こちらの世界の人には新しいらしい。


「――――魔力がないって全然想像つかないけれども、すごいわね…………。それで生活していくなんて、信じられないわ…………」


「ホント、魔力が少ないワタシでも生きていけないです…………」


 あたしからすれば魔力っていうのがおかしいのですが。

 ゴリゴリと薬草をすりつぶしている最中、思わず魔力を込めそうになると二人はもどかしそうにしていた。

 塗り薬は結局最後に魔力を少し込めることで、薬の量が少なくても効果が高く出るように仕上がった。やっぱり魔力ってすごいわ……。

 これならたくさん作れます! とミライヤがホクホクしている。うれしそうでよかった。

 あたしも満足しながらできあがった薬を口の広い小さいビンにつめた。


 武力に長けた家であれば、ケガをする場面も多いと思うから傷用の薬はあって困らないんじゃないかな。

 これで、明日、辺境伯家へ持って行くおみやげもできた。


 いざ、昼餐会へ挑む!

 辺境伯卿の買ってあげる攻撃に負けないんだから!






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