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申し子、買い物に行く


 あっという間に掃除を終えて、とりあえず今晩のごはんを確保しに出ることにした。

 鞄の中身とか気になっていることはあるけど、何はともあれごはん確保。

 レオナルド団長が後で来るって言ってたけど、どうしよう。外が明るい時間のうちに行きたいんだけど。


 近場ならいいだろうと、まずは一階の厨房に来てみた。

 壁にしつらえてある棚には調理器具がずらりと並び、棚の扉を開ければ食器もきっちり詰まっている。

 ちゃんと手入れもされているみたいで、棚からぶらさがるフライパンはサビもなく油でほどよく保護されていた。


 こんなにあるならちょっと借りても大丈夫そうだ。自分で買い揃えるまでお借りします!

 小さめの両手鍋とミルクパンと中くらいのフライパン、まな板とザルとボウル、あとペティナイフとレードルとフライ返しなどを選ぶ。食器も大小プレート、スープボウル、グラス、カップ、カトラリーなども二つずつ選んだ。かなり最低限な感じ。足りなかったらまた借りにこよう。


 宿舎から外に出て東門を通り、お堀の橋を渡る。

 渡り切った横の公園は、昨日レオナルド団長の[転移]で着いた場所だった。

 団長の腕、太かった……。

 思い出してまた顔が熱くなる。

 [転移]ってあんな魔法だし、くっついてないとだめな魔法なんだろうけど。なかなか平静に対応しきれない事案だったわね……。


 公園の前のお店の看板に「魔粒あります」と書いてあるのが目に入る。

 魔法系のお店なのだろう。

 お城で働く人には、足りなくなったらすぐ買いにこれる便利な場所だ。

 覚えておこうと思いながらも通り過ぎようとした時、窓からちらりと見慣れた物が見えた気がした。


 今の、瓶に入った茶色のスティック状のって……!

 うしろ向きのまま歩を戻し、窓を覗き込んでみる。

 ――――やっぱりシナモンスティックに見える!

 周りの瓶も、黒い粒や茶色の種風のものや葉が入っているものなど、見覚えのあるものが多い。あの葉って、乾燥ローリエじゃない?


 あたしはドキドキしながら、ポーション専門店『銀の鍋(シルバーポット)』とかかれた扉を開けた。


「いらっしゃいませぇ。魔粒ですか?」


 お店のカウンターにいるのはベビーピンクの髪をツインテールにした女の子。あのかわいいピンク色、自然な色なのかしら。


「……こんにちは。魔粒ではないんですけど、ちょっと見せてもらってもいいですか?」


「どうぞどうぞ。うちは選りすぐりのポーションを揃えてます! ワタシが国中で探してきたポーションたちなんです! 職人さんによって味や効能に個性があるのを知らないお客さんが多いんですけどぉ、うちはいろいろ置いてますからきっとお好みのものがみつかりますよぉ」


 かわいい外見を裏切るオタク臭がする。目がキラキラ通り越してギラギラしてるし。


「見たいのはポーションじゃなく、材料の方かな。この辺の瓶とか見たかったんです。魔法鞄って預ける場所ありますか?」


「はーい。カウンターで預かります! お姉さん、調合師さんですか?! うれしい! よかったら買い取りもしますよ。うちは材料も種類多いと思います。産地とか聞きたいことあったら声かけてくださいねぇ」


 鞄を渡して、材料の乗った棚をじっくりと見る。シナモンスティックにはアデラと書かれ、黒い粒にはトト山コショウとあった。よく見ればガラスケースの中にはショウガやらニンニクも置いてある。

 こんなところにおいしい物たちがいるじゃない!

 お金さえあれば、スパイスが効いたカレーも作れるかもしれない。

 この国ではハーブや香辛料は食べるものではなく、ポーションの材料ってことらしい。こんなに揃ってるのに、あんなシンプルな料理食べてるなんてもったいないと思うの。


 あー、コショウ欲しいな。値段を見れば一グラムで二百レトとあった。

 高い。すごい高いわけじゃないけど、今のあたしには高い。でも欲しい! 大航海時代の貿易商の気持ちってこんなだろうか。


「……このコショウを二グラムください。あと粒を削る物って何かあります?」


「削る物ですかぁ……。うーん、コショウを削るのは聞いたことがないですけど、砕くなら瓶の底で叩けば少量に分けられますよ」


 それも粗挽き風でいいかもしれない。

 保存用にコルクのふたが付いた小瓶を二個と、()す用に売られているふきんも一枚買った。


 ついでに、食料品のお店も教えてもらう。このあたりは場所がいい分食料品がちょっと高いらしいんだけど、そのお店は目立たないところにあるから手頃な値段だという話だった。


 言われた通りに下っていく。と言っても坂を下るわけではなく、お城が王都の最北部にあることから、南側へ向かうことを下ると言うのだそうだ。日本でもそういう言い方する場所もあったっけ。


 目印の花屋を曲がると、こじんまりとした商店があった。

『セイラーの麻袋』と看板がかかっている。

 売っているのは粉と調味料と油とチーズ。日持ちのする物を売っているお店らしい。

 日持ちがするものはいいわねと思ったけど、魔法鞄があるから生ものでも大丈夫なのよね。やっぱりまだこちらの生活に慣れない。

 薄力粉、砂糖、塩、ポクラナッツ油、白ワインビネガー、セミハードのチーズを少量ずつ量り売りしてもらった。


 ものすごい悩みながら少量ずつ買うあたしがかわいそうに見えたのか、お店のお母さんが卵を三つもくれた。


「移民の子かい? これも持っていきな」


「え、いいんですか? うれしい! ありがとうございます!」


「いいよいいよ。あんた細っこいからね、しっかり食べてがんばるんだよ」


 そんなに細くはないんだけど。割と筋肉ついてるし。でもこの国の人たちと比べると、縦にも横にもちょっとずつ小さい気はする。


 また来ると約束してお店を出る頃には、傾いた日が街を金色に染め始めていた。もうすぐ茜色へと変わっていくのだろう。

 今日は素敵なお店を二店も見つけた。

 仕事が決まってお給料をもらったら、またいろいろと買いにこよう。何種類もあったチーズを試してみたいし、『銀の鍋(シルバーポット)』のニンニクとショウガも欲しい。


 そうだ! 塩と油と白ワインビネガーがあって卵をいただいたということは、マヨネーズが作れるということだ。

 よく読む異世界転移ものの小説でもマヨネーズが登場することが多いのは、作りやすさのおかげだと思う。


 中濃ソースやケチャップみたいに何種類もの材料をことこと煮込んで作るのは、やっぱりハードルが高い。醤油なんてどうやって作るのか、樽で寝かせるんだっけ? くらいの知識しかなく、とても作れそうな気がしない。


 それに比べてマヨネーズは比較的手に入れやすい調味料と材料で、かき混ぜるだけでいい調理方法。それであのおいしいソースができるんだから、材料が手に入れば作っちゃうわよね。


 うれしい。数日ぶりにおなじみの調味料を味わえる。

 もう一度宿舎の厨房に寄って泡だて器を拝借しようと、あたしはウキウキで城へ戻っていった。






 次話 『申し子、魔法で料理する』


キャラの個性としての日本語の乱れについては、大目に見ていただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

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