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申し子、できちゃった


「…………なんかすごい音がしました…………?」


「――――や、やだわ~、もう、ユウリったら! 何を鍋に落としたのかしら? 書類をおさえておくおもりかしら? 筋肉を作るための上げ下げおもりかしら!?」


「師匠、現実を見てくださいよ~」


『クー!!(すごくおいしそうなの!!)』


 もちろん、何も落としてない。

 そしてなんというか、ミライヤに抱えられてしっぽをふぁさふぁさとしているシュカが、不穏なことを言っているわね……。

 ()し器を通してサーバーへ液を落としても、当然、異物が発見されることもなく。

 できあがったと思われる液体を、機能性能計量晶が付きのスプーンですくってみる。


 |緊急用治癒液・上級

 |ほとんどの怪我を治せる

 |特効:美味 体の負担減(大)


「「「……………………」」」


 軽量晶が表示する文字を覗きこんで、絶句した。


 …………あたしが作ってたの下級だった、よね…………?


「――――――――や、やだわ~! もう、ユウリったら!! いつの間に上級の材料を入れていたのかしら?!?!」


「師匠! 現実を見てくださいってば!! ユウリは下級の材料しか使ってなかったですよね?!」


「…………ええ、そうね…………。逃避していても始まらないわね…………。ユウリが作ったのはたしかに下級だったはずよ。ということは、唯一入った量がわからないものが犯人よね……?」


 ――――魔力量。


「まさか、あの音って…………」


「いやっ! 怖いから言わないで、ミライヤ! 魔力はあんな音しないから!!」


 掛け合いをする師弟を見ながら、あたしは首を傾げた。


「……例えば魔力量が《《ちょっと》》多く入っちゃったのが原因だったとするじゃないですか」


「ちょっとですって?!」


 ええ、ちょっとです。ちょっと。


「――――それって何人かで魔力を込めたら同じことができるんじゃないですか?」


 キーッとなっていたヴァンヌ先生が、ふぅと息を吐いた。


「――――そうね、そう考えるのが普通だわ。だから昔からその実験はされてきたのよ。でも違う魔力が混ざると、効果が全部きちんと現れないのよね。雑味が出るというか、不純物が混ざってしまうというか。双子などでも実験されていて、魔力の質というのはその人それぞれ固有のものと考えられているわ」


『クークー(そうなの。みんな味ちがうの)』


 シュカの言うことを通訳したら騒ぎになりそう(主にヴァンヌ先生が)なので、黙っておく。

 ちなみに、同じ人が長時間をかけて回復液で魔量を回復させながら作っても、ダメなのだとか。

 鍋に火をかける時間が変わると、これも治癒液の効果が変わってしまうらしい。たしかに料理も煮詰まると味も成分も変わる。

 時間を変えないように、高級回復液をガバガバ飲んで魔量を回復して作った治癒液の効果にも変化はなかったのだそうだ。


「――――そんな実験までしたんですね…………」


「ええ。鍋をかきまぜながらミライヤに回復液を容赦なく口につっこまれて、お腹は痛くなるは、化粧室へ行きたくなるわ散々だったわよ…………って、ああ! ユウリ、魔量は大丈夫かしら? 具合悪くない?」


「はい。だいじょうぶです」


「……そう、だいじょうぶなのね……。ちょっとだけ確認させてちょうだい。――――今ので、どのくらい使った感じなのかしら…………? ほとんど残ってなかったりするわよね?」


「半分は使ってないと思います。まだまだある感じですけど」


 とうとうヴァンヌ先生は崩れ落ち、ぶつぶつと「光の申し子はアタシの手に負えなかったわ……。光の申し子は光の申し子という生き物で、人とは違う生き物に違いないわよ…………」とか言いだした。


「……ミライヤ、ヴァンヌ先生だいじょうぶなの?」


「うーん、多分? 放っておけばすぐに立ち上がると思いますけどねぇ。――――それにしてもこの“体の負担減(大)”は、初めて見ます……。これ素晴らしい特効ですよ~!」


 緊急用治癒液はいろんな事態に備えた薬なので、入っている材料の種類も多い。

 特に級が上のものほど、強く効くものが数種類入っているらしい。当然、体への負担は増すわけで。

 下級の比較的体に負担の少ない材料で上級ほどの効き目があるから、この特効が付いているのだろう。


「ワタシとしては、下級の材料で上級ができたことよりも、この特効こそがユウリの作る治癒液の真価だと思うんですぅ。これなら子どもに対してもわりと心配がいらないですしね」


 相変わらずミライヤは使う人のことを考えた見かたをする。

 そのミライヤに素晴らしい特効と言ってもらえたのがうれしい。


「うちに置かせてくださいと言いたいところですけどぉ、これはそのへんの小さな調合ポーション屋で扱えるレベルじゃないですよねぇ…………」


「そうなの?」


 あごに手をあてて悩ましそうにするミライヤのうしろに、ぬっとヴァンヌ先生が立ち上がった。


「そうよ。こんなのそのへんの店に置いたら、店主は脅され調合師は誘拐されて一生閉じ込められて調合させられるわよ。魔法ギルドを通して治癒院か冒険者ギルドか軍に卸してもらうか……。ああ、領主でもいいわね。――――よかった。ユウリが善良なデライト子爵に愛されている夫人で本当によかったわ…………」


「あ、愛されって! 子爵夫人じゃないですけど?!」


 お付き合いもしていませんが?!

 ヴァンヌ先生とミライヤは、あたしの言葉は聞こえない風に「よかったよかった」と言い合っている。できればこちらの話も聞いてほしい。


 そして、こうなったらもっとやってみようと、ヴァンヌ先生がやけっぱち実験を始めた。

 さらに魔力込めてみたら最上級が作れるかも! という実験。


 結果、作れた。


 ヴァンヌ先生は自ら実験を言い出したくせにまた崩れ落ち、「……光の申し子をどうして生き物だと思っていたのかしら……。あれはもう神だわ、神……。生き物でもないってことよ……」とブツブツ言い出したのだった。






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