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申し子、塔の町へ

お待たせしました!


 メディンシア辺境伯領都ミラーは、塔が建ち並び魔法陣が書かれた壁やオブジェがあちこちに見られ、その隙間隙間に畑があるという不思議な町だった。


 今、あたしはミライヤと雪がちらつくこの地に来ていた。

 ミライヤのお師匠様がいるという場所へ向かっているところだ。


「王都に慣れちゃうと、こっちは寒くて……ううっさぶっ」


 ここはミライヤの実家があり出身地でもあるらしいが、あまり帰ることはないという。

 やはり王都がいいんだって。

 あたしの首元にはシュカがくるりと巻かれているから、寒そうに首をすくめるミライヤよりまだマシ。


「ホント、寒いわね。デライト領はここまで寒くないんだけど」


「あそこは山に囲まれてちょっと引っ込んでるから、比較的暖かいし雪も少ないらしいですよ。でも、メルリアード領の方は雪多いでしょう?」


「そうなの。なかなかすごくて、もう積もってるのよ」


 新年が近い寒いこの時期は雪が降る。

 雪が降る場所は暮らすのは大変だと思うんだけど、おかげで『メルリアードの恵み』は雪が珍しい地域に住むお客様に気に入ってもらえているのだ。


「ユウリは新年祭はどうするんですか~?」


 何気なく聞いた風を装って、すごく期待している視線を向けられて、目を逸らした。


「……出るわよ……」


「今回はちゃーんと意味を知った上でのご出席ということでよろしいですかぁ?」


 う…………っ。

 前回の夏至祭の時は、社会科見学にお呼ばれしました的なノリで行って、後からミライヤに残念なモノを見る目つきで見られたものよ……。


「こ、今回は、ちゃんと、意味をわかって、出席します……採寸もドレスの打ち合わせもいたしました……」


「よろしい。ちゃんと成長していてワタシはうれしいです~」


 ミライヤはいい顔をして笑っているが――――果たして自分は、成長しているのだろうか。


 あの時。


『そういうところもかわいいし……好きだ』


 レオさんにそう言われて、驚いて混乱してそりゃぁもうあわあわとなった。あっぷあっぷのいっぱいいっぱい。

 そうしているうちに、レオさんはアルバート補佐に連れられて仕事に戻ってしまったのだ。


 何か言葉を返すべきだった。

 今ならわかる。


『あたしもです』


 とかなんとか一言返すだけでよかったんだ。

 その機会を逃してしまったために、「言わなきゃ」「でも今さらなんて」とぐずぐずしているうちに、時間が過ぎてしまった。

 この後どうすればいいのか、わからない。


 ――――だって、好きだなんて言われたの初めてなんだもの…………!


 思い出すと、顔が熱くなる。

 今ならごろごろ転がれば、この熱さでその辺の雪を全部溶かせそうな気がした。




 ◇




 魔法の町メディンシア。

 メディンシア辺境伯領は、レイザンブール国の北西に位置していて、辺境伯領もその近辺の領も、薬草と紙の材料にする植物をたくさん育てている。

 住むところが塔なのは住む場所を上下に伸ばして、畑の面積を確保していると。

 だから背の高い塔と、豊かな畑が混在する不思議な町になっているようだ。


 領立学園も、魔法に関しては王立学院と並ぶ高度な教育を受けられると、国中から魔法関係のことを学びたい者が集まって来るのだという。


 王立学院は高額な学費がかかるが、お金さえあれば入れる。お金がない場合は学費寮費が無料になる、超難関の特待生試験を突破しないとならない。

 その点、領立学園は学費が無料で、寮費も安価。孤児や成績優秀者はそちらも無料になるのだとか。すばらしいわよね。


 ミライヤのお師匠様は、メディンシア領立学園で教師と研究をしているのだそうだ。

 今は学年の切り替え時期で冬季の休暇期間らしく、学園内は閑散としていて温室や畑の世話をしている人をちらほら見かけるくらいだった。


「温室が多いのね」


「ここ、寒いですからねぇ。海風もありますし」


「ああ、潮風も避けているってことか」


「薬草は塩に弱いと思っておけば間違いないです――――あ、その塔です~」


 見上げれば、六階はありそうな塔だった。

 しかもとなりに同じような塔が建っていて、上階の方で橋でつながっている。

 こちらの世界に来てからは高い建物ってほとんどみなかったから、震える……。

 だって、王城だって三階建てだし、ゴディアーニ辺境伯領で見た灯台も、そのくらいの高さだった。


『クー!(たかいのー!)』


「こ、これ、上るの……?」


「だいじょうぶですよぅ~。階段じゃなくて、上に行く浮遊陣が敷いてありますから! 運動不足のワタシでも問題ナシです!」


「いや、違うのよ……。そういう問題じゃなくて、高さが……」


 転落事故のせいで、すっかり高いところがトラウマになってしまっていて、馬の背の上ですら怖いのに?!

 これを、上ると?!


「だいじょうぶです! 高いところが怖いって言っていた友人たちも、なんとかやっていけてました! 塔が倒れたこともないですし? さぁさぁサンディラング灯台から飛び降りる気持ちで、えいやっと行っちゃいましょ!」


 飛び降りるとか不吉過ぎ!!

 無理無理無理無理!!!!

 いやぁ~~~~~~~!!!!


 あたしは内心絶叫して、足を踏ん張ったのだけど――――ミライヤはあたしの腕をガッと掴み、塔の内部に連行したのだった。






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