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申し子、最初の記念の料理


 ――――正直、ここ『メルリアードの恵み』でも警備なのか……と思ったことは認めるわ。どこまでも警備と縁がある運命なのでしょう……。


 でも、ここの警備室はなかなか素敵。厨房の上の二階フロアで、ぐるりと一周ガラスが入っている。

 建物入り口側のガラス窓からは前庭が見え、その向こうの海までよく見渡せた。

 ダイニング側は、吹き抜けのフロアを上からガラス越しに見渡せるようになっている。

 階下ではゴディアーニ家のみなさんがテーブルへついているのが見えていた。

 ダイニング側からこちらは見えないガラスなので、気にならないだろう。


 そしてダイニングが見下ろせる場所においたテーブルには、ちゃんと本日お出しする料理と同じものがあった。

 三段プレートとメイン、グラスにカトラリーがきちんとセッティングされた様子は、とても美しい。

 改めて見て、ため息をついた。

 ――――感無量だな…………。

 きっかけは、三段プレートにお気に入りのおつまみを盛って、ワインが飲みたいというだけだったのに。

 こんなステキなお店で、ちゃんとしたメニューになるなんてね。


「さぁユウリ、俺たちもいただこう」


 レオさんに促されて、テーブルへついた。


 今回は働き盛りの男性と若い男子が多めということで、メインは厚切りの豚肉をソテーしたものだ。

 味見もしたし、美味しいのはわかっているけど、こうきちんと出されたものはまた格別よ。


「――――やはり美味いな。リンゴが肉に合うというのが、いまだに不思議なんだが」


 いい笑顔のレオさんが大きい口で食べている。

 デラーニ山脈のメルリアード領側に近い農場で育てられた豚は、魔獣肉っぽいさわやかな風味があって美味しい。

 それをリンゴやタマネギやショウガと、クノスカシュマメで作ったお醤油激似のマメソースを使ったリンゴソースでいただくと。

 同じリンゴだから当然シードルと合うのよ。

 他もシードルに合うパンキッシュと蒸し野菜が一番下のプレートに乗っている。


 二段目のプレートは赤ワイン用に、牛スネ肉の赤ワイン煮込みを中心にしたものなんだけど、男性用はがっつりオーブンウェアに入れたものとパン。女性用は小さい器に入れて、あとはチーズの盛り合わせにした。

 男女で分けたのは、今回は正解だった。もう結構お腹にたまってきたもの。


 牛肉のワイン煮込みは王城の『零れ灯亭』でも食べられたけど、こちらのものは調合材料であるスパイスとハーブを使ってより奥深い味になっている。

 男の人は好きかなと思っていたけど、うちの領主様もホロホロと崩れる柔らかい牛肉にちょっと大人な濃厚ソースを絡めていただくのが、お気に召したようだ。


「これは美味いな……。デラーニ山脈の牛ではないんだよな?」


「はい。メルリアードの南の方で育った牛です。こちらのも美味しいですよね」


 魔素の風味はないけれども、牛肉の味がしっかりして大変よい。魔獣肉っぽい爽やかな感じがするのはローレルの香りかな。


 ふと下を見ると、ちゃんとシュカの分のプレートも、フローライツ・フリーデ兄弟の間に用意されていて、食べさせてもらっているのが見えている。


 エヴァの子は長期の休みじゃないと帰ってこないと、前に聞いた。いつか休みの時にでも親子で食べに来てくれるといいな。


 そして最後の一番上の段は、デザートがのっている。

 小さいグラスに入ったブドウのコンポート、バターたっぷりビスケット、キャラメリゼしたナッツを入れたバターケーキ。


 キャラメリゼしたナッツはあたしが持ち込んだレシピ。このあたりの森は木の実も豊富だから、いろいろアレンジして食べたくなって作ってみたの。

 火加減にコツがいるけど、砂糖と水とナッツだけで作れて、そのままでもおつまみにいいのよ。キャラメリゼと赤ワインの組み合わせって好きだな。


 食後のお茶はダンドラの根のお茶だ。これも調合用の材料で、日本で言うところのタンポポの根。ようするにタンポポコーヒーね。

 これに気付いたのはつい最近。『銀の鍋』を何気なく鑑定して見つけたの。

 時々コーヒーがすごく飲みたくなるから、気付いてよかった。

 あたしが好きな深煎りコーヒーよりはあっさりしているけど、香ばしいコクがあってこれもナッツと合う。ノンカフェインというのもいいわよね。

 お口に合わない人のために普通のお茶や果実水も用意してある。

 タンポポコーヒーって、土みたいな味って言う人もいるからね……。


 階下の様子を見ると、みなさまタンポポコーヒーを飲んでくれているようだった。


「この茶も香ばしくて美味いな。苦みもあって甘い菓子がすすんでしまう」


「下に追加用のお菓子が準備してあると思いますけど、もらってきましょうか?」


「いや……午後の休憩の時間に楽しみをとっておこう」


「ではその時もダンドラ茶にしますね」


 レオさんの口にも合ったみたいでよかった。

 このお茶も、こっちで出して話題になれば販売所の方にも置けるかな。

 今後の正式なオープン前の貸し切りは基本、ポップ料理長がメニューを考えることになっている。もちろん、いっしょに考えることもあると思うけど。


 ヴィオレッタの誕生日会だけはあたしが担当する。好みが多少わかっているし、ちょっとでもお祝いしたいし。

 誕生日プレゼントに何かしたいなと思っているんだけど――――。


「レオさん、赤鹿って今、悪さしてないですか? 駆除の希望とかあったりしませんか?」


 そうたずねると、下心を見破っているだろう領主様は笑って言った。


「この近くの山で被害が出ていたかもしれないな。近々、凄腕テイマー様に依頼しようか」






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