申し子、調和日の仕事
闇曜日と調和日の勤務はちょっとだけツライ。
原則として政務休日なので、青虎棟正面口は閉まっている。だが、そこは原則という話。実際には休日でも仕事がある文官たちのために、納品口青虎棟側、警備隊で言うところの〔納品青〕は開いていたりするのだ。
納品口金竜宮側〔納品金〕の方は、王族が住まう金竜宮で働く人たちが通るから、いつもと変わらず忙しいのよ。
けど、〔納品青〕は通る人がほとんどいない。
特に調和日は少なく、ただただ立ってるだけ。ようするに暇疲れってやつね。シュカなんて、足元ですっかり寝ちゃっている。立哨は慣れているとはいえ、時間の進みが遅く感じるのよね……。
途中、今日は隊長番に就いているリド副隊長がちらりと顔を出した。
「ユウリ、お疲れさん。どうせ今日は来る人も少ないからなー、力抜いていけよ」
「――了解です」
いつも通りに返すと副隊長は苦笑し、ひらひらと手を振り戻っていった。
ごくまれに入る人がいるので、空話具で副隊長へ連絡し、使用する部屋を開けてもらう。使う部屋だけその都度開けるから、政務休日の隊長番は鍵番も兼ねているというわけ。
そして長い立哨の後は、巡回の時間になる。
調和日は王城の前庭の神殿が一般の人たちに開放されているので、庭を重点的に巡回する。
外の立哨も政務日より多く配置されているし、巡回者も何人もいるけど人数が多いに越したことはない。
納品口を出ると真ん前の休憩所が目に入った。まだ昼には早い時間だけど、賑わいを見せている。
その中で、テーブルに向かい合って座り、こっちに手を振っている人たちがいた。
『クー!(ミラしゃんとニーしゃん!)』
名前は略して呼ぶスタイルのうちの神獣は、片方をビミョウな感じに略して二人の名を呼んだ。
シュカのしっぽが肩の上でわさわさと振られているんだけれども……いやいや、まだお仕事中だからね。行かないからね。
大っぴらに手を振り返すわけにもいかず軽く手を挙げると、立ち上がったルーパリニーニャがテーブルを指差すゼスチャーをした。きっと、ここで待ってるってことだろう。あたしは了解というように敬礼で返した。
◇
巡回を終え、お昼の休憩時間。いそいそと二人の元へ急ぐと――――。
「お疲れさま~!」
そう言ってワイングラスを持ち上げるミライヤとルーパリニーニャは、すでにいい感じにゴキゲンだった。
――昼からお酒! うらやましいんですけど!
いいなぁという顔を隠さず二人を見れば、ニヤニヤしながらあたしの前におつまみだけ差し出した。
「ありがたくいただきます」
「酒はまた今度な。シュカ、こっち来い」
『クー!』
「ミライヤとニーニャの組み合わせって珍しくない?」
「そうなんですよぅ。神殿でたまたま会ったから、そのままいっしょに飲んでます」
なるほど。なかなかいい休日を過ごしているわね。
魔法鞄からお酒代わりの果実水の入れ物を取り出して、自分用のグラスとシュカ用のお皿に注ぐ。
おつまみを見回して肉料理が多いことを見てから、オムレツとマダラのフライとノスイカのマリネを取り出し、それぞれのお皿に盛りつけた。
「また美味しそうなものがぁ~!」
「――――ん?! これサクサクだぞ!」
『クークー(ユウリのふわふわたまごがいちばんなのー)』
分けてもらったおつまみの鴨肉のローストも美味しい。
やっぱり『零れ灯亭』のお料理は美味。味付けシンプルなのに、美味しいのよね。
「――そうそう、ミライヤ。お店で使っているビンって、どこから仕入れてるの?」
「うちは魔法ギルドからですね。ギルドに入ってると、ちょっとだけ安く買えるんですよぅ」
「なるほど……」
そうか、そういうこともギルドでやってるのね。あたしはまだギルドっていう存在を、ちゃんとわかってないらしい。労働組合的なものかと思ってたんだけど、ちょっと違うみたい。
ふんふんとうなずいていると、ルーパリニーニャがシュカを撫でながら追加情報をくれる。
「あとは、商業ギルドか細工ギルドだな。酒用のボトルなら農業ギルドでも扱ってるぞ」
「ビンって、いろんなギルドで扱ってるのね」
「そうですねぇ、液を入れるものとしては一番多く使われてますし、再利用できるから安くていいですよね」
そうよね、ビンっていいのよね。割れるのがなければ文句ない容器よ。物が壊れるのは仕方ないことだけど、ガラスは割れると危ないから。
二人の話によると、ビンは基本的には洗浄して再利用されているけど、欠けたり割れたりすると加工場に出されて、細かく砕いたカレットとなってガラス工房へと出荷されるのだとか。これ、日本と同じよね。
ちなみに、カレット加工場は、ビンがたくさん回収される王領と辺境伯領にのみあるらしい。辺境伯の姪であるニーニャが、ちょっと自慢気に狼耳をヒコヒコさせながら教えてくれたわ。かわいい。
「――――で、ビンがどうしたんです?」
「ああ、デライト領ってガラス工芸が盛んだったから、ガラス製品が入用なミライヤにどうかなと思って声をかけてみたの」
あたしがそう言うと、二人は生温い目をこちらに向けてニヤニヤとした。
「ふぅん……。営業ですかぁ」
「領主夫人の見本だなー」
ちょ、ちょっと……! そういうつもりじゃなかったのに! 解せぬ!
いつもお読みくださりありがとうございます!
12月10日に書籍が発売されました!
こちらをお読みの方でお買い上げくださった方もいらっしゃるかと思いますので、改めて深く深くお礼申し上げます。ありがとうございます!!
限界まで詰め込んだ分厚い一冊となっておりますw(京極堂には敵いませんが!)
まだご覧になっていない方は、よかったらこちらもどうぞ。
ぽぽるちゃ様の素敵イラストが見られますよ~!
警備嬢は、異世界でスローライフを希望です ~第二の人生はまったりポーション作り始めます!~
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