申し子、調査に行く 2
『クークー(このへん、葉っぱも魔の気がいっぱいなの)』
!
それは聞き捨てならないわよ!
(「薬草って生えてる?」)
(『うん。サラサラする葉っぱいっぱいあるよ』)
ブルムね。どの調合液でも使うという基材になる葉で、いくらあってもいい薬草なのよ。これといった特徴がない葉で見分けづらいんだけど、神獣が言うなら間違いないのだろう。
今、調合液に使っている薬草は、王城の畑の薬草を買い取らせてもらった物。だけど、そろそろちゃんと自分で、薬草の入手もしたいとも思っていたところだった。
「レオさん、この辺りに薬草が多いみたいなんですけど、少しいただけませんか?」
「そうか。この辺りはダンジョンができるかもしれないから、一面開発予定地としているんだ。いずれ草はなくなる。今のうちに好きなだけ採っておくといい」
「そうなんですか? それならよかった、ありがとうございます。――――もしかして、それで家が建ってないんですか?」
「ああ、そうだ。ここ数十年の間は建築不可地区に指定されて建てられなくなっていたんだ。主要街道沿いだし、昔は家も建っていたみたいなんだがな」
ということは、前領主邸が最前線ってことか。あんな優美な建物なのに、本質は砦だなんてすごいわ。
シュカに教わりながら採集しているうちに、なんとなく見分けられるようになってくる。
レオさんや、アルバート補佐も、興味あるみたいで手伝ってくれた。
「これは、[風刃]でいっきに刈れないものか」
「レオナルド様、それでは違うのも混ざってしまいますよ」
「そうだな……何かいい方法はないものか……」
レオさんの大きい体でしゃがみこんで草をむしっているのはなんかかわいいけど、長身だとこれ大変よね。
あっ、餅は餅屋よ。調合液の師匠ことミライヤに聞いてみたらいいかも!
「ちょっと聞いてきますね」
「――ん?」「えっ?」
「[位置記憶]」
手にしている記憶石にこの場所を記憶して。
「[転移]」
『銀の鍋』の前へと[転移]したのだった。
すぐにまた[転移]で戻って来ると、レオさんも補佐もほとんど変わらないかっこうで採集していた。
「――――戻りました」
「おかえ…………」
「お邪魔しますぅ。薬草摘み放題と聞いて来ましたー!」
ミライヤの挨拶に、二人が目を点にしている。
あたしとしては、とにかく無事に二人と一匹で[転移]できたことにほっとしているわよ。
「――――ミライヤ様、お店の方はどうされたのですか」
「もちろん閉めてきましたよ、アルバートさん! 午後から開ける予定ですぅ。調合屋は薬草あってこそですからね! まずは薬草。なにはともあれ薬草です!」
「そ、そうか。好きなだけ持っていってくれ」
「はいっ! ありがとうございます、団長さん……じゃなくてデライト子爵」
話もそこそこに薬草を採りだしたミライヤ。早い。すごく早い。見分けるのも早いし、抜くのも早い。
なんか早く採取できる方法ない? って聞きに行ったんだけど、そんなものはないです! 手で丁寧に素早く採るのみ! って言われたわ。やっぱり経験以外に上達方法はないってことよねぇ。
「群生地から採集する場合、普通は根は残すんですけどぉ」
「そうよね。葉だけ摘んでるわ」
「開発するなら残さなくていいってことですもんね。根ごといっちゃってください」
「……なるほどね」
「その方が早いし、根も調合に使えますからね」
根元を引っ張ると、思いのほかするりと抜ける。
「――――これは、楽しいな……」
「ええ。クセになりそうです」
レオさんとアルバート補佐も楽しいらしく作業が早くなっていた。
「ユウリ、それ、その裏が白い葉も採ってください! ムグモっていって良い効能が多い薬草です!」
「はい! 師匠!」
『クー!(覚えたの!)』
ビシバシと指示が飛ぶ鬼師匠の元、薬草採集が進んだ。
昼頃には何種類もの薬草の山ができあがり、あたしとミライヤはホクホクしていた。
「ええ~? ワタシが半分ももらっていいんですかぁ?!」
「もっと持ってってもいいくらいよぉ。ミライヤの方がたくさん採ってたもの」
「でも、子爵の領地で採集させてもらったわけですしぃ」
いやいやでもでも――といいながらもいい感じに二人でわけていると、レオさんが見ながら笑っている。
「――ユウリには薬草園でもいいのかもしれないな」
「薬草園、いいですね。素敵です」
あたしの何にいいのかはわからないけど、薬草園がいいのは間違いない。
「では、父に用意してもらうように言っておこう」
「ん? 父に用意してもらうって……なんの話ですか?」
「ああ、次兄の結婚の件でユウリに迷惑をかけたから、お詫びに何かしたいと言っていてな」
聞いてない、聞いてないのですけど?!
「デラーニ山脈に山ひとつ薬草園作ってもらったらいいんじゃないかと思ったんだが」
「いらないですっ!!」
山ひとつって!! コワイ!!
「ユウリー、辺境伯くらいの方には遠慮する方が失礼ですよぅ? いっそ、広大な温室も付けてもらっちゃいましょうよ」
「えええ?! 何言ってるのよ!! そんなの管理できないわよ?!」
「管理する人も付けてくれるに決まってるじゃないですかー。辺境伯様ですよ?」
って言われても! 日本の感覚じゃわからないわよ!
ダメです! 無理です! とやっとのことでお断りさせてもらった。
「むー、ユウリが薬草園のオーナーになったら、ちょっとわけてもらおうと思ったのにぃ」
「そうだな。うちの領にとっても調合液にしてもらえれば儲かるなと思ったんだがな」
ミライヤもレオさんもそんなこと言って、ちゃっかりしてるわよね。
アルバート補佐が用意してくれた大きな魔テントは、屋根だけになっていて日差しを遮ってくれている。風景は見えつつも日焼けは気にしなくてよくて、いい感じ。
支柱とか張る紐とかが見当たらなくてどうやって立ってる(浮いてる)のか不思議なんだけど、レオさんが言うには確か風の魔法陣が書いてあるはずだという話だった。
ミライヤは「テントはこういうものなんです。展開したらパッです」と言って平然としているので、魔法が当たり前の人にとってはこういう感覚なのかもしれない。
昼食の準備が済むと国土事象局の人たちも集まってきて、魔テントについてもうちょっと詳しい話が聞けた。
テリオス調査員が、テントの上面と下面に書いた魔法陣で浮かせるタイプですね~と、テントの布にうっすらと浮きあがる魔法陣を見ながら言った。
下から風で浮かせる魔法と上から風で押さえる魔法の二つと、周りの風をカットする魔法が書かれているのだそうだ。
「――――でも、なかなか古いタイプの魔法陣ですよ~。今は土系の魔法で下に引くのが多いし、風だけじゃなく外気の温度も調節できるんですけどね。書き方ももっと効率的ですし。一体どこの蔵から持ってきたんですか~?」
あっ……なんかわかった気がする……。
「辺境伯領主邸の地下に眠っていたものを拝借してきました。昔の遊猟会で使っていたものでしょう。このテーブルも椅子もそうです。眠らせておくなんてもったいないですよね。まだまだ使えるのだから使わないと」
アルバート補佐がなんでもない風に言った。
その通りですごい正論なんだけど――――それ本家の家のものですよね……? もうホント、みんなちゃっかりさんよね……。
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