無
2019年2月。僕は再び無職になった。
再就職をしようにも、心が折れて踏み出せない。
人と話をしない日が何日も続いた。
それでも踏ん張ってハローワークへ行ってみるが、人と話しをするのが怖くなっていて、どもったり、頭が真っ白になってあわあわとしてしまい逃げるように家へ帰った。
コンビニでバイトしていた時の友人から連絡があり、ボクは久しぶりに地元へ帰った。
電車に乗るのも久しぶりで、人のいない時間帯を狙ったのに具合が悪くなり、何度も途中下車をしてホームで休んだ。
地元の駅周りには高層マンションが立ち並んでいた。
飲み屋へ行く前に実家へ帰った。母に仕事を辞めた事。病気が実はまだ治っていない事を話したかったからだ。
家には妹だけが居て、一言挨拶すると妹は自分の部屋へ戻って行った。
リビングには植物が増えて、ソファは少しへたっていた。
隣には和室があり、父の部屋となっているのだが、襖が閉まっていて中の様子はわからなかった。
二階へ上がり、かつてのボクの部屋へ入ると、誰も読まなくなった漫画雑誌や古着でいっぱいだった。
それ以外には化粧道具や母のアクセサリーが置いてあり、今は母の寝室になっている事が伺えた。
その中で、勉強机だけはボクが使っていたものが残っていた。
勉強机の透明なテーブルマットにはボクの高校時代の証明写真とセロトニンとだけ書かれた小さな紙が挟んであった。
それを見た瞬間、四年前に彼女と別れた以来に涙が流れた。
母はテレビの情報をすぐに鵜呑みにし、何かにつけてはボクに自慢げにテレビで得た知識を話して聞かせた。
ボクはそれを軽く聞き流しているばかりだったが、全てはボクのためだった事をこの時初めて理解した。
もうこれ以上心配をかけられない。母には何も話さない事にして飲み屋へ向かった。
飲み会のメンバーは元々は4人組だったのだが、一人が三年前に家を勘当され、20代にしてホームレスになったりアルバイトを転々していたのだが、ある日を境にパタリと連絡が途絶えた。
LINEのグループには既読が着くのできっとどこかで生きているとは思う。
もう一人の友人はボクと同時期に仕事を辞めていた。
無職になってからは、溜まっていたお金で様々な場所へ一人旅行へ出かけたとの事で、その先で出会った大学生と付き合い始めたと興奮気味に話していた。
大学生の彼女は女性ホルモンの影響で母乳が出るらしく、それをプロテインで割って飲むのが好きだと彼は心底幸せそうに語ってくれた。
彼のおかげで、ボクの心は少し晴れた。その日は汚い彼の家に泊めてもらい、ハウスダストで目が腫れたので始発で東京へ帰った。
誰とも会わず、外にも出る事がない毎日が続く。
テレビのニュースでは桜の開花予想が出始める。
間も無くボクの嫌いな春がやってくる。
もういいかい。




