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キスされるかと思った。

「へぇ、本土とあんまり変わらないんだなぁ…」


 車の窓から眺めるその風景は、東京都心のそれと大して変わらなかった。

 競うように立ち並ぶ高層ビル。探せば直ぐに見つかるコンビニエンスストア。よくよく見ると、クレープ屋や、ゲームセンターなんてのもある。


 なんだか思ったより庶民に優しい島だ。


 面接という名の説明会が終わった後、学園長の計らいで学園専用の車を出してもらい、それに乗って俺と荻原さんは四天治学園の寮に向っていた。あの面接会場が学園なのかと思っていたが、どうやら校舎は別にあるようだ。

 30分ほど走ったところで、信号の無い場所で車が止まる。

 到着したらしい。


「では、寮に案内するので着いてきてください」


 そう言い、荻原さんが車から降り、俺もそれに続く。

 車から出ると、西洋の城を彷彿とさせる立派な建物が現れる。ここが学園であることは見た瞬間に理解したが、第一印象としては、《災能》持ちが通う学校というよりは、魔法使いが通う学校のようだった。


「学園長の趣味なんですよ」


 荻原さんが振り返って言う。


「趣味でこれだけの完成度って、凄いですね。……ただ――」


 おそらくは正門であろう建築物に目を移す。

 戦国時代、敵に攻めいられないように大きく頑丈に作られた日本史ドラマお馴染みの黒色を基調とした門。つまりは日本製城門がそこにはあった。西洋風な城の門なのに、だ。


「……それも趣味です。日本の心は忘れてはいけないということらしく…」

「……なるほど」


 いや、納得してなるほどと言ったわけじゃ無い。学園長が適当な人であるということについて納得したのだ。拘りがあるのか、無いのか?これでは、この区間だけお国が行方不明だ。


 そんなことを思いながら、城へと続く門を潜り、学園の敷地内に入っていく。中に入ると城は一層大きく見えた。


「あなたが住む寮は学園敷地内にあります。ここから少しありますので、建物の説明や簡単な規則を少々」

「あぁ、はい」

「とはいえ、詳しいことはルームメイトに聞くのが一番だと思います。その方が仲も深められるでしょうし」

「ルームメイト……」


 うぅむ、やっぱり緊張する。話題とかは一先ず荻原さんの言った通り学園について詳しくでいいけど、怖い人とか無口な人だった場合は詰むんじゃないのか?

 ま、今考えても仕方ないことだが……。

 ネガティヴ思考を頭の隅に追いやる。

 今はこれからの学園生活のため、荻原さんの話を聞いておかないと…!


 それからは不確定要素なルームメイトのことは考えず、学園について、荻原さんの話を一字一句聞き逃さないように懸命に聞いた。口頭であるから、ある程度分からなくても仕方ないとは思っていたけど、荻原さんの説明は分かりやすく、10分もした頃には学園内にある講義室の場所は見なくても分かるほど正確にイメージできるようになっていた。

 そして――


「あとはこの学園を仕切る……いわゆる生徒会のような人達なのですが――と、着いてしまいましたね」

「え?」


 ずっと荻原さんの方を見て歩いていたから気づかなかったが、目の前には月華寮げっかりょうと書かれた建物が 姿を現していた。まあ、現れたというよりは俺が気づいただけだが。

 それにしても、残念だ。

 いやなに、建物が残念なわけじゃない。外壁は綺麗だし、庭と思われる園芸スペースには色とりどりの花が咲いていて綺麗だし、思っていたよりもマトモであることにホッとしているほどだ。

 俺が今残念だと感じたのは、荻原さんの話がもう聞けないことについてだ。こんなにも人の話が聞きやすいと思ったのは初めてだったもので、実に名残惜しい。

 この感情は、寝る前の絵本を中断された時とよく似ている。


「そこまで思ってもらえて、とても嬉しいです」


 そう言い、荻原さんが俺に微笑みかける。

 そういえば忘れていたが、思考が読めるんだったか。やっぱり油断するとすぐに忘れてしまう。


「黒鉄さんは珍しいですよ?普通なら、常に思考が読まれていることに皆さん怯えて、私に近づきませんから」

「そうなんですか?まあ、最初こそ驚きましたけど、そこまで気にすることでも無いと言うか……読まれてもそこまで困らないですし」

「―――!」


 俺がそう言うと、荻原さんは目を見開き、まるで予想外といった表情をした。


「そんな人……いるんですね。ふふっ、ふふふふふ」

「え⁈なんか笑われること言いました俺⁈」

「いやぁ、マズイなぁと思いまして……」

「マズイ…?」


 と、俺が疑問に思い首を傾げると、荻原さんがいきなりずいっと顔を近づけてきた。


「――――⁈」


 あまりにもいきなりのことで、今まで通常通りだった表情筋が一瞬で固まったのが分かった。


「え、ちょっ⁈お、荻原さん⁈」


 あまりの近さに驚愕の声しか出せない。どちらかが後数センチ前に出るだけで唇が触れてしまう……それほどに近い。

 なんだか嗅いだことのない、新鮮な匂いがする……。ああ、きっとこれが、大人の香りというやつなんだろう…。


 ――って、何考えてんだ俺⁈今のは気持ち悪過ぎるだろ!ああああああ!なんだ⁈どうすればいいんだ⁈

 俺が心の中で頭を抱えて悶絶しながら転がっていると。


「……これって、あなたの《災能》のせいですか?それとも……」


 そこまで言い、一歩下がる荻原さん。先ほどまで鼻をくすぐっていた大人の香りが急に遠ざかっていく。

 た、助かった……!い、いや、助かった?なのか?

 距離は空いたが、表情筋はまだ固い。側から見たら今の俺はきっと、違和感ありありの引きつった表情をしていることだろう。


「……すみません。取り乱しました。これ、部屋の鍵と私の携帯の電話番号です」


 そう言い、荻原さんがポケットから鍵と、電話番号が書かれた紙を取り出し、俺に渡してきた。

 俺は何も言えずにこれを受け取る。


「部屋は入って左手直ぐの102号室です。何か問題があれば寮の固定電話から私の携帯に連絡を。あなたの携帯電話や貴重品は後日届くので、それまでは寮にあるもので生活して下さい。後日改めて寮の方に伺いますので、それまでは大人しくしているように」

「は、はい……」


 若干早口で説明する荻原さんに気押されながらも、なんとか返事はする。


「それでは、私はこれで」

「え⁈あ、はい!」


 荻原さんが俺の横を足早に去っていく。

 怒って……た?

 振り返り、遠くなる荻原さんを見ていると、ふとその足が止まる。


「そういえば……」

「はい?」

「あなたは自分の能力が誰かに害を与えられるわけがない……という風に考えているようですが。………私が出会った《災能》持ちの中で一番厄介ですよ…あなたは」

「え」


 再び荻原さんは歩きだす。

 その姿はどんどんと小さくなっていき、直ぐに見えなくなってしまった。

 俺はただ呆然としたまま、その場に立ち尽くしていた。


 マズイとか厄介とか、何言ってるのかよく分からなかったけど……とりあえず、


「キスされるのかと思ったーーーー……‼︎」


 誰もいなくなった寮前で、恥ずかしさからか、俺は意味もなく、染め間違った髪を掻きむしった。

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