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インクルード・チャーム

 

「なんで言ってしまうんですか学園長!心の準備をさせ、少しでも動揺しないように丁寧に知らせるのが私達の方針でしょう⁈」

「と、言ってもね〜。中々進まないし、そもそも自己紹介すらして無かったじゃん?君さ〜」

「……っ!」


 苦々しい表情をする女性と、それを見て不気味にもケタケタと笑う男。

 今の会話から察するに、男の方が上の立場にあるようだが、学園長とは一体?


「んんっ!」


 女性が咳ばらいをし、気持ちを切り替え、一呼吸置いてから再び話し始める。


「混乱しているところ悪いのですが、自己紹介がまだでしたので手短に。私は荻原由美(おぎはらゆみ)、一応学校の教師をしているものです」

「教師……」

「はい。そしてこちらは――」

「いいよいいよ、僕は学園長で。君も気軽に学園長と呼んでくれ給え」

「は、はあ……」


 指摘しといて名乗らないのか。

 正直、なんの教師でなんの学園長なのか全く分からないが、(あなが)ち俺が考えていた面接というのは間違いでは無かったらしい。少し修正するとするならば、会社では無く、学校だったということだろう。

 ただそうなると、結局は似たような疑問に至るわけだ。なんの学校か?と。


「そりゃあなんの学校か謎ですよね。というか、謎だらけですよね、全てに関して」

「――!やっぱり、心を……」

「はい。ただ、心……というよりは、思考を読むといった方が正しいですが」


 一筋の汗が頬を伝うのを感じる。半信半疑ではあったけど、まさか本当にいたなんて…。


「《災能》という名の病を患っている人間」


 学園長が呟き、俺は学園長の方に視線を移した。

 にやけ顔で学園長が続ける。


「10年前に突如として起こった正体不明の大災害。その爪痕とも呼べる人外の力、それが《災能》だ。様々な能力を人々が発症しているが、まあ《思考を読む》なんてのはレア中のレアだからねぇ。面接にはもってこいなのさ」

「面接……ですか?」

「ああ。君も部屋を見た時に感じただろう?まるで、面接みたいだなってさ」

「………あなたも、《思考を読む》能力を使えるんですか…?」


 俺の質問に、学園長は芝居めいた仕草で肩をすくめた。


「まさか。さっきも言った通り、その能力はレアだ。滅多にお目にかかれるモノじゃあない。……とはいえまあ、私も《災能》を持つ者である事に違いはないがね。……君も」

「………………」


 考える。考えても答えの出ない事を考える。

 いつからおれは《災能》を有していたのだろうか。俺は一体どんな《災能》を発症してしまったんだろうか。

 そして俺はもう……帰れないのだろうか?


「帰れません」


 ぴしゃりと、俺の疑問を断つように荻原さんが言った。

 文字通り、現実を…叩きつけられた。

 ああ……やっぱりそうなのか。

 俺は自分が今どこにいるのかを、すぐに理解した。


「……ここは、《魔能島(まのうじま)》なんですね」

「はい。正式名称は、《特殊災害派生能力者指定保護島》ですが」

「ああ、そういえばそんな長い名前もありましたね。忘れてましたが……」


 関わることなんて一生ないと思っていた島だ。正式名称なんて覚えているわけがない。それに、《魔能島》の方がよく知られている。


 10年前の災害によって発症した能力。つまりは《災能》を持った人間を、保護という名目で本土から隔離し、人工島での生活を強制する。その人工島こそが、《魔能島》だ。

 《災能》を持った人間に拒否権はなく、《災能》を有していると分かった時点で国外追放されるという噂だったが……噂は本当だったようだ。


 悪魔の能力を持った人間が住まう島で《魔能島》。誰が言ったか知らないが、酷い名前だ。何より酷いのは、その名前が正式名称よりも有名だって事だろうが。

 まあ、つまるところ、誰もが少なからずこう思っているのだ。《災能》を持っている者は、普通の人間では無い……と。


「つまり、《災能》を発症した俺は、国の人間に法的処置として島に強制的に連れて来られた、と。そしてなんらかの学校のなんらかの面接を受けている……」

「はい。飲み込みが早くて助かります。つまりあなたはこの、《特殊災害派しぇ………………」


 噛んだ。

 そしてしばらくの間沈黙の空間が形成される。

 自己紹介を忘れた事といい、この人は意外とドジなのかもしれない。


「んんっ!……つまり、あなたはこれからこの()で暮らしていくということであり、面接は学生であるあなたが島の学校に編入出来るかの審査の場……ということです。あと、ドジでは無いです……っ!」

「あっ…っと、えっと………は、はははは…」


 顔を若干赤くする荻原さんに、俺は苦笑いで返す。

 思考を読まれるっていうのは慣れないものだ。気を抜くと直ぐに忘れてしまう。

 まあ、それはさておき。

 島の学校に、面接。ここまでの一連の動きって……。


「それにしても、急じゃ無いですか?《災能》を有していることが発覚したとはいえ、移動にはもう少し猶予があっても良かったんじゃ……」

「ダメです。以前そういった事をした結果、移動前に《災能》を持った者が友人と共に逃亡するという事件が起こりました。能力によっては国すら滅ぼせる《災能》を持った者達。そんな人間が逃亡なんて、何が起きるか分かりません!……幸い、逃亡した《災能》持ちは直ぐに確保できたのですが、このような事態は二度と起こさないでくれという本土からの強い命令があり、それからは家族や友人とは、移動するまで連絡を取らせないようにしているのです」

「……なるほど。完璧に納得は出来ないけど、理解はしました」

「そうですか。それは良かった……」


 安堵の表情をする荻原さんに、俺は少し笑みをこぼす。

 理解はした。たしかに、《災能》を有した人間が本土にいるというのはそれだけでもリスクになる。だけど、


「理解はしました。けど、まだ一番重要なことが分かっていません」

「……あなたの《災能》のことですね?」

「はい」


 流されるように島に来て、流されるがままに面接を受けている。まるで非現実的な現状。

 それもこれも、全ては突然発症した《災能》のせいだ。なのに、その《災能》の正体が未だに分かっていない。

 俺は知るべきだろう。いや、知らなくてはならない!この《災能()》がきっと、俺の人生を左右するのだから。


「いいでしょう。それでは、お伝え致します。あなたの《災能》は――」


 と、荻原さんが俺の《災能》を言おうとした瞬間。学園長が机を叩き、そして勢いよく立ち上がった。


「――《限定魅了インクルード・チャーム》っっっだッ‼︎」

「「――――――――⁈」」


 不意打ちとも言える学園長の乱入に、俺と荻原さん両方が驚き、目を見開いて学園長を見る。


「ちょっ!なんで先に言うんですか!それに、なんで勝手に名前付けてるんです⁈」

「え〜いいじゃない。言いたかったんだからさぁ。それに、カッコよくない?《インクルード・チャーム》ってさッ」

「カッコよさとか求めないでいいですから!……はぁ…全く、もう…疲れるぅ……」


 そう言い、頭を抱える荻原さん。


「学園長、能力名とか付けたなら、能力についても最後まで説明しちゃって下さい…。私、もうなんだか疲れました…」

「ニハハハハハハハ!そうさせてもらうさぁ勿論ねぇ」


 驚きを通り越し、呆れた表情の荻原さんが顔を机に伏してため息を吐く。

 その本当に疲れ切った態度を見ると、普段から大変なのが目に浮かんでくる。


「それじゃあ、話していこうか。君の《災能》について」

「………………」


 俺が無言で頷くと、学園長はニヤリと不気味に笑い、ゆっくりと話し始めた。


「君の能力、僕の命名である《インクルード・チャーム》は簡単に言うならば、異性を惚れさせる能力だ」

「惚れさせる……?恋愛とかの?」

「そう、その認識でいいさ。もっと簡単に言うならば、君を見た女性は絶対に君に好意を抱く。どんな形であってもね。……ただし、制限がついている」

「制限?」

「君が惚れさせることが出来るのは、一般人に非ず、ということだ」

「一般人じゃ無い……ってことは」


 一般人とそれ以外といえば、この時代で示される人種は一つしか無い。


「そう。君と同じ、《災能》を持った女性のみを君は魅了することができる。と、いうことだ」

「―――!」


 驚いた。驚いて、驚いて……でも、何故か冷静だった。そして、情報を処理し、一つの疑問に至った。


「なんで、俺はこの島に連れてこられたんですか?」

「……と、言うと?」

「だって、おかしいじゃ無いですか!俺の《災能》が《災能》を持った女性のみに有効なら、むしろ島にいない方が無害じゃ無いですか!」


 まあ、無害と言っても、こんな能力で何かを害することなど出来ないとは思うが。

 俺の質問に、待ってましたと言わんばかりに唇の端を吊り上げる学園長。


「君は規則に例外をつけて、それを平等と呼べるかい?」

「はい?」

「いやなに、難しく考えなくていいよ。ただね、何事でも例外を一つ作ると、その例外の恩恵を受ける人間は一人じゃなくなるんだよ。君を例外として島に呼ばないというのは国の法律を揺るがすものとなる。そういった事態は避けたかったんだ」

「………………」


 学園長の言葉に、直ぐに納得している自分がいた。

 普通の人なら、それでも自分は例外であると、本土に帰る為に訴えるのだろう。なのに俺は、それならば仕方ないと、心の中で割り切ってしまっていた。


「あなたに拒否権はありません」


 机から頭を上げた荻原さんが真面目な顔で言った。額が薄っすら赤いけど。


「……なので、あなたの考え方は間違っていませんよ」


 微笑みながら荻原さんがそう言う。


「荻原さん……」


 その言葉は有難いけど、額を抑えながら言うのは説得力に欠けるなぁ。


「直ぐに納得してくれたようで良かったよ」

「…まあ、抗ってもどうしようもないことですし。変なところで冷静なんですよ、俺…」

「ふむふむ、冷静なのはいいことだよ。特に(ここ)ではねぇ。それと、君を島に呼んだ理由を付け足すならば、君を僕の監視下に置きたかったからなんだよ」

「監視下…ですか」

「うん。君の《災能》はとても面白いからねぇ。是非とも側に置いておきたかったんだ。あ、だから編入面接は合格だから、そゆことで」

「えっ……。や、やけに軽く決まりましたね…」


 面接時に合格が決まる面接って……。


「学園長はこの島で一番適当な人なので、こういうこともザラなんです。…全く、そのせいで私がどれだけ苦労をしていると……」

「ハハハハハ!君は堅すぎるんだよ。もう少し肩の力を抜き給え!」


 笑いながらバンバンと学園長が荻原さんの背中を叩き、それを荻原さんが左腕で鬱陶しそうに薙ぎ払う。


「学園長は抜き過ぎです!それに、私はそんなに肩に力は入っていません!」

「そうかーい?今日の君、黒鉄くんを見た時から一段と堅くなっているように見えたけど?もしかして黒鉄くんに惚れたり――」

「なっ⁈んなっ⁈そ、そんなわけ無いでしょ!」


 顔を真っ赤にして今度は荻原さんが学園長の背中を思い切り叩き、学園長の口から「うげっ!」という悲痛の声が漏れる。


「え、えっと〜……」


 なんだか気まずい。


「ち、違いますから!堅く無いですし!自制心とかありますし、割り切ってますから!」

「あ、は、はぁ……」

「くくく……やっぱり僕の目に狂いは無かったなぁ。これは面白い……フフフフ」


 必死に笑いを堪える学園長を荻原さんが睨みつける。

 殆どふざけているように見えたが、本当にこの人が学園長で大丈夫なのだろうか?


「それで、えっと…学校に編入できるとかは、まあ分かったんですが、俺はこれからどこで暮らせばいいんですか?」

「えっ、あ、ええそうですね。ごめんなさい、話が逸れました」


 そう言い、荻原さんは一度咳払いをし、再び姿勢を正す。


「あなたには我が学園、《四天治学園(してんじがくえん)》に通い、寮で生活をしてもらいます。ちなみにルームシェアとなっているので、あなたの他にもう一人、部屋には生徒がいます」

「寮……ルームシェア……」


 どちらも初めてではあるが、ここでも拒否権は無いのだろう。ならば、せめてルームメイトがいい人である事を願うばかりだ。


「分かりました。ありがとうございます」

「他に質問は?」

「特にありません」

「そうですか。――では、これで面接兼説明は終わりとなります。お疲れ様でした」

「は、はい、ありがとうございました!」


 俺は座った状態で礼をする。


「うん、良い挨拶」


 そう言い微笑む荻原さん。

 こういうセリフを聞くと、やはり学校の先生なんだなぁと思う。


「それじゃあ最後に僕からも一言」


 そう言い、学園長が立ち上がり、長机の前に出る。反射的に俺も立ち上がる。

 そんな様子を見てか、学園長は唇を歪めた。

 そしておもむろに腕を広げ、


「ようこそ、四天治学園へ。君の編入を学園長として歓迎するよ」


 そう言った。


 ――俺の、島での学園生活が始まる。






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