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コスプレ系女子の異世界布教!? ~ 駄豚と巡る異世界行脚 ~  作者: アレグロ
コスプレ系女子の異世界転生!?
8/53

08・町での情報集めとフラグ立ては基本です。




…まずい、非常にまずい事になった。


私の頬を一滴の汗が伝い落ちる。


前を見れば、対面に座っういているポルケリウスも同じく滝のような汗を滴らせていた。


これほど追い詰められるのは、異世界に転生してオオカミの群れに囲まれた時以来だ。うん、つい先程の事だけど。



どうしてこうなったのか。


話は少し前に遡る。



・・・ ・・・ ・・・ ・・・




あの後、毒で麻痺したオオカミ達が回復する前に私達はその場を後にした。


リーダー格のオオカミの死骸については少し思うところがあり、ポルケリウスのリュックの中に仕舞って持ってきている。


あのリュックはかなり便利だ。


後でポルケリウスに聞いた所、内容量は無限、時間経過も重量変化も全く無いアイテムボックスの様な仕様らしい。


オオカミを入れる際には「ヤメテ!拙者のナカに変なモノ入れないで!獣臭くなっちゃう!」と大騒ぎしていたが私の知ったことでは無い。これから荷物持ちとして頑張って貰おうと思う。


それと私の今の服装については、先ほどのスキルで一般的に連想される『ぬののふく』へと変えて貰った。


徹夜までして折角作った衣装を作り替えるのは憚られたが、流石にあのままだと悪目立ちしそうだし、何より動きにくかったからね。


うん。使い方によっては中々に便利なスキルだ。


オオカミを撃退したラ・ウーネの能力?については気になる所だが、それはまた落ち着いてから追々検証していけばいい事だろう。


そう、まずはこの異世界での安全確保が第一だ。


そう考えた私は、兎に角人の多く集まる場所を目指す事にしたのだった。


場所についてはポルケリウスに案内を任せている。


どうやらポルケリウスには、近くにある『服』の気配がある程度判るらしく、その気配が強い場所へと案内して貰っているのだ。流石は服の神と言ったところか。

こちらも中々に便利な能力だ。


…あれ?


もしかしてポルケリウスって結構有能だったりする?



・・・ ・・・ ・・・ ・・・




「つ、ついたぁ~!」



深い森を抜け、草原をかなりの距離歩いた後、漸く人が住んでいそうな『町』の前へとたどり着いた私は安堵の声を上げた。


時刻はそろそろ、夕方に差し掛かろうとしている。



正直言って、いろいろともう限界だった。


突然刺し殺されて慣れない異世界にいきなり飛ばされ、オオカミに追われて森を駆けずり回り、群れに囲まれ神経をすり減らし、道中の間駄豚ポルケリウスのノリにずっと付き合わされたのだ。無理もないだろう。


そして何より。


「おなか、へったぁ~」


それが一番の問題だった。


そう。


実は私、ここ暫くろく・・に食事を取っていないのだ。


来るべき聖戦イベントに向けて過酷な肉体改造ダイエットを決行し、開催日前日に至っては水だけで済ませている。


だって、晴れの舞台で醜態を晒す訳にはいかないじゃない!

二の腕とか!脇腹とか!!


イベントが終われば一人打ち上げでたらふく食べるつもりでいたのに、あんなことになってしまったせいで未だに我慢を続けているのだ。


今ではもう、目の前のポルケリウスすら美味しそうに見える。


「……ハッ!殺気!?」


ポルケリウスが何かに怯えた様子でキョロキョロと辺りを見渡している。

いや食べないよ!まだ。


人として最低限の尊厳を失う前に、早急になにか食べないと。


そう思い至った私は、街の出入口の大きな門を潜り抜けた。



・・・ ・・・ ・・・ ・・・



街中には、のどかな空気が流れていた。


都会で暮らし始めてから久しく感じていなかった、故郷の雰囲気に少しだけ似ているかも知れない。


露天が立ち並ぶ市場らしき場所では、夕食時ということもあり呼び込みの活気溢れる声が響き渡っていた。


異世界の言語については不思議と問題なく理解出来る。何故そうなのかポルケリウスに聞いても「仕様です。」としか言われなかったが。


さて、どうするか。



周辺を見渡せば、林檎っぽい果物を山積みに並べた店に、よくわからない角の生えた魚の干物を軒先に吊るした店。串に刺した謎の肉塊をぐるぐると直火で炙っている店など、様々な店が並んでいた。


私は逸る気持ちと胃酸を抑え、小さく呼吸を整える。


何せ、異世界に来ての記念すべき初めての(First)食事(Eating)なのだ。生半可な物では勿体無い。



どうせなら異世界らしい、見たことも無いモノにチャレンジすべきか?あの怪しげな蛍光色のスライムっぽいのとか。


いや、ここは敢えて慣れ親しんだモノにして、元の世界との違いを楽しんでみる?



肉。


魚。


スライム。


野菜……



駄目だ、空腹も相まって考えれば考える程に目移りし、迷いが生じてくる。


焦るんじゃない。私はお腹が空いているだけなんだ。




「…ねぇ。アンタ何か食べたい物ないの?」


考えに煮詰まった私は、隣にいるポルケリウスに意見を求めてみる事にした。


「…ポルケリウス?」


だが、返事は帰って来ない。


見ると、ポルケリウスは何かに吸い寄せられるように少し離れた街角をふらふらと曲がろうとしていた。



「あ!ちょっと!?」



私は慌てて後を追いかけた。



・・・ ・・・ ・・・ ・・・



「……あ!いた!」



市場街を抜け、表通りを少し外れた場所、一軒の家の前で立ち尽くすポルケリウスを発見した。


「ちょっと!ポルケリウス!!」


「あや!?け、ケイト殿!…いや、すみませぬ…なんていうか、拙者の中のゴーストが囁いたと申しますか、誰かに呼ばれたような気がして………」


「呼ばれた…?」


「ええ…確かにここら辺から呼ばれた気がしたのですが…あるぇー?拙者の気のせいだったのかなぁ…」


そういってキョロキョロと辺りを見渡すポルケリウス。


「ハァ…どうでもいいけど、勝手に居なくならないでよね。異世界で一人とか洒落にならないんだからさ。神様なら信徒の事をきちんと守りなさいよ。」


「あいすいませぬ……」



  ぐぅぅぅ……



あぁ、駄目だ。余分な体力を使ったら、余計にお腹が減ってきた……



「………ん?」



そんな時、ふといい香りが私の鼻先を擽った。

香りの元を辿ってみれば、どうやら目の前の家から漂ってきているらしい。


見れば、件の家の軒先にはナイフとフォークをクロスさせた看板が掛かっている。


「ここ、食堂…なのかな」


「ですな。なんと言いますか、拙者の鼻センサーにビンッビン来る物がありますぞ!この店は旨い!確信を持ってそういい切れます!あっ!こりゃたまらん!ヨダレずびっ!~~ツウ~よーな味ですぞぉ~~っ きっとおお~~お~~お~~っ!」


「そう…」


まぁポルケリウスのセンサー云々は兎も角、たしかにいい匂いだし、これも出会いというものかもしれない。


そう思い至った私は、ドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開いた。


別にお腹が空きすぎて妥協した訳じゃないよ、うん。




・・・ ・・・ ・・・ ・・・




―――カランカラン♪



「いらっしゃーい!」



扉を潜ると、ベルチャイムの音と共に明るく活気の有る声が聞こえて来た。


「ごめんねー!今手が離せないんだー!空いてる席に座って待っててー!」


私は言われるがままに近くのテーブル席へと腰掛けた。



手持ち無沙汰に辺りを見渡せば、店内は中々に込み合っている。



常連らしき、井戸端会議に興じるおばさん達。


一心不乱に食事を掻き込む体格の良い男の人。


なにやら小難しそうな本を眺めている老人。



様々な人達が、思い思いに時間を過ごしていた。



「おまたせ。注文は決まってるー?」


しばらくすると、先ほどの声の主らしい一人の少女が私に話しかけてきた。年頃は小学生くらいだろうか。ソバカス顔が可愛らしい。


清潔な白いシャツに茶色のロングスカートという地味目な格好だけど、活発そうな天然ジンジャーのショートヘアと相まって非常に様になっている。なんていうか、『働く女の子』って感じだ。


ていうか外国の美人さんってズルイ。何着ても似合ってるもん。メイド服とか超着せたい。



「おねぇさん?」


「あ、えっと……」


しまった。感想に夢中で何も考えて無かった。


私は慌ててあたりを見渡してメニューを探す。


「拙者!拙者は何かお腹にがっつり溜りそうなメニューを希望しますぞ!具体的には、とんかつやら豚汁などを所望!って共食いやないかーい!!」


「ちょっ!ポルケリウス!勝手に注文しないで!私まだ決まってないんだから!」


「え?」


私の言葉に、何故か女の子は驚いた様に辺りを見渡す。


「えっと、他に誰かいるの?アタシにはおねぇさん以外見当たらないんだけどさ」


そうして、不思議そうにそう切り出した。


「え?」


「…あ。そういえば、拙者の姿はケイト殿以外には見えないんでしたな!イヤー失敗失敗!」


テヘッ☆と舌を出して片蹄で頭をコツンと叩くポルケリウス。全くもって可愛くない。


ってちょっと待って!


ということは私、他の人から見れば町に入ってからずっと一人で何も無い場所に話しかけてた訳!?ただの危ない人じゃん!!

いや服の神の信徒なんてやってる時点で実際危ない人かもしれないけどさ!


「あ…その、何でも無いです…えっと、何かおすすめをお願いします……あ、出来れば二人前……」


私は顔から火が出そうなほどの羞恥の中、消え入りそうな声でそう呟くのが精一杯だった。


「はーい!ちょっと待っててねー!」


女の子がさして気にした様子じゃなかった事が唯一の救いだ。




「…ねぇポルケリウス。他に私に言ってない事ない?あるよね?」


女の子が厨房らしき扉に入ったのを見届けた後、私は辺りに気を付けながらソワソワと料理を待つポルケリウスに小声で話しかけた。


「んー?拙者特には思い当たりませんなぁー、思い当たらないって事はもうないんじゃないかなー」


ポルケリウスはさほど深く考えもせず適当にそう答えた。

うん、完全に料理に気が行っている。絶対にまだ何かあるなコレ。


「…とりあえず、今度何か後出しの情報があったら鼻フックで背負い投げるからね?」


「やめてくださいしんでしまいます」




 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・




「はーい、おまたせー!熱いから気をつけてねー」



数分後、女の子が木製のトレーを手に再びやってくる。

運ばれてきたのは、木皿に盛られた暖かな湯気を放つミルク色のシチューと、少し硬そうな小ぶりの黒パンだった。


「おっほぉー!いいですないいですな!!何というかこれぞシンプルイズベスト、いやマスト!!こういうのでいいんだよこういうので!!」


ポルケリウスが興奮した面持ちでリュックから取り出したマイスプーン片手に騒ぎまわる。とりあえず落ち着け。まぁ気持ちはわからんでもないけど。


「いただきます」


私も木製のスプーンを手に取り、シチューを一口。



「………ほぉ」



あぁ、おいしい。


空っぽの胃の中に、暖かい熱とふんわりとしたミルクの優しい甘みが染み渡っていくみたいだ。


なんていうか、すっごく優しい味。


具材は大降りのじゃがいも?だけだけど、それがまたシンプルで美味しい。


次に私は、黒パンを手に取ってみる。


中身が詰まってるのかずっしりと重たい感触、焼きたてなのかまだ少し暖かかった。


実は私、けっこう憧れてたんだよね。このパン食べるの。某国民的山育ち少女が食べてるの見てさ。


元の世界ではあえて食べる機会は無かったけど。海外旅行とかした時には一度食べたいと思ってたんだ。まさか異世界で食べることになるとは思わなかったけど。


ワクワクしながらそのまま齧り付いてみたものの、普段食べ慣れている食パンと違って硬く食べ辛い。

それになんというか、ボソボソとしてて味気無い気がする。


私は少し考え、パンを少し千切ってシチューに浸してみた。


うん!程よく水分と味を吸い込んで美味しい。少しはしたない気がするけどこの食べ方でいこう。



そうして

異世界での初めての食事は、満足の行くものだった。



「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!ンまぁーーーーいッ!!」



…うん、今はこの駄豚の事は忘れて味に集中しよう。折角の感動が台無しになりそうだ。




・・・ ・・・ ・・・ ・・・




「ねぇおねぇさん。おねぇさんここら辺じゃ見ない顔だけど、もしかして旅の人?」


シチューとパンを満喫していると、先ほどの女の子が話しかけてきた。どうやら客足に一区切りついたらしい。


人好きのするかわいらしい笑顔だ。


「ええ、まぁ…そんなところかな。」


流石に異世界からきますたとも言えず、私は曖昧に答える。


「へぇ!やっぱそうなんだ!いいなぁー、アタシこのお店があるから旅とかした事ないんだよねぇー。ね!ね!良かったら旅の話とか聞かせてよ!どんな料理が美味しかったとか、どんな場所が綺麗だったとかさ!」


そう言って、隣の席へと腰掛ける。


うわ、この子思ったよりグイグイ来るタイプだ。瞳がキラキラしてて可愛いから全然嫌じゃないけどね。



そうして私は、しばらくの間その女の子(ティアードちゃんというらしい)と会話をしながら料理を楽しんだ。


私が元の世界の事を少し暈して話すと、ティアードちゃんは興味深そうに聞いてくれた。


やはり料理人だからなのか、そのなかでも特に気に入ったらしいのは料理についての話題だった。



「そっか、小麦の粉を多めの水でといてから焼けば、もっと柔らかな生地のパンが出来るんだー!中に刻んだ具材をいれるの?いいかも!」


「揚げる?揚げるって何?……へぇー。お肉や野菜にパンの粉や小麦の生地を付けて、たっぷりの油で茹でるねぇ…そうするとサクッとした食感になるんだー。うん!今度やってみるね!」



……なんだか、いろいろとオーバーテクノロジーを伝授してしまった気がする……


だってしょうがないじゃん!この聞き上手で話し乗せるのすっごい上手いんだもん!成長したら良い銀座の女に成れるレベルで!


もちろん、私だって色々と聞きたいことは聞いたよ?



まずはこの町の事。


どうやらここは『ボビン』という名前の町らしい。


どちらかと言えば地方の片田舎らしく、「森や山位しか見るべき場所が無い」とはティアードちゃん談。


森が近い分、町の外では獣や魔物モンスターはそこそこに出るらしく、旅をするなら気をつけた方がいいとも言われた。うん。知ってた。


ていうか、魔物モンスターですか…うん、異世界でファンタジーっぽい世界観だったし、もしかしたら、とは思ってたけどさ…


やっぱ居るんだね。モンスター。


出来れば、いいや絶対にお近づきにはなりたくないものだ。



後、ティアードちゃんの事も少し聞いたよ。


なんとティアードちゃん、若干10歳にしてこの食堂のオーナーシェフらしい。


というのも、どうやらご両親は既に亡くなっているらしいのだ。詳しい話は流石に聞けなかったけどね。


今は弟さんと二人でこの店を切り盛りし、周りの人の協力も有って何とか生活出来ているとの事だ。


…苦労してるんだね、ティアードちゃん。




―――カランカラン♪




「あ、お客さん来ちゃった。それじゃおねぇさん。いろいろ話せて楽しかったよ!」



そう言ってティアードちゃんは椅子から立ち上がると、小さく私に手を振って接客へと戻っていった。

私はその後姿を見送った後、冷めてしまったシチューの残りをスプーンで掬い集め、口へと運んだ。




さて。そろそろ良い時間になってしまった。


とりあえず、当面はこの調子でこの世界の情報を集めていくべきかな。私はまだまだこの世界について知らないことが多すぎる。


RPGとかでも事前の情報集めとフラグ管理は重要だもんね。


信仰集めとか今後の生活とかは追々考えていけばいいだろう。



「とりあえず、今考えるべきは今日の寝床かな…」



そう思い至った私は会計をするべく財布から一万円札を取り出し、





そこで、





今現在最も重要な事に気が付いた。











「…………あ………そういえば私、この世界のお金、持ってない………」









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