01・始まりは鼻息と共に
この作品には以下の内容が含まれます。
・ ネットスラングを含むオタネタ。
・(一部のキャラに対する)暴力的表現。
・ ウザ豚
以上に対して抵抗のある方は我慢してお読み頂けますようお願いいたします。
―――熱い。
仰向けの体勢で地面に倒れた私は、腹部にゆっくりと拡がっていく熱を帯びた赤黒い染み
その中心に深々と突き刺さった銀色の異物をぼんやりと眺める。
「ふ、ふひ!き、君がわ、悪いんだよ?君が、ぼ、僕を裏切ったりするからいけないんだ…あ、あんなに愛してあげたのに…お金だって沢山使ってあげたのに……」
頭上では見知らぬ男がブツブツと何かを呟きながら私の事を見下ろしている。
無精髭とニキビだらけの脂ぎった顔に歪な笑みを張り付けたその姿は《豚》を連想させる。
汗染みに濡れたアニメTシャツにジャージの身嗜みに無頓着な、正直言って苦手なタイプだ。
「キャァァァァァ!!」
「だ、誰か早く警察を呼べよ!!人が刺された!!」
「馬鹿野郎!それよりまず救急車だろうが!!」
一呼吸置いて、辺りが喧騒に包まれる。
誰かの悲鳴、怒号、嗤い声。
広がり続ける腹部の熱と痛み。
それと相反する様に急激に冷えていく自らの身体。
そのどれもが最早どうでも良かった。
今、私の脳内に在るのはたったひとつの気掛かりだけ。
(あぁもう、このコス作んのにどれだけ苦労したと思ってるのよ…血の染みとかすっごく落ちにくいのに…)
薄れ行く意識の中、最期にそんな場違いな、だけど私にとっては今現在何よりも重要な事柄を考えつつ、
私は意識を手放した。
・・・ ・・・ ・・・
―――生暖かい。
再び意識を取り戻した私がまず感じたのは、顔に当たる生ぬるい風のえもいわれぬ不快感だった。
「Oh…Good,Fragrance……艶やかな黒髪にかわゆいお顔…プロポーションは上から…えー、うん、まあ、コレはコレで中々に趣があると申しますか…コスとの調和を考えれば拙者的にアリかナシかで言えばどストライク!いやー!やはりナマのおにゃの子は良いものですなー」
…なんか誰かにものすごく失礼な事を言われた気がする。
生暖かな感触がいい加減煩わしくなり、ゆっくりと目を開くと、
「……ぶひ?」
眼の前いっぱいに拡がる、マンガの様にデフォルメされた《豚》の顔がそこにあった。
先程から顔に当たっていた生暖かな微風は、どうやらこの謎豚の鼻息らしい。
目と目が逢い、数秒。
「あ、いや、これはちが」
「キャアァァァァァ!!」
ドグシャァァ!!
次の瞬間、漏れ出た悲鳴と共に放たれた私渾身の右拳が、その平たい豚鼻の中心に吸い込まれるように突き刺さった。
「へぶら!?」
そんな間の抜けた鳴き声と共に、謎豚は錐揉み回転しながら吹き飛び、二度、三度と地面をバウンドし、漸くその動きを止める。
・・・ ・・・ ・・・
「前が見えねぇ…」
その後、地面に伏したまま数秒程ピクピクと痙攣していた謎豚はヨロヨロと起き上がり、こちらに向き直る。
ふん!という気合いと鼻息の籠った掛声と共に、めり込んでいた顔面がぽん!と小気味良い音を立てて元に戻った。
「い、いきなりなんばしょっとですかな!?拙者善良な一神民であるからして、この様な謂われなき暴力をこの身に受ける理由などそれほど心当たりが有りませぬぞ!?」
展開に全く付いていけていない私を他所に、眼前の謎豚は尚も鼻息荒く抗議を続ける。
「そりゃ無断でおにゃの子の匂いをクンカクンカしたのは拙者としてもチョーッとどうかなーとは思わなくもない訳なのですが?そこはホラ、拙者の内から溢れ出るリビドーと言う名のモンスターの仕業であり、言わばこの世の節理、致し方無い事なのですぞ!!ね?だからポリスメンだけは勘弁してくだしあお願いします何でもしますから!!」
「あ、アンタ一体何なのよ…それにここは……?」
流れるように綺麗な型のジャンピング土下座に移行した謎豚を警戒しつつ、恐々辺りを見渡す。
そこは、何も無い白一色の世界だった。
足元を見れば地面すら見当たらない。
「おっとぉ…レディを前にして名乗らぬとはジェントルメンの拙者としたことがこれはまたトンだ失礼をば……」
私の言葉に謎豚は何事も無かったかの様に立ち上がり、短い前足(?)で膝らしき部位をパンパンと払うと、
「我が真名はふくの神『ポルケリウス』!!この世界を司りし神の一柱でありますぞ!!」
謎の決めポーズと共に、豚はどや顔でそう言った。
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