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夢見の悪い幻想録  作者: ごまみりん
9/85

参観

今回は後書きにもお話があります。



「授業参観ですか…?」


「そうだ明日、寺子屋の授業参観があるんだ」


人里で八雲藍の護衛中にそんな話をした。


「何の授業なんですか?」


「確か算数だと橙は言ってたな…」


「では、明日は寺子屋の授業参観に参加するという事で…」


「そうだな。あ、亮も参加するんだぞ?」


「……………は?」


「当たり前じゃないか、亮も橙の授業を見るんだ。橙も喜ぶぞ?」


「いや、僕は護衛ですよ…?教室の外で待機してます」


「だめだ」


「いや…でも…」


「参加するんだ」

「あ…「参加するんだ」



かくして僕は寺子屋の授業参観に参加することになってしまった。


本来なら八雲紫が行くべきなのだが


「ん〜。私の代理おねがいね〜」

だそうだ。ふざけてる。







翌日


「亮、髪型大丈夫かな!?」


「大丈夫ですよ…」


「あぁ…、そうか…。あ、亮!!この服とこの服、どっちがいいと思う!?」


「いつも通りでいいんじゃないですか?」


「真面目に答えろ!どうしてそんなに投げやりなんだ!?」


説明しよう。朝食を食べ、橙が寺子屋に行った後授業参観に行く準備をしていた八雲藍がテンパりはじめて僕に当たりはじめた。意味が分からない。


「藍さんこそ落ち着いてくださいよ…。いつも通りが一番だと思いますよ?」


「だって橙の授業参観だぞ!?落ち着いていられるか!?いいや落ち着いていられないッ!!そういう亮は準備出来てるのか?」


「僕はいつでも出られますよ。それよりもう出ないと…」


「ん…そうだな。じゃあ行くとしようか」






寺子屋の教室は外の学校とさして変わらなかった。黒板と教卓があって、生徒達の机とイスがある。外の世界の授業参観と同じように生徒の親達は教室の後や窓から我が子達が授業を受けてる様を見る。


「ふぁぁ…ちぇぇぇぇぇん…」


「…………」


隣にいるのが恥ずかしくなる。この人は静かに授業を見る事が出来ないのか?もうこの、ふぁぁ…ちぇぇぇぇぇん…も五回目だ。


人里もそうだったが、寺子屋も人間と妖怪が共に過ごしているようだ。橙の隣に煌びやかな羽根を生やした赤い服の金髪の少女がいる。更にその隣には赤と青の羽根のような物を生やした黒髪の少女もいる。その他にも人間ではない生徒が多々いるようだ。よくよく考えれば、今教鞭を振るっている上白沢慧音も人間ではないのだからおかしくはないのだろう。


「じゃあ、フランこの問題分かるか?」


「えっとね…18…?」


「残念外れだ、じゃあ橙。分かるか?」


「42です」


「正解だ」


「亮見たか!?橙が正解したぞ!!やっぱり橙は天才だ!!」


「落ち着きましょうねー、はいどーどーどー…」


「あら、藍さんお久しぶりですね」


興奮した八雲藍を廊下で鎮めていると女性が声をかけてきた。金髪に紫のグラデーション。ドレスのような服を着ている。その後ろには尼僧姿の青い髪の女性か控えてた。


「聖か…、久しぶりだな。お前も授業参観か?」


「えぇ、ぬえちゃんのね。ところでそちらの方は……旦那様?」


聖と呼ばれた女性の言葉を聞いて八雲藍は口をパクパクさせながら


「だ…だっ……だっだっだっだ………ん…な………」


と壊れてしまった。


「えーっと、すいません聖さん…ですか…?」


「はい。聖白蓮と申します。命蓮寺で住職をしています。こちらは弟子の一輪です」


「雲居一輪よ。よろしく」


「よろしくお願いします。僕は佐山亮と申します。藍さんの護衛です。決して旦那ではないので…」


「あら……そうだったのですか…。それは失礼しました。藍さんもすみませんでした」


誤解を解いて、聖白蓮が謝罪しても八雲藍は相変わらず意味不明な言葉を発しながら挙動不審な行動を取り続けている。しばらく直らないだろう。


「あら、珍しい組み合わせねぇ…」


また声をかけられた。その先には黒い羽を生やした少女と銀髪のメイドがいた。


「あら、レミリアさんも来てらしたのですか?」


「勿論よ。フランの授業参観なのだから。で、そこの人間は?」


聖白蓮にレミリアと呼ばれた少女は僕を見て言った。


「はじめまして。佐山亮と申します。八雲藍さんの護衛をさせていただいてます」


「へぇ…八雲藍のねぇ…。私はレミリア・スカーレット。紅魔館の主よ。教室で授業を受けてる金髪の子は私の妹のフランドール・スカーレットよ。で、私の後にいるのが咲夜よ。」


「十六夜咲夜です。よろしくお願いします」


「こちらこそ」


紅魔館の主、レミリア・スカーレット。命蓮寺の住職、聖白蓮。幻想郷での有力者の内の二人にこんな所で会うとは思わなかった。吸血鬼と…



魔法使い










「りょう…きいてふのあ?」

「はいはい、聞いてますよ」


「うー」


寺子屋の授業参観が終わる→井戸端会議が始まる→橙と三人で夕飯の材料の買い物をする→八雲邸に帰る→夕飯を食べる→風呂に入る→八雲藍が橙を寝かしつける→縁側で晩酌←イマココ


ここ最近の日課として風呂上がりに縁側で星を見るという物があったが、今は星を見ながら八雲藍が橙を寝かしつけたら晩酌に付き合うという物になった。簡単なつまみを八雲藍が作ってくれて、それを食べながら飲む。他愛もない話、無言、他愛もない話、無言をいつもは繰り返すのだが…


「だかあぁ…りょうわぁ…いつもそっけなくてぇ………」


「愛想がなくてすみませんね」


「ほらぁ!!そういうとおろ!!」


今日はべろんべろんに酔っていた。まさかこんな絡み酒だとは思わなかった。顔を赤くして、涙目で説教してくる。いつもの八雲藍とは全くの別人のように見える。

「にとりとばっかしゃべってぇ…そんなににとりあ、かあいいれふあ!?あ?」


「今は藍さんと喋ってますよ」


「それはそうだ!!私以外としゃべるなよぉ!?」


「善処します」


「やくそくしろー!!」


「はいはいしますよします」



めんどくさい…







それから五分と経たない内に八雲藍は寝てしまった。寝息をたてて深く眠っているようだ。


「藍さん、起きてください…こんな所で寝てたら風邪ひきますよ…」


「…………すー」


起きない。縁側に放置する訳にもいかない。仕方なく八雲藍を抱き上げ、彼女の部屋まで運ぶ。


彼女を下ろし、布団を掛け自室戻ろうとした時、八雲藍に袖をつかまれた。寝ぼけているようだ。


「…………どうしました?」


「りょう…お前は…もっと周りに甘えてもいいんだよ…」


「……………」


「辛いこととか苦しいことがあれば言っていいんだよ…だから…そんな悲しい目で…星を見なくてもいいんだよ…」


「………………」


僕は袖をつかんだままの彼女の手を握って


「ありがとう………」


そう言って彼女の部屋を出た。


「……………」


僕はそんなに悲しい目をしていただろうか…。そんなに悲しい目をして星を見ていたのだろうか。そう考えていると頬に温かい感覚を覚える。何かが伝うような感覚。


「まだ………枯れてなかったんだ………」





紅魔館の一室に佇む少女。


「咲夜…」


少女が呼ぶと少女の傍に何処からともなくメイドが現れる。


「お側に…」


少女は問う。


「咲夜、今日の人間……あなたなら殺せる……?」


メイドは答える。


「恐れながら………。私には出来ないでしょう…。彼には勝てません………」


「何故戦ってもいないのに、そう言えるのかしら…?」


「目です……」


「目?」


メイドは悪夢を思い出す様に話す。


「彼の吸い込まれそうな目を見た時に分かりました…。殺されると……。彼の目には、殺意が無いんです…。悲しさと狂気のような…………」


少女には分かっていた。自分の従者達では彼には勝てないと。下手をすれば自分の命すら危うい相手であると。


「一体、何を企んでいるのかしら……八雲紫………」










聖白蓮は星を見ていた。星を見ながら今日寺子屋で会った人間を思い出していた。


「…………。」


寺子屋で会った人間。佐山亮。彼が自分を見たときに向けてきた物。底抜けの哀しみ。人の身には余る程の憎しみ。


「いつか私は彼に殺されるのでしょうか………」


そう思えてしまう程の物を見た。何故自分にソレを向けてきたか分からない。しかし、殺意は感じなかった。


「佐山さん………」


彼女は祈った。彼の為に。自分を殺すかもしれない者の為に。彼に救いがあることを、彼が深い闇から抜け出せることを。



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