除隊
[僕は存在しない兵士になった]
僕と洩矢諏訪子は火に包まれるリムジンと横たわる僕を見ていた。
「最初は家族を奪われたんだね……」
洩矢諏訪子が炎に包まれたリムジンに近づいて言った。炎が燃え盛っているにも関わらず熱は感じなかった。
「えぇ………」
「君の妹、光って消えちゃったけど………そういう事ね……」
洩矢諏訪子は僕の胸を見て言った。
僕は横たわる僕の傍に立つ。一瞬の内に大切な物を奪われた無力な少年は意識を失って倒れている。
「それで、この先は?」
洩矢諏訪子が僕に視線を向ける。僕が視線をリムジンに向けると景色が歪んでいく。
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目を覚ました先は病院の集中治療室だった。
身体中に貼られた電極と酸素マスクが煩わしくて仕方なかった。
僕が目を覚ました事が分かると慌ただしく人が出入りし、何かしらの数値を書類に書き込んだりしていた。
暫くすると白衣を纏った初老の男がやって来た。看護師曰く僕の主治医らしかった。
主治医はドイツ語で僕の容態を説明した。どうやら僕は死に損なったようだ。あの状況で黒焦げにならなかったのが不思議だとか言っていた。
僕は丸一ヶ月眠っていたらしい。筋肉は衰え、歩く時に力が入らずたまに転んだ。
一般病棟に移ると、一人の男が僕を訪ねて来た。男はオーストリア内務省の人間だった。男は僕に事件の顛末を話した。
リムジンの車体下部にはIEDが仕掛けられていて、父さんと母さんは炭になった。父さんと母さんだった物は連邦警察が回収して保管しているという。ただ、梨佳の遺体だけはどこにも無かったらしい。
犯人は僕が寝ている間に捕まった。犯人は父さんや母さんと同じ魔法使いだった。警察が突入した時には高飛びの準備中だったという。
父さんと母さんは同じ魔法使いに殺された。他の<原初の七人>と違い、人を守る為の魔法を研究していたのに何故同じ魔法使いに殺されなければならなかったのだろう。
犯人の魔法使いは歴史に名を残したかったと供述した。
不思議と涙は出なかった。心の中はぐちゃぐちゃなのに泣く事が出来ず、悲しいという感情を知覚するのみだった。
目を覚ましてから二週間程で僕は退院して日本へ帰国した。
家に帰ると家が酷く広く、冷たく感じた。
梨佳が気に入ってたワンピース、母さんが使っていたエプロン、父さんのワイシャツ。家族の匂いがするものを抱き締めて寝た。
僕は家の前の庭に墓を作った。三つの十字架。父さんの墓と母さんの墓と、誰も眠っていない梨佳の墓。
墓の前で一日中座っていた。寝る時は家族に包まれて寝る。起きたらまた墓の前に座る。そんな生活を続けた。
ある日リビングの花瓶を割ってしまった。母さんが気に入ってた物だ。
母さんは花が好きだった。庭には母さんの花壇があって沢山花を育てていた。小さな頃から僕に花の事を教えてくれた。
花瓶の欠片を広い集めていると指を切ってしまった。指から赤くて温かい液体が流れる。
それを見て僕は生きてるんだと思った。それと同時に何故生きているのか?早く死にたいとも思った。
加えて目を覚ました時から抱えてた感情の正体にも気付いた。胸を激しく焼き、頭に刻み込まれたような感情。
そう、この感情は憎悪なんだ。僕から大切な物を奪った者への決して消える事の無い憎しみの炎。魔法使いへの果たされなければならない復讐。
僕は家を出て、アメリカの大学に入る事にした。魔法工学の権威が学長をしている大学だ。
家を出る前に墓に花を供える。マツムシソウを十字架の前に置く。
僕はさようならと言って家を出た。
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「マツムシソウねぇ……私は全てを失ったか……」
洩矢諏訪子は墓の前に立ちそう言った。
「ここには戻ってきたの?」
「家を出てからは一度も……」
「墓参りぐらいすればいいのに」
「そうですね。しなければならないんでしょうね……」
僕は花壇に咲く花を三輪摘み、墓の前に置いた。
「大学では何を?」
「魔法工学を習いました。父さんも母さんも魔法工学は専門外でしたから」
「へぇ……大学卒業後は?」
景色がまた歪み変化していく。
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大学を卒業した僕は海兵隊士官候補生学校に入校した。そこで10週間の訓練を受けた後、バージニア州クアンティコの米海兵隊基礎訓練校で更に半年間訓練を受けた。
訓練ではハートマン軍曹宜しくな教官が僕達に罵詈雑言を浴びせてきた。同期のジェームスは「俺が微笑みデブになってやるぜ」と言ってたが、ジェームスの身体は素晴らしく引き締まっていた。
気付けば24歳だった。中東で魔法使いの狂信者達をM4の5.56ミリ魔術弾で大勢殺して、ストナーとドミノピザの創立者は海兵隊出身だとか話しながら揚陸挺から飛び出したりしてた。ストナーはその上陸作戦中にミンチになった。
僕は何だかんだ生き残ってしまってた。海兵隊に少尉として入隊してからそれなりに経ったが行く戦場では流れ弾の一つにも当たらずそれなりの成績をあげていた。 偶然殺した魔法使いが合衆国が血眼で探していた魔法使いだったらしく、僕は異例の昇進で中尉になった。
ある日、オーガスタス中佐に呼ばれた。普段から僕に良くしてくれて少尉の時は良く飲みに連れていってくれた。僕の尊敬する上官だった。
中佐の部屋に入ると一人の男がソファーに座っていた。海兵隊の人間じゃない。
「紹介しよう、佐山中尉。特殊作戦軍のアーネスト中佐だ。私の同期だ」
「よろしく」
敬礼をして、差し出された手を握り返す。
しかし何故SOCOMの中佐がここにいるのだろう。ただ同期と話すだけなら僕を呼ぶ必要は無い筈だ。その答えはアーネスト中佐の口から出た。
「君、ウチに来ないか?」
アーネスト中佐は僕を引き抜きに来たらしい。
詳しい事は教えてくれなかったが、特殊作戦軍に新しく部隊を創設するらしい。その部隊は完全に秘匿された存在しない部隊だという。アーネスト中佐は陸軍、海軍、空軍、海兵隊の四軍を回りその新しい部隊のメンバーを引き抜いている途中らしい。
「どのような部隊なのですか?」
僕はアーネスト中佐に質問した。正直海兵隊と同じようなゴリ押し脳筋パワープレーみたいな部隊は御免だった。まぁ特殊部隊だからありえないが。
その問いにアーネスト中佐は答えた。その答えを聞いて僕の気持ちは決まった。
「対魔法使いの暗殺部隊だ。君には共喰いをしてもらう、佐山中尉」
やっと、やっと僕は為すべき事を為せる場所に辿り着いたんだ。
「喜んでお受けします……」
その日付けで僕は表向き、海兵隊を除隊した。
僕は存在しない部隊の一員、幽霊になった。




