表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見の悪い幻想録  作者: ごまみりん
73/85

進化

[枠組みから外れた《何か》]


[虐殺編]終わりです


皆殺しという言葉は優しい表現だろう。


10分とかからずに敵は全滅した。


残ったのは巨大なクレーターとそこに広がる血の海。そして唆護だった物。


黒翼の化け物は空に浮くと沈みゆく太陽を見つめた。





八雲紫達は一部始終を震えながら見る他無かった。


圧倒的な、一方的な虐殺を行った彼をどうこう出来る訳も無かった。


「紫様………亮は……」


八雲藍が口を開いたが途中で言葉が途切れた。その続きが八雲紫には分かった。


「分からないわ……亮さんかどうかもね……」


「おやおや……すごい事になってるねぇ」


茫然とする彼女達を他所に惨状を見て明るい声を挙げた者がいた。


「あなたは……」


「やぁ!久しぶりだね、八雲紫」

洩矢神社の祭神、洩矢諏訪子は屈託の無い笑顔を見せた。


「いやぁ、すごいね……騒がしくしてるなぁって思ったらこんな事になってるなんてね。びっくりだよ」


「あなた一人なの?」


八雲紫の問いに視線を化け物に送ったまま答えた。


「神奈子には社を守ってもらってるよ。早苗は……近付けないよね。あの子には刺激が強すぎる」


洩矢諏訪子は化け物を見る目を細めた。


「そこの天狗二人は社に行きなよ。もう限界でしょ?」

そう言われた射命丸文と姫海堂はたての顔には脂汗がじっとりと貼り付いていた。


「申し訳ありません、天魔様……これ以上はもう……」


「私もはたてと同じく……」


「よい……諏訪子殿、すまぬな」

「いいよいいよ。御近所さんだからね」


天狗二人は一目散に社へ避難した。


「さて……洩矢諏訪子、亮さんについて何か分かるのかしら?」


八雲紫が問う。


「んー、そうだね。その前に、そこの蓬莱人二人。あの翼は何だと思う?」


蓬莱山輝夜と八意永琳は化け物の翼を見た。思考の後、八意永琳が答える。


「穢れ……かしら?」


「半分正解かな」


ニコニコした笑顔を崩さず、両手を後ろで組み身体を揺らす洩矢諏訪子。


「月の頭脳とも呼ばれた君が疑問形を使ったのが半分正解の理由だよ。穢れに精通した月の民でもコレは見たことが無いだろうね…似ているけど違う……私も初めてだよこんなのは」


「勿体振らずに答えろ!!」


八雲藍の怒声にも笑顔を崩さず一瞥するのみの神。


「まぁまぁ怒んないでよ。彼氏が心配なのは分かるよ?」


一呼吸置き、洩矢諏訪子はこの場にいる者が知りたがっている事を話し出す。


「彼はね、一種の進化の途中なんだよ」


「進化……?」


「そうだよ、彼は今までこの世界に存在しなかった《何か》になりかけているんだよ」


その場にいる者は洩矢諏訪子の言葉が理解出来なかった。八雲紫と八意永琳を除いては。


「さすがだね……二人はもう理解したよね。じゃあ理解してない人達に補習をつけようか」


洩矢諏訪子は蓬莱山輝夜の前に歩を進める。


「彼は君達二人と同じ蓬莱人だね。蓬莱人は一つの枠組みから外れた特殊な存在なんだ。あらゆる生物が持つ生と死のサイクルから外れた存在。彼も外れてる。けど彼は更にもう一つ、何かしらの枠組み・システムから外れようとしてる。どうやって、何故かは分からない。だけど、それは重要じゃないんだ。重要なのは彼がこの世界に存在しないモノになりかけてるってことなんだよ」


「この世界に存在しないモノとは……」


八雲藍の質問。


「分からないって言ってるじゃん。あのね、彼はこの世界のあらゆる進化の枠組みから外れた進化をしているんだよ。人から神へ、人から仏へ、人から妖怪へなんて進化じゃない。これから彼が何になるかなんて分からないよ。ただ一つ確実に言えるのは彼が進化を終えたらこの星吹っ飛ぶかもね」


「なっ……」


洩矢諏訪子の爆弾発言に一同が驚愕の表情を見せる。


星を一つ落とす未知の存在になろうとしている佐山亮。そんな存在を放っておく訳にはいかない。対処法は限られる。


「殺す……のですか?」


八雲藍が恐る恐る洩矢諏訪子に聞く。


「それもアリだけど現実的じゃないね。骨が折れそうだし、下手すればこっちが殺されかねないよ」

「じゃあ……」


「簡単だよ。進化しようとしているんだからBボタン押せばいいんだよ」


その場にいる者全員が呆気に取られた。この山の神はこんな状況で尚も悪ふざけを止めない。


八雲藍は沸き上がる憤りをぶつけようとした。我慢出来なかったのだ。しかし憤りはぶつけられる事は無かった。


洩矢諏訪子の笑った目の奥の瞳には楽観や悪ふざけは微塵も無かった。

「まだ進化の途中だからね……チャンスは幾らでもあるよ」


佐山亮へ向かおうとする洩矢諏訪子に八雲藍が声を掛けようとすると予期していたように洩矢諏訪子が口を開いた。


「そんなに不安かなぁ……?私を誰だと思ってるの?」








「土着神の頂点・洩矢諏訪子を舐めるなよ?」





□□□□□□



一瞬の交差だった。


翼と鉄輪がぶつかる。


佐山亮は微動だにせず洩矢諏訪子の強襲を防いだ。


「へぇ……中々だね」


翼は続々と襲いかかる鉄輪を防ぎ、洩矢諏訪子を捉えようと分裂し空間を裂く。


「進化の途中でこれかぁ……進化しちゃったら手が付けられないねぇ…………!?」


次の瞬間、洩矢諏訪子の身体は翼に貫かれた。口からは唆護が流した物と同じ黒い液体が溢れ出している。


しかし洩矢諏訪子が唆護と同じ末路を辿る事は無かった。


貫かれた洩矢諏訪子と翼が破裂した。佐山亮は苦悶の表情を見せた。


「中途半端な状態でケンカは売る物じゃないよ」


背後には貫かれた筈の洩矢諏訪子、佐山亮の周囲には幾つもの鉄輪が取り囲んでいる。


「君を進化させる訳にはいかない。君が何から逃げようとしてるかは知らないけどね………君の在り様を戻す」


鉄輪が佐山亮の身体を縛る。鉄輪が身体を締め付ける度に佐山亮は悲鳴を挙げ翼は身体へ押し込まれていく。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ゛あ゛うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁあ゛あ゛ぇあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ」


目からは黒い涙を流し、口からは黒い血を吐く。徐々に翼は小さくなり、やがて完全に身体へ押し込まれた。



「君はこの世界に留まるべきだよ。君はまだヒトだ………」


「僕は…………」


佐山亮は何かを言いかけ意識を失った。


意識を失った佐山亮に八雲藍と八意永琳が駆け寄る。


「亮!!」


「直ぐに永遠亭に運ぶわ。紫、スキマを開いて」


佐山亮と二人はスキマへと消えていった。



「天魔も永遠亭に行かなくてよかったの?ケガしてるでしょ?」

「儂は構わん。それよりあの男は大丈夫なのか?」


天魔の問いに洩矢諏訪子は何事も無かったかのように鉄輪を指で回しながら答えた。


「大丈夫だよ。その内目を覚ますよ。でも、無理矢理枠組みに縛り付けたから多少時間がかかるかもね」


「無理矢理縛り付けるなんてデタラメね」


「紫だってやろうと思えば出来るでしょ。それと貸し一つだからね?後で彼の事借りるから。神奈子が彼と会ってみたいって言ってるんだよね」


「目が覚めたら伝えておくわ」


「宜しく頼むよ。じゃあ私はそろそろ戻るよ。天魔も来なよ」



洩矢諏訪子と天魔は守矢神社へ向かい、八雲紫は永遠亭へ向かった。




史上最大規模の反体制勢力による攻勢作戦は4時間足らずで終息し、一つの逸話を残した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ