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夢見の悪い幻想録  作者: ごまみりん
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撤退戦

[泥沼の撤退戦]


今回も三人称視点。



要塞が轟音と衝撃に震える。


要塞の周囲に展開された部隊からの銃撃・砲撃・魔術や妖術による攻撃を八雲藍の結界が防ぎ、要塞の銃座から体制派の天狗達が反撃する。



要塞への攻撃が始まった。同時に泥沼の撤退戦も始まる。


要塞内部では八雲紫が開いたスキマに怪我人が運ばれていく。行き先は迷いの竹林、永遠亭。


殿を引き受けた者達は要塞の門から飛び出し、夥しい数の敵を薙ぎ倒していく。


「あら、武闘派の天狗と聞いてたのだけれど期待外れね……」


「随分言ってくれるな、かぐや姫。だがそれについては儂も同感だ、一から鍛え直さねばな……」


そう話しながらもレーザーと暴風が敵を吹き飛ばしていく。


「射命丸、姫海堂!!へばるで無いぞ」


「はい!!」


「はたては元気ですねぇ……」


「天魔さん、はしゃぎすぎじゃないかしら?」


各々が確実に敵を減らしていく。




撤退を始めてから50分が経過した。


「紫、撤退の状況は?」


「永琳……怪我人は全員竹林へ搬送、天狗組ももうすぐ終わるわ」



「そう……爆薬は?」


「そっちも大丈夫よ。もう要塞全体に仕掛け終わったわ」


「ならもう潮時ね……」



八雲紫と天魔が立案した撤退作戦はおおよそ作戦通りに進んでいた。


スキマを使って人員を輸送する間、八雲藍の結界で要塞への攻撃を防ぎ、天狗と殿で応戦する。人員の九割が輸送出来次第天狗も撤退し、殿も後退を始める。全員が竹林へ脱出したら要塞を爆破して放棄する。



「姫様、天魔さん。天狗組の撤退がもうすぐ終わります。私達も後退しましょう」


殿を引き受けた者達の顔には返り血が跳ね、その顔には少なからず疲労と苛立ちが見えていた。


殺しても殺しても沸いて出る敵。幻想郷中の反乱勢力による侵攻は彼等の想像を超える物だった。


「そうだな……少し茶が飲みたい。後退しよう」


「退路を開くわ。退きなさい」


かぐや姫が手を前に出す。すると前方の敵が巨大な光の束、レーザーと呼ぶには太過ぎる光に焼かれていく。


「なんてデタラメな……」


「こわ……」


「何をしておる射命丸、姫海堂!走れ!!」


敵の一瞬の隙を突き、要塞へ駆け込もうとする。距離にして500メートル。中に駆け込んでしまえば結界に遮られ、敵は成す術が無くなる。



作戦は成功する筈だった。




要塞への退路に大量の光の矢が降る。



「ッ!?まずい!!」


矢の一本一本が空中でクラスター爆弾のように分裂し爆発する。

敵味方構わずに爆風と熱が襲いかかる。


「無事か!?」


「えぇ、何とか……姫様は?」


「このくらい平気よ。それより天狗は?」


「いったぁ……何なのコレ?はたて生きてる?」


「死ぬかと思ったわ……文は平気そうね」


「全員無事か……しかしこの攻撃……」



爆煙と土煙が晴れると天魔達の前には一人の烏天狗が立っていた。


「誰が逃がすかよぉ……天魔ぁ」

「やはりお主か……唆護」



反乱軍、妖怪の山最大の新興勢力の長、元大天狗―――唆護は天魔を睨み付けていた。


「セコい真似しやがってよぉ………天狗の恥さらしが。人間なんぞと馴れ合って誇りを捨てた裏切り者。てめぇは此処で殺す」


「お主は若すぎる、考えも行動も。時代は変わったのだ、我々も排他的でいる必要は無い」


「それが……その考えが……天狗を、山を衰退させた!!」


唆護と天魔の刀がぶつかる。刀は火花を散らし、斜陽を反射する。

「天魔様!!」


射命丸文と姫海堂はたてが加勢に入ろうとするが


「邪魔をするなぁ!!」


唆護の放った風に吹き飛ばされてしまう。


「姫様………」


「まずいわね。また囲まれたわ……」


唆護に足止めされた間に蓬莱山輝夜の開いた退路は絶たれ、周囲はまたもや包囲された。


要塞からの支援も無い状況でこれ以上時間を掛けると最悪の事態に陥る事になる。


夜戦。それが八雲紫と八意永琳が想定しうる最悪の事態。夜戦用の装備も無く、圧倒的な数的不利。更に今日は新月で光源も無い。



八意永琳は焦っていた。








□□□□□□



「貴様を殺して俺がこの山を統べる!何者にも屈しない強靭な山を取り戻す!!」


「何を言っておる?今も山は何者にも屈してはおらぬ。何を勘違いしておるかは知らぬが、もうやめろ」


天魔の言葉に唆護の刀を握る力が強くなる。


「やっぱり話が通じねぇなぁ……この老いぼれがァ!!」


「老いぼれで結構だが、今のお主はまるでガキだ。癇癪を起こしたガキだな」


斜陽が照らす山に陽と同じ色の火花が散る。


幾度も刀は交わり、互いの身体を切り裂く事は無いかと思われた。しかし



「ぐッ………」


「ハハッ……どうした天魔?年寄りには辛いか?」


「ぬぅ……暫く鉄火場を離れすぎたやもしれん……」


天魔の胸には一文字の刀傷。命に関わる傷では無いが、血が流れ着物を朱に染めている。


天魔も八意永琳と同じように焦っていた。


唆護は片手間で倒せる程弱い相手では無い。しかも日は沈みかけている。天魔の頭にも夜戦という最悪の二文字がよぎる。


時間稼ぎの足止めをするつもりが、此方が足止めを喰らってしまった。


刀を握り直し唆護を見据える。

再び唆護に向かおうとすると、唆護の立っている場所がドッと言う轟音と共に爆発した。周囲も同じように爆発し敵が消し炭になっていく。



「お困りのようね、助けてあげるわ」


声の主は八雲紫だった。スキマに腰掛け絨毯爆撃を行っている。

「私も加勢させて頂きます……」


八雲紫の式の八雲藍も地上で敵を細切れにしてゆく。



「八雲紫と式の狐か……貴様らも殺す!!」


煙から唆護が飛び出し八雲紫に斬りかかる。


「させない!!」


それを八雲藍が止める。


「あまり私を怒らせるな天狗。私は今、気が立っているんだ……」


八雲藍は唆護の頭を掴み地面に叩き付けた。



「すまぬな、八雲の。まさか唆護が出てくるとは……」


「思い通りにいかないのは慣れてるわ。ほら、来るわよ……」


八雲藍に地面に叩き付けられた唆護はゆらりと起き上がり、着物を脱ぎ捨てた。


「面白くなってきたなぁ……いいぜ。こっちも本気を出させてもらうぜ?」


唆護の身体から凄まじい圧が放たれる。


「時間をかけて説教しなければならぬようだな……八雲の、付き合え」


「構わないわよ。けどその前に、こうしちゃいましょう……」


カチッという音の後に要塞が崩れ落ち、火に包まれる。


「夜戦の光源もバッチリね」


「紫様……滅茶苦茶やりすぎです」


「それは良いが……来るぞ」


唆護の手には光り輝く弓が持たれていた。しかし、そこにつがえられた矢は放たれる事は無かった。



周囲が闇に包まれた。


夜が来た。誰もがそう思った。


しかし日が落ちた訳では無かった。日蝕のように巨大な何かが陽光が遮ったのだ。


敵も味方も関係無く陽光を遮った者を見上げた。



「亮………?」



死の権化が戦場を覆う。

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