軍議
三人称視点です
[包囲からの撤退戦]
爆発音と銃声と悲鳴。慌ただしく行き来する天狗や河童。次々と上がってくる被害報告。
妖怪の山は混乱に陥っていた。
46分前の奇襲により壊滅的な打撃を与えられた天狗の即応部隊は使い物にならなくなり、妖怪の山首脳部は限られた戦力と共に天魔の居城からの撤退を余儀無くされた。
唆護一派と反体制勢力の奇襲は彼らの所定の目標を達成させた。会談中の八雲紫と首脳部を天魔の居城から撤退させ、即応部隊を潰し、拘束されていた彼らの指導者――唆護を奪還した。
この状況を八雲紫は好ましく思っていなかった。
奇襲を受けた八雲紫と首脳部は山の中腹にある要塞に籠城している。即応部隊を潰され部隊の再編のメドが立たない状況で限られた戦力で大挙する軍勢を相手にするというのは誰がどう見ても良い策とは言えないだろう。
だが要塞の周囲は既に包囲されている。スキマで逃がそうにも頭の堅い首脳部が徹底抗戦の構えを崩さない。
彼女の部下である佐山亮とは連絡が着かず八雲藍と河城にとり、永遠亭から八意永琳、鈴仙・優曇華院・イナバ、蓬莱山輝夜が援軍として要塞に駆け付けた。
「紫様………亮とはまだ……」
「そうね、連絡が着かないわ」
「八雲の……」
妖怪の山の長、天魔が大天狗を引き連れ八雲紫の元へと現れた。
「今後の事を皆で話したい。顔を出してくれ。薬師もだ」
呼ばれた八意永琳は弟子に怪我人の治療を任せ、八雲紫と共に天魔に続いた。
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要塞の一室に首脳部、八雲紫、八意永琳達は輪になって座っていた。
「それで………どうするのかしら?」
口火を切ったのは八雲紫だった。
「無論、儂らは戦うぞ!!」
「やられたままではおれぬ!!」
「即応部隊がやられたとて、儂らだけで十分だ。返り討ちにしてやろう……」
大天狗達の意見は変わらず徹底抗戦するという物だった。
一時妖怪の山から撤退し、体制を立て直してからの奪還作戦を八意永琳も提案したが、頑なに彼らは山を離れようとしなかった。
「何故あなた達は山から離れようとしないのかしら?下らない面子を守る為だけに勝ち目の無い戦いに行くつもり?馬鹿馬鹿しい」
「薬師!!貴様、我々を愚弄するのか!?」
「我々はこの山を管理する者として離れる訳にはいかないのだ」
「同胞が大勢殺された。敵を取らなければならない!!」
八意永琳の言葉に各々の理由で反論する大天狗達。天魔は沈黙を守っている。
「愚弄するも何も事実を言っただけよ。まぁ私はあなた達が死のうが敵を取ろうが関係無いけど、首脳部が壊滅した後この山の管理はどうするのかしら?」
大天狗達の口は閉じられ、代りに天魔が口を開いた。
「我々は………御山を放棄する」
「天魔様!?」
「勘違いするな……一旦手放すだけだ、必ず奪い返す。怪我人の手当ても必要だ……異議があるなら申せ」
「…………天魔様の仰せのままに」
大天狗達は頭を垂れた。
「八雲の、退路を頼む。殿は……」
「私がやるわ」
部屋に突然、蓬莱山輝夜が入ってきた。
「姫様……」
「自分で言うのもアレだけど殿にはぴったりよ?死なないし、久し振りに身体動かしたいのよ。構わないわよね?」
八意永琳はため息をつくと呆れた顔をして
「それなら私もお供します。天魔さん、殿は私達で……」
「儂も出る」
「天魔様!?」
「儂も月の姫と同じだ。久し振りに身体を動かしたくなってきた」
大天狗達があたふたする中、永遠亭の二人は不適な笑みを浮かべた。
「お年寄りは無理しない方がいいと思うのだけれど?ねぇ永琳」
「そうですね姫様。足手まといにならなければ良いのですが」
「何を言っている?儂よりも貴殿らの方が年上ではないか、この年増」
「あら口だけは達者なのね……この若造が……」
「永琳、素が出てるわ」
八雲紫に突っ込まれながらも撤退戦の殿が決まった。
「直ぐに準備しろ。大天狗衆は撤退の支援を、怪我人から先に運べ。30分後に状況を開始する」
大天狗達は部屋を出ていく。
「射命丸、姫海堂……」
天魔が名を呼ぶと烏天狗が二人背後に現れ、控えた。
「お主らは儂に付いてこい」
「「天魔様の仰せのままに」」
「藍は要塞の周囲に結界を、にとりは要塞に爆薬を仕掛けて」
「分かりました」
「分かったよ、紫」
八雲紫が外を見ると、日は傾きかけていた。




