義妹
[それはいつか見た笑顔と重なって見えて]
向日葵は夏の花だ。そんな事は誰でも知っている。夏が終われば枯れるし、冬に向日葵は咲かない。
そのセオリー通りに太陽の畑は寂しい雰囲気に包まれていた。夏には向日葵が一面に咲き誇り黄金の光に包まれ美しい風景が広がっているが、今は冬。向日葵は枯れ、どこまでも荒涼とした大地が広がっている。
その荒れた畑の向こう側に一軒の家が見える。僕の式、風見幽香の家だ。
家の前に二つの人影が見えた。組み手をしているようだ。一人は大振りで隙だらけなパンチを振るい、一人は日傘を差しながらそれを避けている。
「何してんの?」
声をかけると人影達はこちらを向いた。
「あら……主様じゃない」
「師匠!!」
人影達、風見幽香と藍沢雫は僕の方へ歩いてきた。
「その師匠って呼び方は止めてくれ」
「え………じゃあ、先生?」
「師匠よりはマシだよ」
墓地で技術を教えると言ってから二週間が経った。晩秋から冬へ、雪も降った。
藍沢雫は風見幽香の家で最低限の体力を付ける為にトレーニングさせた。あのままじゃ話にもならない。その一環として組み手もさせていた。
八雲紫は腹を抱えて「結局弟子にしたのね」と笑い、藍さんは何故か応援してくれた。
二週間は案外短く、外で入り用な物を買ったり準備してたらあっという間に過ぎてしまった。
「それで従僕、どう?」
「まぁまぁって所かしら?ある程度の水準なら満たしているって感じね」
「そう………じゃあ、そろそろ始めてもいいかな」
僕は持ってきた荷物を下ろした。
「おい、藍沢」
「何ですか?先生」
藍沢雫を下ろした荷物の前に呼ぶ。
「プレゼントだよ。開けてみなよ」
藍沢雫が荷物の中を確認すると「わぁ」というメルヘンな反応をした。中身はそんなメルヘンな物じゃないのに。
「これ………全部いいんですか?」
「あぁ、いいよ。全部あげる」
荷物の中にはタクティカルベスト、レミントンACR、SIG516、MP5A5、USPコンパクト、SSG-3000、その他装備一式が入っていた。
「君がこれから使う得物だよ。大事に使ってくれ」
「はい!ありがとうございます!!」
藍沢雫は余程嬉しかったのかACRを抱えてぴょんぴょん飛んでいる。随分と物騒な光景だ。風見幽香は苦笑いしている。
「これ、お父さんとか警備部隊の人達が使ってる銃と全然違う」
「それはそうだよ。外で買ってきたやつだからね」
藍沢雫の父親、警備部隊が採用しているアサルトライフルはAK47、新設された特殊部隊が採用しているのはM4。AKなんて半世紀以上使われ続けてる時代遅れの銃だ。高が知れている。M4も似たり寄ったり。
頑丈だけど精度が悪い銃や精度は高いけど作動信頼性が低い銃。そんな銃を使うよりはいいだろう。
「さて、主様。これからどうするのかしら?」と風見幽香が聞いてくる。
「そうだね、明日から本格的な訓練に入る。3日でそこら辺の妖怪を殺せる位にはなってもらわないとね……」
「3日は厳しいんじゃないかしら?」
「それぐらいの意気で行かないとって事だよ。適性があれば簡単な魔法も教えたい。見込みはありそう?」
「普通の人間よりはね。随分と可愛がってるのね」
「教える手前、手は抜けない。魔法の方は任せる。お前魔法使えるよね?」
「少しね……、でも主様の魔法の方がいいんじゃないの?」
「僕の魔法は地味だから」
「私の魔法は派手すぎると思うけど?」
「地味よりはいい」
「先生、これ撃っていい〜?」
藍沢雫はACRを振り回している。
「駄目だ」
「えー」
「後で撃ち方を教えてやる。今は駄目だ、ケガしたらどうする?」
「ふふっ……まるで兄妹ね……」
「…………バカ言うな」
ACRを振り回す藍沢雫の笑顔は何処と無く、梨佳に似ていた。




