剣客・前編[コラボ回]
今回は天城煌哉先生の[幻想剣客伝]とのコラボ回です。
前編と後編に別れております。
天城煌哉先生
刀哉さん
コラボしてくださりありがとうございます!!
では、どうぞ………
「毎度ありがとうございました」
「どうも……」
人里。手には卵と牛乳の入った袋。
装備の点検を終え、ふと牛乳が飲みたくなり冷蔵庫を開けると牛乳が切れていた。
無性に牛乳を飲みたいという欲求に駆られた僕は人里まで買い物に来た。ついでに同じく切れていた卵も買い足しておく。
時刻は午後5時、夕暮れ時だ。空は茜色に染まり、秋の到来を告げるようにアキアカネが目の前を横切る。
こんな風景を見てると何故か寂しい気持ちになり、早く帰りたくなる。人間の帰巣本能を刺激するのだろうか?
人里の門を抜けて、色付き始めた木々を見ながら歩く。今度は藍さんと紅葉狩りにでも行きたい等と考えていると嫌な匂いがした。
「…………血か?」
鉄のような匂い、嗅ぎ慣れた匂い。厄介事の匂いが僕の鼻腔を刺激する。人里の外周からさほど離れていない場所でこんな匂いが立っているのは少しおかしい。この辺りは警備部隊の巡回ルートにも入っている筈。もしかしたら巡回中に何者かから襲撃を受けたのかもしれない。
血の匂いは道の傍に広がる森から薫ってくる。面倒事は好きじゃないが、最悪人里に被害が出て後々大きな仕事になって返ってこられても困る。火種は小さい内に処理するに限る。仕方なく道を反れる事にした。
鬱蒼と広がる森は季節と時刻も相まってか、足を踏み入れた者を飲み込んでしまいそうな不気味な雰囲気を醸し出していた。そんな所にスーツで入っていく自分に半ば呆れつつ匂いを辿り奥へ進む。
3分程歩くと開けた場所に出た。森の中にぽかんと1つだけ穴が空いたような場所だった。
「あぁ……随分と派手に……」
そこには鉄の匂いが充満していた。地面は空の如く茜色に燃え、獣の姿をした妖怪、不完全な人の形をした妖怪達の死骸が乱雑に転がされていた。
妖怪達の死骸には綺麗な刀傷があった。まさに一刀両断、素人目でも相当な手練れがこれをやった事が分かった。
死骸の傍らには和装の男が立っていた。ゆらりと立つ姿は幽鬼の如く、男がただ者では無い事を物語っていた。手には刃渡り90センチ程の長刀、刀身は朱に染まっている。
僕は無意識にP226とナイフを手にしていた。いけない、非常に悪い状況だ。まともにやり合って勝てる相手では無い事は明白。どうやって逃げるか考えていた。
刹那、視界が回った。一瞬の空白の後、首が斬り飛ばされたと理解した。
姿が見えなかった、思考する間もなく首を斬られた。
「(あぁ……油断したなぁ)」
中々、首が再生しない。再生を阻害する術でも打ち込まれたのかもしれない。
男は刃に付いた血を懐紙で拭っている。よく見ると幼い顔立ちをしている。もしかしたら僕より年下なのかもしれない。
「痛いな………随分なご挨拶だね………」
再生した首を擦りながら男に声を掛けた。男は振り返り怪訝な顔をした。まぁ無理も無いだろう。首を斬り飛ばした相手が何食わぬ顔で抗議してきているのだ。気味が悪いったらありゃしない。
しかし、そんな事はどうでもいい。僕は今腹を立てている。どうやらやられっぱなしというのは性に合わないらしい。海兵隊時代、ポーカーで大負けして金を巻き上げられた時、翌日倍にして奪い返した事があった。首一本飛ばしたんだ。大脳皮質でタペストリーでも作ってやろう。
「いやぁ、さっきのは痛かったよ…………これお返し」
男の眉間に9ミリパラベラム魔術弾が放たれる。脳幹を撃ち抜き、脳漿をぶちまけさせる筈だったが弾丸は真っ二つにされた。もう弾丸を刀で斬る事については驚かないし今更突っ込む気力も起きないが、何故音速を超える弾丸をそんなにもスパスパ斬れるのだろうか?
男が再び懐に入ってくる。左手のナイフで男の斬撃を防ぐが一撃が重く、後ろへ押され防戦一方になってしまう。
男の太刀筋は読みずらく、動きも早い。腹に銃弾を一発入れようにもかわされるか弾丸を斬られてしまう。
埒が開かない。いつかの友人の時もそうだったが刀を得物にした相手との戦闘は苦手だ。経験が少ない上、対処できるのはナイフのみ。しかもナイフと長刀ではリーチが違い過ぎる。
男を蹴り飛ばし、MP7で弾をばらまく。男は弾から逃げるように僕の周りを走る。
4.6ミリ弾を1マガジン撃ちきると男が突っ込んできた。男の刃が僕の左肩に触れる。このまま行けば刃は右脇腹へ抜けるだろう。妖怪達の死骸同様に真っ二つだ。
だがそれが狙いだった。以前刀を得物にした敵と戦闘した時と同じ、僕の不死を最大限利用したカウンター。
「[侵食]」
男の腕を掴み、男の身体を空間ごと侵食する。男の身体は歪み、空間と共に抉り取られる。肉を斬らせて骨を断つ。これで終わりだった、一つのおかしい点を除けば。
おかしいのは僕の視界には僕の下半身が見えていて男が何食わぬ顔で立っているという事だ。
「(幻術ねぇ……)」
化かされた。どうやら男は幻術の類いも使えるようだ。想定内ではあったが少し驚いた。しかし何も問題は無い、何故なら
「本物はこっちだよ」
男の立っている場所に土煙が上がる。500メートル先からの狙撃。M82A3、対物ライフルによる狙撃だ。人1人殺すのに対物ライフルを引っ張り出す事は普通無いが、9ミリ弾では役不足だ。12.7mm弾なら殺しきれるだろう。
僕は男の幻影を殺し、男は幻影を殺した僕の幻影を殺した。今度は本物の僕が本物の男を殺す。
目が合った。土煙の向こうの男と目が合ってしまった。
とうとう殺す手立てが分からなくなってきた。本当に人間なのか?対物ライフルの弾を斬って、僕を見据えている男は果たして人間なのか?C4抱えて自爆でもしなければ殺せないのだろうか?
「アンタ本当に何者なの?」
「人に名を尋ねるのならそちらから名乗るのが礼儀ではないか?」
確かにその通りだ。
「佐山亮、通りすがりだよ」
「経津主刀哉だ」
「あぁそう……で、経津主さん何者なの?何で死なないの?」
「それは此方の台詞だ。何故首を刎ねて死なない?妖怪か?」
「身体は丈夫な方なんだ。妖怪じゃないよ」
沈黙。互いの一挙手一投足に神経を尖らせる。
「一つ尋ねる」
「何?」
「此処は何処だ?」
油断させようとしているのか、集中を掻き乱そうとしているのか、この男―――経津主刀哉はアホらしい質問を飛ばしてきた。
いや、しかし外来人という可能性もある。その場合は外に返すなり何なり然るべき対応を取らなければならない。
「ここは幻想郷だよ。アンタ外来人?」
すると経津主刀哉は僕の回答に驚いた表情を見せた。
「馬鹿を言うな。俺は人里で慧音と話していて帰る途中に気付いたらここにいたんだ。こんな場所見たことも来たことも無い」
「馬鹿を言うなと言われても………ここは幻想郷で………ん?慧音?」
聞き覚えのある名前が出た。何故この男の口から上白沢慧音の名前が出るのか?
「アンタ何処に住んでる……?」
「人里の外れにある城だが……美剣城という……」
人里の外れに城なんて無い。だが、この男は上白沢慧音の名や人里の名前を知っている。少なからず幻想郷の知識を持っているという事だ。
男も訳が分からないといった顔をしているが訳が分からないのはこちらの方だ。
そこで以前この幻想郷に迷い込んだ1人の友人の事を思い出した。もしこの男が別の次元の幻想郷から何らかの原因で迷い込んでしまったとしたら、幻想郷の知識を持っていたとしてもおかしくはない。
「アンタ、元いた場所に戻りたい?」
「勿論だ。帰る事が出来るのか?」
「少し待ってくれ……」
インカムでにとりに通信を繋ぐ。
「にとりか?あぁ……そうだ。紫さんいるか…………繋いでくれ……」




