創作
[仕事の最後に面倒事]
銃声と爆発音。馴染み深い仕事の音。いささか最近頻繁に聞きすぎている気もする。
森の奥から高笑いと共に甲高い声が聞こえる。
「隠れてないでぇー………出てきなよぉ………ねぇったらぁ」
声の主、雲居一輪は金色の輪を弄びながら僕を探し回る。
環境追従迷彩を起動し周囲の景色と同化している為、雲居一輪は僕の姿を捉えられない。
木の枝の上で500メートル程先を彷徨く雲居一輪をM40A5のスコープ越しに覗く。
かくれんぼで出てこいと言われて姿を現すような馬鹿がいるだろうか?
そんな事を考えながら雲居一輪の右膝を撃ち抜く。サプレッサーで減音されたパシュンと言う銃声と共に雲居一輪が膝をつく。
「見えないところからパスパス攻撃して………痛いのよおおおおお!!」
僕のいる方向へ手で弄んでいた金色の輪を投げてくる。輪は塞がる木々を切り倒して此方へ向かってくる。僕は地面へ飛び降り移動する。輪はブーメランのように持ち主の手に戻った。
「アレ、あんな使い方もあるのか………」
感嘆している暇も無く、レーザーが森の木々を薙ぎ倒す。咄嗟に姿勢を低くして頭が吹き飛ばされるのを防ぐ。
「どうして幻想郷の住人は皆こうも荒いやり方ばかりなんだ………?」
雲居一輪の背後に回り込みナイフを投げる。風見幽香には効き目が無かった神経毒を塗ったナイフ。
背中にナイフが突き刺さった雲居一輪はすぐに地に伏した。実に呆気なく、風に吹かれた紙切れのように、いとも容易く倒れた。
呆気ない。良く良く考えれば、これまで戦闘した相手が骨太過ぎたのかもしれない。藤原妹紅に風見幽香。二人に比べれば雲居一輪が普段の仕事相手より少し強い程度に感じられてしまうのも仕方がない。
うつ伏せに倒れている雲居一輪を仰向けにする。毒が回り身体が動かないようだ。
「気分はどうかな?」
「いい気分じゃないわ……」
何とか言葉を紡いでいると言った様子。
「そういえば、アンタは雲山とか言う妖怪といつも一緒にいると聞いてたんだけど、相方はどこ?」
何となく気になっていた事を聞いてみた。
「あぁ………雲山はね、頑固だからあたしの芸術を理解してくれないのは目に見えてるの。だからいつも寺に置いてきてるわ。あたしとあなただけよ……芸術を……彼を理解出来るのは」
「あぁそう」
「ねぇ、あたしも聞いていい?」
「何?」
「どうして能力を使わなかったのよ?」
恨めしそうに聞いてくる雲居一輪。
「能力を使ったら味気無いからね。すぐ終わっちゃうし、つまらない。僕の作風だよ。アンタを殺す事は仕事だけど、作品を創るのは仕事じゃない。だから嬲り殺しにするのも悪くないって思ったんだ」
そこまで言うとナイフで四肢の腱を切る。
雲居一輪は叫び声を上げる。
「あああ……いやああああああああああああ……ッ」
甲高い声が耳に響く。まるで僕が変質者か何かのようだ。不快だ。
「うるさいなぁ……腱を切られたくらいで……、静かにしてくれよ」
続いて件の両目を抉り取る。雲居一輪は更にけたたましく悲鳴を上げるが、その声は僕に作品が順調に仕上がっている事を知らせてくれる。
仕切りに雲居一輪は何かをブツブツと呟いている。恐怖に駆られているのだろう。やっと死が間近にある事を実感したようだ。
目が無ければ何も見えない。そんな事も分からなくなったのか頻りに辺り見渡そうとする雲居一輪。滑稽極まりない。狂人の真似事の末路等こんな物だろう。
だがまだ足りない。雲居一輪のように言えば、死に面した時の恐怖の表情と痛みに耐える苦悶の表情が足りない。
そこで爪を剥ぐ事にした。ナイフの切っ先を左手人指し指の爪と肉の間に差し込み、剥ぐというよりは削ぎ取る。
「あ゛あ゛ぁぁ!!あ゛あ゛ああぁあ゛あ゛あえ あ゛あああああ!?」
彼女の表情を見た時、パズルのピースが嵌まった気がした。がらんとした眼窩から流れる血の涙、ひきつり口角がひくひくしている筋肉、鼻水や涎が恐怖で止まらない様。
これこそ、僕なりの[目隠し]へのリスペクト。いや、僕の原風景。死への恐怖、生への執着。命を渇望する表情。
僕は全ての指の爪を剥ぎ、関節を潰し、骨を砕いた。
妖怪だからこそ生きてはいるが、人間だったら既に死んでいる。
別に何個も作品を作るつもりは無い。[目隠し]や雲居一輪のように創作意欲に支配されたりはしない。だが、処女作にしてはいい方だろう。そう思った。
「さて………仕上げだ」
雲居一輪の眉間にM45A1のマズルを向ける。何も見えなくても仕上げの意味は彼女にも分かるらしく、逃げようと身体を動かそうとしている。
引き金を引けば45口径が眉間を撃ち抜き、作品が完成し仕事も終わりだ。仕事が終われば少し休みを貰って藍さんとピクニックにでも行こう。
そんな事を思っていたが、どうやら仕事は長引きそうだ。
「囲まれたか………」
いつも大きな仕事の最後には何かある。呪いか祟りかはたまた運が悪いだけか、面倒事が起こる。外の世界にいた時からそうだった。
「そこまでです………」
耳にしたく無い、苛立たしい声が聞こえた。忌々しい魔法使い、愚かな理想主義者。
聖白蓮は僕を鋭い目付きで睨んでいた。




