紙一重
[作風の違い]
「そういう訳だ。何か質問は?」
「亮はいつも面倒事に巻き込まれるね」
「そうね。しかもあの[目隠し]だなんてね……主様も災難だわ」
命令を受諾した後、にとりと式――風見幽香に仕事の内容を説明していた。
「従僕は何か知ってるの?[目隠し]の事」
「私に限らず、人外だったら150年前の事を忘れた者はいないんじゃないかしら?ねぇ、にとり」
「そうだね、幽香の言う通りだよ。あの頃は幻想郷中が疑心暗鬼になったからね………。御山も被害を受けたよ」
「そうか………でも地底の鬼衆は[目隠し]の事を知ってるようには見えなかったのだけれど」
「それは地底は被害を受けてないからよ」
だから厳紡は目を抉られた死体を知らなかったのか……
「従僕、150年前は命蓮寺が捜査を主導してたんだよな?その時の命蓮寺の動きを教えてくれ」
「私も関わってた訳じゃないから詳しくはわからないけど、初めは生け捕りにする予定だったらしいわ。大方説法でも喰らわせる気だったんじゃないかしら?参加したメンバーは現在の命蓮寺のメンバーとほぼ同じね。大量の犠牲者が出たのは命蓮寺の初動が遅れた事と捜査の進度より早く[目隠し]が作品を作っていったから。まぁ、最後には追い詰めた目の前で劇的な死に方されちゃったらしいけどね」
「劇的な死に方?」
「そうよ。自分の心臓を貫いて、両目を抉り取って死んだのよ」
「その劇的な死に方と悪行から[目隠し]を崇拝する奴等も現れたんだ」
「崇拝………。信者か……」
伝説的な殺人鬼に魅入られ、崇拝する連中。外の世界にも似たような奴等がいた。
「となると模倣犯か、[目隠し]の遺志を継いだ信者か………」
「遺志を継いだとは限らないけど、信者の可能性は高いわね……。どうするの……主様?」
「にとりは、信者の可能性がある奴等をリストアップしてくれ。人妖問わずにだ。従僕はリストアップした連中にアプローチを掛けてくれ。殺しはするな。殺さなきゃ好きにしていい」
「「了解」」
ブリーフィングを終えた後、僕は自室に籠った。
壁や天井には今回の件と150年前の資料。寝転んでも起きても資料が目に入る。
視線の先には今回発見された遺体の写真。およそ芸術とは言い難い物が写されている。
「美しくない」
そう思った。目の抉り方にしろ身体の貫き方にしろ、美しくないと思った。
150年前の資料を読み、目を閉じる。そこに150年前に作られた作品が浮かび上がる。僕は実物を見ていない。だが、分かる。その作品の美しさが。
狂気と美の調和。綱渡りのような美しさ、紙一重の美しさがそこにはある。いや、あった筈だ。
しかし、今回の遺体からは美しさでも無ければ、[目隠し]へのリスペクトでも無い。混乱のような物を感じた。自分のしている事が理解出来ていない、身体と精神がバラバラ…………
いや違う。混乱なんかしてない。犯人は[目隠し]の信者だろう。だが模倣してる訳じゃない。犯人は[目隠し]とは違う作風を持っている。[目隠し]が狂気と美の調和を図ったのなら、今回の犯人は暴力性を前面に押し出した荒々しい作風。美しさじゃない、猛々しさ。命を奪う残酷さを見る者に突きつける………。
「………う………亮!!」
八雲藍が部屋を心配そうに覗き込んでいた。
「あぁ……藍さん。どうしたの?」
「いや、一緒にお酒でもと思ったのだが………大丈夫か?」
「何が………?」
「気づいてないのか………?亮、笑ってたんだぞ?それにその写真………例の件の……」
「大丈夫だよ、藍さん。疑問が解決したから少し笑っちゃったんだ。紫さんから少し頼まれ事でね、遺体の所見を聞かせて欲しいって言われただけだよ」
「そうなのか……?それならいいが……」
「いつもの縁側で待ってて。すぐに行くから」
「わかった。つまみも用意してあるからな」
そう言って八雲藍は立ち去る。
彼女が立ち去ってから遺体の写真を再び見る。その時気付いた。何故、八雲紫が博麗霊夢で無く僕にこの件を任せたか、彼女では辿り着けないという発言の意味。八雲紫は分かっていたんだ。
僕がこちら側なんだと。




