焦燥
霊夢目線
[あなたは巫女に相応しくないわ]
私は恐ろしい物を見た。何が恐ろしいとは説明出来ない。言葉にする事が難しい。
「一体……どういう事なんだぜ……」
私の隣の魔理沙は唖然としている。
「幽香を殺した……?」
私と魔理沙が太陽の畑に向かう途中凄まじい光を見た。急いで駆けつけると、そこには血まみれの幽香と男が立っていた。
男には見覚えがあった。[会議]でレミリアと咲夜を軽くあしらった男。確か名前は……
「佐山亮………」
私が祓い棒を構えると
「待ちなさい、霊夢」
紫がスキマから出てきた。
「何の用よ……、今は忙しいの。後にして」
「聞こえなかったかしら?私は待ちなさいって言ったのよ……。ほら見てみなさい」
下の男の方から光が放たれる。幽香と男が光に包まれ、幽香の傷が癒えていく。
「何なの………アレ……」
「式の契約よ」
「じゃあ幽香は……」
「そう、亮さんの式になったのよ。亮さんもいい式を捕まえたわね…………」
「ふざけないで……彼はアンタの護衛よね?どういうつもり?」
私は紫に詰め寄った。
すると紫は
「そんな怖い顔しないで頂戴、びっくりしちゃうわ……」
「ふざけないで!!紫……いくらアンタでも……」
「私でも何かしら?」
紫から表情が消えた。
「私をどうするのかしら?答えなさい、博麗の巫女」
「頭に血が登ったかしら?それじゃあ紅魔館のお子様と変わらないわねえ……」
「あの男は危険よ……何故あの男を野放しにしておくの?」
紫に問う。
「野放し……?馬鹿なことは言わないで頂戴。私にとって藍が右腕ならば彼は左腕。大事な部下であり家族よ。それに彼を危険という根拠は何かしら?」
「それは………幽香を殺せるだけの………」
「違う」
私の言葉は紫に遮られてしまう。同時に分かってしまう。今から紫は私でも分からない私の本質的な部分に言及するのだと。
「あなたと彼は表裏の存在。あなたが表のバランサーで彼が裏のバランサー。あなたじゃ対処出来ない案件も全て彼が処理しているわ」
「あなたも薄々気付いてたのでしょう?自分の他に役目を持つ者がいる事に。あなたが彼を恐れているのは………」
やめて………
「自分の存在価値を彼に侵食されていると思っているから。彼を幻想郷にとっての危険因子にして始末すれば自分の価値を保てるから……」
違う………
「でも、あなたは彼に勝てるかしら?彼はあなたと違って、守る為に自分を犠牲に出来る人間よ。あなたは……どうかしら?」
出来る……私にだって……
「それと、あなたの言ってる事も間違っては無いわ……。彼にだったら、あなたがなりたかった物になれるから……」
違う……それは……
「永遠のバランサーに」
頭の中が真っ白になる。心の奥底まで見透かされた。自分の醜悪な部分を掴み上げられ、目の前に突きつけられたのだ。しかも魔理沙の前で。
何故、紫がこんな事をしたのか。理由は明白だ。私が彼を侮辱し貶めて始末しようとしたからだ。紫は怒ったのだ。自業自得だ。
それに紫が私では無く、彼に幽香を処理させたのも私だったら幽香を生かす事が出来なかったからだろう。
私は博麗の巫女なのに………
私は意味の無い焦燥感を勝手に他人のせいにしてあまつさえ関係の無い人を妬み、適当な理由をこじつけて始末しようと…………
「れ………霊夢?」
魔理沙の声で我に帰る。紫も男も幽香も既に居なかった。
「……………帰りましょう、魔理沙………」




