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夢見の悪い幻想録  作者: ごまみりん
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散花

[千日紅を手に入れた]



「なあ………1つ聞いていいかな…?」


「……………………」


「アンタぐらいの妖怪って……皆そんな感じなの?」


「………………」



返事は帰ってこない。分かってはいるが聞かずにはいられない。


[侵食]で抉り取った筈の風見幽香の右手が何故か再生していたからだ。


確かに妖怪の再生能力は人間のそれを遥かに凌駕する。しかし、この妖怪………風見幽香は空間ごと抉った腕を瞬時に再生させた。蓬莱人並みの再生スピードを持つ妖怪なんて聞いたことが無い。



「何とか言っ………」


人の話を聞かないで攻撃してくる。日傘からレーザーを幾条も発射し僕を殺しにかかる。


レーザーを避けていくが、僕が数秒前までいた場所は漏れなくクレーターになっていた。


馬鹿げた火力、ここに極まれりと言った所か。


「…………たらどうなんだ?」


言いかけた言葉を最後まで言い終え、風見幽香の喉元に神経毒を塗ったナイフを投げる。


風見幽香の喉元にナイフが突き刺さる。妖怪でも五秒と経たずに行動不能にする植物性の神経毒。風見幽香が膝から崩れ落ちるのを待つ。


だが、風見幽香は立ち尽くし僕に日傘を向ける。デタラメだ。そこら辺にいる妖怪なら700回は殺せる量の毒を喰らって顔色一つ変えない。



風見幽香が呟く


<あうあ…うぱあく…(マスタースパーク)>



日傘の先に光が集まっていく。避けられない。すぐに分かった。



「[侵食]」


前方一帯の空間を侵食し歪める。


圧倒的な光の束が放たれる。視界を白く塗りつぶす光。歪められた空間に光の束がぶつかる。


光は空間の中で乱反射して明後日の方向へ抜けていく。光が抜けた遥か向こうに爆煙が立つ。まるで空爆を受けたような。




「とんでもないな………アンタ。藤原妹紅のが幾分かマシかもね」


「………………ぇ………ごァ……………」


交戦を開始してから5分。様々な疑問が浮かぶ。


1つ。妖怪だとしても桁外れな再生スピード。


2つ。強力な神経毒を喰らって顔色一つ変えない耐久力。


3つ。洗脳状態にあったとしても酷すぎる言語障害。



その疑問はすぐに解消された。

風見幽香が吐血した。吐血だけじゃない。目や耳、毛穴や鼻。身体中から出血し始めた。


「あぁ………そうか……アンタそんな物まで飲まされたんだ……」


外の世界で見た物と同じだった。


ブースタードラッグの過剰摂取(オーバードーズ)。その副作用。


異常な再生スピードも耐久力も言語障害の謎も全て副作用だった。


「…………………ヴ………ぇ…………」



風見幽香の懐に一気に入り込み、ナイフで喉を掻き切る。P226で眉間を撃ち抜き、蹴り飛ばす。スキマポケットからSMAWを取りだし、蹴り飛ばした風見幽香に向け発射する。ロケットランチャーの直撃を受け爆発に包まれる。


倒れる風見幽香の首に手を掛け身体を侵食しようとするが、日傘が僕の身体を貫いた。



「残念………こっちがメインだ」

風見幽香の首にはC4。


「熱いから気を付けなよ?」


カチッという起動音とともに僕と風見幽香は炎に包まれる。




「こういう時は蓬莱人になって良かったと思えるよ……自爆テロなんて最低だと思うけど、僕は死ねないからね……」


焼け焦げた風見幽香はゆらりと立ち上がり日傘を構える。


「まだ生きてるんだ………その日傘も丈夫だね…」


だが、風見幽香の傷の治りが遅くなっていた。首の切り傷や銃創は治っていたが、火傷は治りきってなく左手の小指は千切れて無くなっている。



確実に風見幽香は死に近づいていた。




風見幽香がこちらへ向かってくる。日傘を僕へと振り降ろす。隙だらけの大降りの一撃。横へ躱し膝蹴りを入れる。


膝蹴りを入れられながらも左手で僕の顔を力任せに殴る。首が180度回る。



「格闘は下手なんだね……」


首をさらに180度回し視界を元に戻す。


「これならどうかな?」


手刀で風見幽香の心臓を貫く。

「……………ヴ…………ぁ……………」


手刀を抜く。風見幽香はその場に膝をついた。



「もう終わってくれるかな……?」


風見幽香を見下ろす。項垂れ、血にまみれたケダモノ。



「……………ぁぁぁぁぁ………ヴぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」


ケダモノは咆哮する。鼓舞するかのように。咆哮すると同時に貫いた心臓がゆっくりと再生していく。


ケダモノは僕を睨み付ける。奪うべき命を、殺戮の対象を。


もう風見幽香では無かった。面影すら感じられない。風見幽香だったケダモノは四つん這いになり僕に牙を剥いた。


「ガアアアア」


ケダモノは僕の喉を噛みきった。僕の腸を散らかし、僕の身体を滅茶苦茶にする。


少しの間、藤原妹紅との戦闘を思い出していたが腸を散らかされる煩わしさに耐えかね、ケダモノを振り払った。


「狗と遊ぶのは子供の時以来だよ」


ケダモノは尚も僕に向かって突っ込んでくる。僕は風見幽香が使っていた日傘を拾い上げ突っ込んでくるケダモノの口に突き刺した。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


ケダモノはのたうちまわる。


日傘を抜き、M1014の引き金を引く。


散弾でケダモノの頭はグチャグチャになる。眼球は飛び出し、歯は剥き出しになり、筋肉はてらてらと赤く光っている。


それでもケダモノの身体は再生を続ける。ゆっくりとだが、飛び出した眼球は元の位置に戻り、グチャグチャになった頭が風見幽香そっくりの形を取っていく。


人間性を失い獣に成り果て再生を繰り返しながら命を奪い続ける哀れな存在。



狂い咲いた花を散らしてあげなさい…………


八雲紫の言葉が頭をよぎった。


「もう花なんかじゃないですよ、紫さん……」





<花を散らすのは好きじゃない>

<花はあの人が愛していた物の1つだから>


<あの人が愛していた物を僕も愛している>


<あの人は色んな花の事を僕に教えてくれた>


<でも花はいつか枯れてしまう>


<あの人のように……>



<花は嫌いだ>


<花は嫌いだ>


<花は嫌いだ>


<だから……僕は>
















ケダモノは風見幽香そっくりの形を取りおえた。



「柄じゃないんだ……」


「グルル………」


「花を散らすとか、咲かすとか………」


「けど…………仕事だ」





右手を出す



ケダモノが僕に飛びかかる







「[侵食・散花]」

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