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夢見の悪い幻想録  作者: ごまみりん
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予兆

新章開幕です。[散花編](さんげへん)



異次元からの客、奇妙な友人が元の世界に戻ってから早1ヶ月。至って平和な日々が続いている。故に昼間からタバコを吸いながら寛いでいられるのだ。もう何本吸ったか……。


温かい縁側に寝転ぶ。目蓋を閉じると心地よい風が僕を撫でる。

「…………」


隣に誰かが座った。


「藍さん……?」


「……バレてしまったか」


分かる。分かってしまう。彼女の足音、彼女の息遣い、彼女の匂い、彼女の声、彼女の肌の感触。その全てが僕の五感を刺激し、至福へと誘う。


悪戯っぽく笑う彼女の笑みは太陽の光に照らされ、僕の心に揺らぐ事のない安心感と癒しを与える。



「昼間からタバコか?体に悪いぞ?」


「いいんだよ。僕は死ねないから……」


起き上がり再びタバコを吸おうとする。


「ダメだ」


彼女にタバコを奪われる。


「君は人間だ………」



そう。僕は人間だ。まだ人間だ。------人間のつもりだ


彼女は奪った僕のタバコを吸い、咳き込む。


「………よくこんなのを吸えるな……」


「藍さんには早かったかもね」


彼女は不満気な表情を見せるが僕は素知らぬ顔をして寝転ぶ。


暫く僕は寝転び、彼女はお茶を飲んでいた。


こちらに向かう足音が聞こえる。小刻みな幼い足音。


「藍しゃま、亮さん、紫しゃまが呼んでますー」


橙だった。橙の声で目が覚める。

「紫様が……?」


「はい。部屋に来てくれって…」

「分かった、すぐ行く」


「後、藍しゃま。今からぬえちゃんとフランちゃんと遊んできます」


「あぁ、分かった。あまり遅くなっちゃいけないよ?」


「はい!!じゃあ藍しゃま、亮さん、いってきます!!」


橙は玄関に向け駆けていった。


「じゃあ僕たちも……」


「あぁ、紫様の部屋に行こう」










「紫様失礼します」


八雲紫は肘掛けに肘をつき、頬杖をついていた。


「藍、亮さん……来たのね」

「はい。何か御用でしょうか?」

「そうね…単刀直入に言うわね。[会議]が召集されたわ」


八雲紫の言葉に彼女の表情が変わった。


「何処が召集したのですか……?」


「紅魔館、あの吸血鬼よ」


紅魔館、吸血鬼。レミリア・スカーレットの事だろう。


「[会議]は3日後。紅魔館で行われるわ。亮さんにも私と藍の護衛で出てもらうわ」


「1つ質問していいですか?」


「何かしら?」


「[会議]って何ですか?」









[会議]:幻想郷において有力者と呼ばれる者達が極めて重要な案件を話し合う為に召集される場。定期的に開催される訳では無く、[会議]に参加する勢力のどれか1つでも召集すれば開催される。




「その[会議]が開催されるという事は何か大きな事が起きたという事ですか……」


八雲紫から[会議]の説明を受け、疑問に思う。八雲一家は幻想郷の中で情報に関しては他の勢力の追随を許さない程扱い慣れている。それなのに八雲一家は未だに[会議]が開催される理由を掴めずにいるのだろうか?



「で、もう掴んでいるのでしょう?」


「さすが亮さん、鋭いわね……。これを見て頂戴」


八雲紫はスキマからタブレットを出し、僕たちに画像を見せた。


「これは、先日にとりが開発した偵察ドローンの運用テスト中に撮られた映像を切り取った物よ」


武装した妖精やゴブリンが大量に写っている。


「場所は?」


「全て紅魔館周辺、霧の湖周辺よ」


「紅魔館の急激な武装化……」


「藍、あなたはどう見る?」


「私は紅魔館が何かの驚異に晒されているのではないかと」


「亮さんは?」


「既に晒されているか襲撃を受けたかでしょう、[会議]では救援や支援を要請してくると思います」



「いずれにしろ、まだ状況がはっきりしてない中、厄介事に巻き込まれる可能性があるわ。気を付けて頂戴」







部屋を出る時、八雲紫に呼び止められた。


「何ですか?」


「今回の件、私の見立てだとかなり厄介な事になるわ。幻想郷のパワーバランスに影響を与えかねないかもしれない。そうなった時は……」


「分かってます」


その時は





「いつも通り」






僕の日常が戻ってきた。

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