帰宅
[ずっとあなたの傍に……]
意識が戻る。視界が戻る。ゆっくりと目を開く。
「……………天井高いな」
意識が戻った僕が最初に思ったのはそんな下らない事だった。
身体は重く、言うことを聞いてくれそうも無い。
「はぁ…よいしょ…」
無理矢理上体を起こす。見回すと医療機器らしき物が並んでいた。どうやら永遠亭に運ばれたらしい。腕には点滴。
「大仰だな……もう死なないのに……」
僕は不死………蓬莱人になった。死を許されない化物。そんな不死の化物が点滴に繋がれ寝かされているというのも中々シュールだななんて思った。
「あら、目が覚めたのね……」
ドアを開ける音と共に八意永琳が入ってくる。
「えぇ…今さっき。その節はありがとうございました…」
「役に立ったようね。なら良かったわ」
八意永琳は何かの数値を記入しながら投げやりのように見えなくもない態度で言った。
「僕はどれくらい……寝てました?」
「2週間って所かしらね…。蓬莱の身体に慣れてないのに更に慣れてない能力を酷使したから相当負担が掛かったみたい…」
「そうですか……藍さんは?」
「もうとっくに退院してるわよ。毎日お見舞に来てたわ…、今日はまだね……」
壁の時計を見ると朝の10時だった。今頃、洗濯しているんだろう。
「藤原妹紅は……?」
「彼女も退院してるわよ。これ彼女から……」
八意永琳はポケットからタバコのソフトパックを出した。
「退院したら吸え、だって」
「アメスピか……貰っときますよ」
八意永琳がベッドに腰掛けた。
「蓬莱人になってどう?」
「どうもこうも無いですよ…。なりたくてなったんだから…」
「哀しい人……」
八意永琳が僕を抱きしめた。
「藍さんの為だから…」
「羨ましいわね、八雲藍が」
八意永琳が僕の方へ向き直る。
「さて、現状を説明するわ……」
あの後、八雲一家、人里、妖怪の山の三勢力で会談が持たれたらしい。当初、妖怪の山は僕の身柄の引き渡しを要求してたらしいが八雲紫と警備隊長が今回の件を説明し妖怪の山の警備体制の脆弱さ、内部の腐敗等を糾弾し妖怪の山は引き下がったという。そして表向きは妖怪の山と警備部隊が合同で内部にいた反体制派の一斉摘発したという事にするらしい。
「そうですか……」
八意永琳から一通りの話を聞き終わると同時に
「永琳、彼、目が………!?亮さん目が覚めたのね!!」
八雲紫がスキマから出てきた。
「おはようございます、紫さん。色々とご迷惑をおかけしました」
「…………いいのよ、永琳から聞いたのね。あなたの事を御山の連中なんかに渡す訳無いじゃない…」
「………ありがとうございます」
「それにしても綺麗ね……その髪と目……」
「え……?」
「あなた気づいてないの?ほら鏡見てみなさい……」
八意永琳から差し出された手鏡を覗くと藤原妹紅のような白髪と赤目になっている自分が写っていた。
「…………アルビノみたいですね…」
「まあ、似てるかもしれないわね…」
しばらく見慣れない自分の姿を見ていると八意永琳が口を開いた。
「それで、佐山さん。私から1つ質問してもいいかしら?」
「えぇ…どうぞ」
「藤原妹紅はここに運ばれてきた時酷い状態だった。蓬莱人だったらあんな状態になる前に再生する。蓬莱の再生能力を阻害したとしか思いようが無い。あなたの能力でやったのかしら?」
「えぇ、僕がやりました」
八意永琳は眉を細めた。
「あなたの能力は……何?」
「その質問は2つ目ですよ…」
「じゃあ私から聞くわ……亮さん、あなたの能力は何?」
八雲紫が口を挟んできた。
「……………………」
しばらくの沈黙の後、答える。
「[侵食]」
「侵食?どういう能力なの?」
八意永琳が食いつく。
「あらゆる物を侵食する能力です。藤原妹紅の場合は空間を侵食して右半身を抉った時に再生能力を侵食しました…」
八雲紫と八意永琳は何かを考えているようだった。能力の危険性だろうか?僕の処遇だろうか?
「それなら合点が行くわね……分かったわ、ありがとう。これから検査をして異常が無ければ退院よ」
「良かったわね、亮さん。検査が終わったらまた来るわ……。あ、これ着替えね」
「あ……どうも」
そう言うと八雲紫はスキマの中へ消えていった。
それから八意永琳に連れられ、血液検査やCTやMRIのような検査をした結果、異常はどこにも見られなかった。
「健康な蓬莱人よ」
「ありがとうございます……」
健康じゃない蓬莱人とは何だろう……。哲学だな。
検査を終え病室に戻り、いつものスーツに着替える。着替え終わると背後にスキマが開く。
「着替え終わったかしら?」
「紫さん……今、ちょうど着替え終わった所です」
病室に八意永琳が入ってくる。
「準備は大丈夫ね。じゃあ退院よ。お大事に」
「ありがとうございました。今度改めてお礼しに伺います」
「いいのよ、別に。医者なんだから。蓬莱人だからって無茶苦茶したらダメよ?」
「わかりましたよ……では」
挨拶をし、八雲邸へ繋がるスキマを潜った。
「さっ、久し振りの家ね……」
2週間振りの八雲邸。どこか懐かしくすらある。
「そんな所に立ってないでほら、入りなさい」
八雲紫の言葉で我に戻り、八雲紫の後ろに続く。
「藍、ただいま〜」
「あ、紫様お帰りなさい…今から亮のお見舞に………」
愛しい声、愛しい顔、愛しい人。彼女が廊下の先にいた。
「………ただいま……」
彼女が走ってくる。
「え…」
構える暇も無く彼女に飛びつかれた。
「藍さん………?」
「何も言わないで………」
「…………」
「君はいつも無理して…何も言わないで一人で抱えて……あげく………こんな……こんな……」
「………ごめんね………」
「もう……どこにも行かないで………」
「うん、行かない。ずっと藍さんの傍にいる。」
「約束だよ……?」
「約束する」
藍さんはしばらく僕の胸に顔を埋めていた。
「亮………」
藍さんが顔を上げて言った。
「おかえり」
僕は家に帰ってきた。
佐山さんの能力が少し分かりましたね。




