懺悔
[報復編]の主人公じゃない目線です。
私が妖怪の山で見たのは凄惨な物だった。人の姿も取れない妖怪達の死体の山。死体にはおびただしい銃創やナイフの切り傷や刺し傷があった。誰がやったのかは明白だった。彼だ。
私が立ち尽くしていると御山が騒がしくなってきた。スキマに身を潜め耳を澄ますと
「大天狗様が殺された!!」
「烏天狗と白狼天狗も殺られた!!」
「侵入者を炙り出せ!!」
これも彼の仕業だろう。彼の居場所を探ろうとするが上手くいかない。恐らく魔術でジャミングをかけているのだ。
八意永琳の言っていた通りだ。私の能力を阻害し、妖怪の山の警備網を掻い潜り3人殺す程度、本気を出した彼には雑作も無いのだ。
「妖怪の山はハズレ………ならば……」
人里。彼の目標は少なくともそこにもいる。そこで張っていれば………。私はスキマを商工会の会頭の部屋に繋げた。
スキマの先の部屋には誰もいなかった。会頭は生憎の留守。書き置きでも無いかと会頭の机に近づいた私は信じられない物を目にした。
「え………襲撃計画……?」
そこには人里の襲撃計画が記された資料が置いてあった。組織の名前は[幻想郷の夜明け]。幹部の名には会頭の名前もあった。更には警備部隊の副隊長の名も記されていた。
「ウソでしょ……」
計画書には人里を妖怪の山に駐屯させた部隊と迷いの竹林に駐屯させた部隊の2つで襲撃するとあった。
私は急いで警備隊長の部屋にスキマを繋げた。
「紫殿……こんな夜分にいかがなされましたか?」
「緊急よ!!これを見て…」
計画書を見た警備隊長の顔色が変わった。
「全隊に出撃命令!!防衛ラインを構築!!第3部隊を副隊長の部屋に向かわせろ!!副隊長を見つけ次第拘束しろ!!」
「紫殿………これは一体…?」
「とにかく急いで……妖怪の山の部隊は全滅してた……そこの幹部達も首が切り落とされてたらしいわ……」
「一体何が……誰がそれを」
「亮さんよ………」
「佐山殿が!?何故!?」
「藍の件の報復でしょうね…」
「隊長!!」
警備部隊の隊員が部屋に駆け込んできた。
「どうした!?」
「それが………第3部隊からの連絡です。第1分隊が副隊長の部屋に突入したのですが……副隊長の遺体が……首が無い遺体が発見されました」
警備隊長と私は絶句した。副隊長の遺体の真上の天井に血文字で
vengeance
と書いてあったのだから。
「復讐………」
「警備隊長、私は迷いの竹林に向かうわ。あなたは人里をお願い」
「わかりました、紫殿。彼を……佐山殿を助けてやってください……」
「分かったわ………必ず」
私は一旦、永遠亭に向かった。
「永琳……、竹林で異常は?」
「異常だらけよ……。さっきから爆音が木霊して……」
「どの方向か分かる?」
「無理ね……音が反響して正確に掴めないわ。ただ銃声もたまに聞こえるわ」
私は永琳にこれまでの事情を説明した。
「やはり出遅れたわね。ただ、そこら辺の妖怪には負けるような男には見えなかったけれど。妖怪の山の駐屯部隊も皆殺しにしたんでしょう?」
その時スキマの中に入れていたインカムから、にとりの声が聞こえた。
「紫…?紫!!やっと繋がった……」
「にとり、何かしら?」
「今、亮が藤原妹紅と交戦しているんだ!!早く止めさせて!!」
血の気が引いた。いくら彼でも蓬莱人との戦闘だなんて無茶にも程がある……。
「ウドンゲ!!」
「はい、お師匠様」
永琳が弟子の鈴仙を呼んだ。
「すぐに手術の準備をして、何時でも出来るようにしておきなさい」
「はい」
「紫……早く行きなさい。彼が死ぬ前に」
それから私は竹林中にスキマを繋げた。くまなく探した。でも彼は見つからない。やがて竹林に静寂が戻った。それが意味する物は………
戦闘の終結。どちらかの死。蓬莱人。
その時ジャミングが消えた。彼の居場所へスキマを繋げ飛び込む。
そこで見た光景はあまりにもショッキングで、私はこれからもこの光景を忘れる事は出来ないだろう。
黒く焼け焦げた土。その上に咲き誇る血の花。穿たれた地面。倒れている藤原妹紅。そして………
横たわる白髪、赤目の青年。
私は分かってしまった。彼は、私の娘が愛した男は人を捨ててしまったのだと。横たわる藤原妹紅や永遠亭の姫のように……死を奪われたのだと。
「紫……さん……」
彼が私に気づき声を掛ける。私は藍に何と言えば良いのだろう…
「あなた………こんなに………」
「ごめんなさい………」
涙を堪える。謝ることしか出来なかった。ボロボロの彼を抱き締めることしか出来なかった。
「ごめんなさい……私は…」
私は失敗した。長年生きてきて最大のミスを犯した。娘と娘の愛する男を守れなかった。家族を守れなかった……
「謝らないで…ください……」
彼は優しく微笑む。
「紫さん……みんな殺しました……」
「藍さんを………傷つけたやつを………全員……」
優しく微笑んで満足気に言葉を放つ。
「ッ……………」
聞きたく無かった。家族の口から、こんなに優しい表情から。私は彼を強く抱き締めた。目から涙が溢れる。
「紫さん…………僕………眠いんです………ちょっとだけ…………休みたいんです………」
彼は母親に甘える子供のように身を預けてくる。
「えぇ…………休みなさい…………ただし、ちょっとだけよ…藍が待ってるんだから…すぐ目を覚ましなさい……」
私は精一杯の優しい声で彼に休息を与えた。必死に堪えようとするが涙は止まらない。
「ありがとう………ございます…………」
彼は礼を言って眠りについた。
「………………」
「…………ッ」
「…………うぅ……」
「 」
私は泣いた。泣き叫んだ。何年振りだろう。いつ振りに泣いたのだろう。泣きながら、叫びながら自分の無力さを呪い、藍に懺悔し、彼に懺悔した。
「全て…………私のせいね…」
呟いたが誰も肯定も否定もしない。
私は永遠亭にスキマを繋げ藤原妹紅を送った。
彼を抱き抱え、そのスキマを私も潜った。




