命の花
[僕らは合わないけど理解しあえる]
竹林に再び大爆発が起こる。その焔は焦土と化した竹林を再び焼き尽くす。
「へえ……これが再生する感覚……」
が、僕には効かない。藤原妹紅が苦々しい顔をする。
「私の気持ち分かってくれたかい………?」
「便利な物だね」
「死ね」
再び大爆発が起こる。あのフジヤマヴォルケイノという技だ。
「悪い………死ねないんだ」
「やっぱり忌々しいね……」
「僕の気持ち分かってくれたか?」
答えは三度目のフジヤマヴォルケイノだった。
「死なないからってバカスカ爆発起こして………。僕も殺られっぱなしで笑える程紳士じゃないからね…。今度は僕の番だ」
瞬間、藤原妹紅の右半身が空間と共に歪み、抉れた。
「………!?」
藤原妹紅の驚愕の表情。
「それも魔術か?」
「生憎、魔力切れなんだ。能力だよ」
そう。あの臨死体験の時、梨佳から譲り受けた能力。元は妹の物だ。
「空間を操る能力か……中々良いじゃないか」
「それはどうも。ただ間違っている」
藤原妹紅の訝しげな表情をよそに、僕は地面を裂き、同時に隆起させる。
「どういう事だ!?」
「マジックの種明かしはしない主義なんだ」
周囲の焦げ付いた竹を触手のように伸ばし藤原妹紅を串刺しにする。
「竹まで………一体…!?」
藤原妹紅は目を見開く。それもそうだろう。
「傷の再生が遅い………!?」
「やっと気づいた?」
抉れた右半身の内半分はまだ再生していない。
「どういう事だ………」
「考えなよ。言っただろ?種明かしはしない主義なんだ」
僕の………梨佳の能力。梨佳は自分の能力をこう呼んでいた。[侵食]
「クソッ………なら……」
藤原妹紅から焔が上がり、また竹林が爆炎に包まれる。焔で突き刺さった竹を燃やす。
「無茶苦茶だ……」
「お前に言われたくは無い…」
お互いに向かい合う。もうお互いに満身創痍だ。片や再生能力を制限され、片やなりたての蓬莱の身体に慣れていない。不死と言えど戦闘を続けられるコンディションじゃない。
持って2分。これが今の限界。どうせ不死。どんな無茶苦茶な身体の使い方をしたって問題ない。たが慣れてない身体では…
一瞬の逡巡の後、僕らはお互いの頭を吹っ飛ばしていた。
互いに互いの心臓を潰し、腸をこぼしながら殺し合う。僕が藤原妹紅の身体を空間と共に抉り、藤原妹紅が僕の身体をを焼き尽くし灰にする。
互いの身体を滅茶苦茶にする。黒く焦げた土の上に命の色をした花が咲き誇る。僕らは花を咲かせる。千日紅が咲き誇る。
もう何も考えていなかった。藤原妹紅もそうだろう。僕らはもう大義や矜持に囚われていなかった。目の前の歩む道が違えば友になりえた者を殺すことにのみ意味を見出だしていたのかもしれない。永遠の如き殺戮の時間。終わることの無いと思われた時間に終わりが訪れる。
「クソッ………」
「ゴフッ…………」
藤原妹紅は膝をつき、僕は血を吐く。藤原妹紅は再生が追い付かなくなり、僕は慣れない蓬莱の身体に限界を迎えた。
「お互いままならないね……」
「あぁ…ついてない……」
「お互い様だろう……」
僕らは大輪の花を咲かせた。流した血が僕たちの怒りや憎しみを超えた親愛の証だった。
もう、立つのもやっとだった。それでも僕と藤原妹紅は立って向かい合う。これが最後だと分かって向かい合う。
お互い能力も魔力も妖術も使えない程に疲弊していた。使えるのは己の拳のみ。
足を引きずりながら友の元へ向かう。互いの心臓を潰す為に。一歩、また一歩と近づいていく。
ドン
鈍い音が竹林に響いた。
最後に立っていたのは僕だった。
もう本当に限界だった。血が止めどなく口から溢れる。まだ能力にも慣れていないのに調子に乗って使いすぎたせいもある……。
意識が遠のく。再生が終わって意識が戻ったら永遠亭に行こう。それで、藍さんに……会うん……
「亮さん…………」
聞き覚えのある声。僕の傍に立つ女。
「紫……さん……」
八雲紫が佇んでいた。
「あなた………こんなに………」
心なしか八雲紫の声が震えているような気がした。
「ごめんなさい………」
八雲紫が倒れたままの僕を抱き締めた。
「ごめんなさい……私は…」
「謝らないで…ください……」
「紫さん……みんな殺しました……」
「藍さんを………傷つけたやつを………全員……」
「ッ……………」
八雲紫が強く僕を抱き締めた。息を殺し、何かを堪えるかのように強く。
「紫さん…………僕………眠いんです………ちょっとだけ…………休みたいんです………」
「えぇ…………休みなさい…………ただし、ちょっとだけよ…藍が待ってるんだから…すぐ目を覚ましなさい……」
優しい声が響く。首元に温かい何かが伝う感触。それが何か考えられる程、頭はもう回らない。
「ありがとう………ございます…………」
礼を言って僕は意識を手放した。
[報復編]終わりです




