焼失
[意識が暗闇に堕ちる]
竹林に様々な音が響く。銃声、爆発音。その音の中心には僕と藤原妹紅がいる。
僕の二メートル隣に藤原妹紅の放った炎弾が着弾して爆発する。爆発で舞い上がった土埃の中から藤原妹紅の心臓目掛けてナイフを投げる。
「その程度効かないよ」
確かに心臓に当てたが平然と炎を放ってくる。
「クソッ……まるで不死鳥だな」
悪態をつきながらMP7で応射する。4.6ミリ弾が藤原妹紅の体に幾つもの風穴を開けるが
「そんなんじゃ私を倒せないよ!!」
彼女の体に開いた穴がみるみる塞がり、また炎弾を放ってくる。
いくら銃弾を撃ち込もうが、何回頸動脈を掻き切ろうが、何度首をへし折ろうが藤原妹紅は僕に向かってくる。
「お前強いな。もう50回は殺されてるよ」
「それはどうも。50回も殺して死なないなんてゾンビみたいだ。気色悪いね…」
「おや…不死鳥って言ってくれたはずだがな?」
「アンタには似合わないよ」
「そうかい…じゃあこれをプレゼントしてやるよ」
<フジヤマヴォルケイノ>
「………ッ!?」
藤原妹紅が唱えると同時に周囲に大爆発が起こる。周りの竹や土は焼き付くされ、文字通りの焦土と化した。
「へえ…フジヤマヴォルケイノを防ぎきるなんて、お前やっぱり強いな」
間一髪、防護結界と遮熱術式を発動させ凌いだ。
「得意じゃないんだよね。こういう戦闘は…」
そう、元来僕はこういう派手な戦闘は得意じゃない。どちらかと言えば隠密戦闘のような奇襲や暗殺に特化した魔術の方が得意だ。しかし海兵隊時代にそうも言ってられずに習得した魔術が今役に立っている。
僕は魔術をメインに戦わない。基本的には体術や格闘、銃やナイフのサブとして使う。だから本来藤原妹紅のような高火力の魔術的攻撃をメインにする相手は苦手なタイプだ。例え不死が無くても後手に回ってしまう。
だが藤原妹紅を倒せない訳じゃない。奴と交戦してから7分が経った。奴の動きのパターン、炎弾を撃つ間隔。様々な事が分かってきた。だから接近する事は容易だろう。現に先程から4回藤原妹紅の首をへし折っている。さっきの大爆発にさえ気を付ければ勝機がある。
その勝機、藤原妹紅を倒す手段は封印術だ。これも専門外だが以前同期に教えて貰ったものが役に立った。こう考えると僕は案外にオールラウンダーなのかもしれない。
何故封印術が切り札たりえるか。これは僕の推測だが彼女の不死とは本体が肉体から魂に変わったからなのではないかと思う。魂さえ無事なら肉体はいつでもロード出来るという訳だろう。なら、その魂を封印してしまえば僕の勝ちだ。本体を封印してしまえば肉体はロード出来なくなる。
「考え事してるなんて随分と余裕なんだな!!」
僕に向かっておびただしい炎弾が放たれる。
「追い詰められてるんだよ…ッ」
結界を発動させながらかわす。追い詰められてるのはあながち間違いではない。戦闘が長引いても良いことなんて一つもない。そこから導き出される結論は……
「(一気に決める…)」
スキマポケットから八意永琳から貰ったブースタードラッグを出し首元に射つ。体が焼けるような痛みが一瞬体を襲う。視界がグラつく。
「何だ?奥の手か?」
そう笑いながら炎弾を放つ藤原妹紅との距離をブースタードラッグで無理矢理に増強された筋力で一気に縮める。
「なっ!?」
藤原妹紅の頭を掴み思いきり地面に叩きつける。封印術を打ち込もうとするが
「甘いね!!」
藤原妹紅の体が発火した。急いで距離を取る。
ブースタードラッグの効き目は30秒。もう10秒経った。
「クソッ……これなら…ッ」
スキマポケットから大量のグレネードを投げる。15秒。
藤原妹紅の体を吹き飛ばす。だが直ぐに再生を始める。17秒。
再生途中の藤原妹紅に接近し封印しようとする。が、炎弾を被弾してしまう。20秒。
ナイフに封印術を込め投げる。体に到達する前に炎の壁に阻まれる。25秒。
「何か術を込めたな、通す訳無いだろ」
そして30秒。
「…………ッ…あ゛ぁ」
言葉に出来ない激痛が走る。全身の毛穴に針を刺されるような痛み。思わず地面に倒れ込む。
「終わりか…」
藤原妹紅が僕を見下ろしながら呟いた。
「お前の矜持は大義には勝てなかったな…」
憐れむような目で僕を見る。
「最後は楽に…」
僕の傍に立つ。
今だ。
僕は二本目のブースタードラッグを首に射つ。無理矢理体を起こし藤原妹紅の首に手を掛ける。
「これでチェックメイトだ…」
この時を待っていた。僕がブースタードラッグの副作用で動けなくなる時を、藤原妹紅が油断するこの瞬間を。二本目のブースタードラッグで確実に仕留める。力で勝てないなら頭を使う。真正面から勝てないなら狡猾に。
「フッ……」
笑った。誰かが笑った。僕じゃない誰かが笑った。僕じゃない誰か。藤原妹紅が笑った。何故笑った……?
「(しまった…!!)」
そう思った時には遅かった。僕が封印術を打ち込むと同時に藤原妹紅は唱えた。
<パゼストバイフェニックス>
彼女の魂が不死鳥の形になり全てを焼き尽くす。封印術すら焼く焔。結界を発動させ耐えようとするが、結界が悲鳴を挙げる。
彼女も待っていたんだ。僕が彼女の油断する瞬間を待っていたように、彼女も僕が勝利を確信する時を待っていたんだ。確実に仕留められる瞬間を。だから笑ったんだ。
焔が竹林を焼き尽くし、結界が破られる。その瞬間
ドスン
体に鈍い衝撃が走る。目の前には藤原妹紅。
「惜しい…本当に惜しいな」
僕は衝撃が走った部分を見る。
「お前がこちら側だったら…」
僕の胸を藤原妹紅の腕が貫いていた。
「別の形があったのかもな…」
心臓が潰れている。
「ッ……ゴフッ……」
口から大量の血を吐く。
意識が遠のく…
視界が暗くなる…
あぁ…死ぬのか…僕…?
そっか………
やっと……………
おわれる…………
戦闘描写が大変……




