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夢見の悪い幻想録  作者: ごまみりん
15/85

修羅

ここから本番です



記憶が抜け落ちているようだった。気付けば永遠亭の待合室にいた。僕は何をしているんだろう。彼女はどこにいるんだろう…。



「……う………亮!!」


にとりの声がした。


「藍さんの手術終わったって…」

「あなたが佐山亮さん?」


白髪の女性が目の前に立っていた。


「私はこの永遠亭で薬師兼医師をしている八意永琳よ。八雲藍の状態を説明するわ…」



あぁ…そうだ…。彼女は…撃たれたんだ。撃たれて倒れて…それで…


「命に別状は無いわ。あなたの応急処置が完璧だったのもあるわね。でも…弾丸と一緒に何か術が打ち込まれたようね。回復力が低下しているわ。意識も直ぐには戻らないわね…」


「面会は……」


「出来るわ……こっちよ」



僕は八意永琳の後をついていく。まるで現実味が無い。ゆったりと時間が流れるように景色が流れる。



「ここよ……」


気がつくと目の前に彼女がいた。酸素マスクをつけ、様々なチューブに繋がれ眠っている。まるでもう目覚めないかのように安らかな顔で。



「私は外で待っているから…」


にとりと八意永琳が病室の外に出ていった。



「藍さん…」


返事なんて返って来ないのに名前を呼ぶ。


「藍さん…」


分かっているのに呼び続ける。

「藍さん…」

あぁ…まただ…この感覚…あの時みたいだ…


彼女の手を握る。やわらかくて、白い手。










どれ程の時間が経ったのだろうか。一瞬のようにも永遠のようにも感じたが、僕は彼女の手を握り続けていた。




「僕を殺すか?」


八雲紫が背後に立っていた。


「それとも外に送り返すか?」


八雲紫は無言でそこに佇んでいる。


「僕は失敗した。彼女を守りきれなかった。護衛失格だ。さあ、どうする?どうするんだ…」


尚も無言の八雲紫。


「答えろッ!!八雲紫!!」


「………殺す訳無いじゃない。だって藍はあなたの事…」


「…………」


「それに今回は私にも責任があるわ。情報を掴めなかった。藍を危険に晒してしまった…」


「あなたのせいじゃ無いわ」



そう言うと八雲紫はスキマへと消えていった。



「殺せ……いっそ…殺せ…」










八雲紫が帰った後も僕は彼女の傍にいた。手を握り続けていた。





「あぁ…そうか…」



頬に伝わる感触。生ぬるい感触。止めどなく溢れるその感触と共に僕は気付いた。気付いてしまった。僕が彼女に誰の面影を重ねているかを、そして







僕が彼女をどうしようも無く愛しているという事に。










病室を出ると、にとりがいた。



「亮…」


にとりが抱きついてきた。


「大丈夫だ…にとり…」


「うん…」





「目標は今回の件に関わった命全てだ」


「え…」


「今回の件に関わった命を全て絶やす。肉片の一つ、血の一滴も残さない…。嫌なら僕一人でやる…」


「………亮の無茶に付き合うのも悪くないね。それに私は亮となら心中したって構わないって思ってるよ。盟友だからね…。二人で修羅に堕ちようじゃない…」




「修羅にだって悪魔にだってなってやろう……皆殺しに出来るなら……」







にとりが八雲邸に戻った後、僕はまた彼女の病室にいた。彼女の顔を見て僕も八雲邸に戻ろうとした時、



「…………ょう……」



「!?」


彼女が意識を取り戻した。


「りょう………」


「藍さん、ごめんね…。守れなくて…」


「い…や…お前のせいじゃ…ない…よ」


「いや、僕のせいだ。だから…けじめをつけなきゃならない…」


「まって…りょう…いかないで………」


何かを察したのか、彼女は僕を引き留めた。


「僕、気付いたんだ。僕、藍さんの事愛しているんだ…」


「お願い……やめて…行かないで……」


「枯れたと思ってた涙も流れたんだ。藍さんのお蔭だよ」


「いや…」


「だから……ごめんね…」


僕は彼女の頬に手を添え、キスをした。


「あっ…」


キスと同時に彼女の意識を魔術で落とす。






「まるで遺言のようね…」


病室を出た時、八意永琳に言われた。


「遺言か…」


僕は胸ポケットからタバコを取りだし火をつけた。


「ここは禁煙よ」


「もう吸えないかもしれないんだ…大目にみてくれ」


大きな溜め息をつくと八意永琳が小さなケースを渡してきた。


「これは?」


「自白剤よ、役に立つと思うわ。後これ…使いすぎには注意してね」


「ブースタードラッグ…何故ここまでする?」


「強いて言うなら暇潰しよ」




八意永琳は淡々と返すと永遠亭の奥に消えていった。






その夜の月は血のように紅かった。

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