凶弾
平穏とは長く続かない物です
「亮、おはよう!!」
「………あぁ…おはようございます…」
「何だ、元気が無いなぁ…今日は折角のデ……デートだからな…」
「あぁ…そうでしたね。とりあえず顔洗ってきますね」
今日は朝から八雲藍のテンションがおかしい。僕と人里の甘味処に行くだけなのに。そもそもデートってそんなに大仰な物なのだろうか?
「あぁ、朝ごはんもうすぐ出来るからなー」
「あぁ…はい…」
朝はあんまり得意じゃない方だ。それに加えテンション高めで接されるとすごい萎える。
そんな事知る訳も無く八雲藍は鼻唄混じりに朝食を作っている。
だが、そんな彼女を見て何故か悪くないと思った。
「じゃあ、藍しゃま、亮さん、行ってきまーす!!」
「いってらっしゃい、橙」
「橙、気を付けるんだよー」
朝食後、橙が寺子屋に行くのを見送る。見送るのと同時に八雲紫が起きてきた。
「あら…あなた達まだ出掛けてなかったの…?」
「紫様。朝食の後片付けをしてから行くつもりです」
「いいわ、それぐらい私がやっておくわ。あなた達もいってらっしゃい」
「いいんですか…!?」
「えぇ、いいからいってらっしゃい。たまの休みなんだから楽しんで来なさい…藍」
「……はい!!」
話は纏まったようだ。
「亮、ちょっと待っててくれ…」
そう言うと八雲藍は奥に引っ込んでしまった。
5分程待つと八雲藍が小走りで戻ってきた。
「お待たせ……じゃあ行こうか」
「はい」
人里は相変わらず賑わっていた。人妖入り乱れて酒を飲んだり、人間の子供に綿菓子を売ってる妖怪。不思議な光景だったがもう慣れた。
「お疲れさまです」
里の守衛が敬礼してくる。
「あぁ、お疲れさま」
「お疲れさま。守衛ご苦労だな」
「いえいえ、これも我々警備部隊の役目ですから。所で藍さん…今日は若旦那とデートですか?」
「バッ…ばか!!そんなデートとか……」
守衛にからかわれて顔を赤くする八雲藍。やっぱりデートとはそんなに大仰な物なのだろうか?
「まぁ、楽しんできてくださいよ」
守衛に見送られ僕らは人里に入った。
行く先々で八雲藍は話かけられ、人々は笑顔だった。皆、八雲藍が妖怪ということを忘れてるかのように接し、八雲藍も笑顔を振り撒いていた。
「あなたが何故人妖問わず慕われるのか分かった気がします」
「どうした…亮?」
僕らは甘味処のテラスで目的のみたらし団子を食べていた。
「あなたは太陽みたいな人だから……」
「私はそんな大層な者じゃないよ」
八雲藍が僕の言葉を遮る。
「私はただ幻想郷にいる者達が幸せならそれでいいんだ。もちろん亮…お前もだ」
その時の八雲藍の……彼女の笑顔は正しく太陽のように眩しく、光の届かない深海すら照らすように美しく、目を背けたくなるほどまっすぐだった。
「そろそろ出ましょう…」
「そうだな、次は何処へ行く?」
代金をテーブルの上に置き、テラスから道へ出る。
何でも無い話をしながら道を歩く。彼女は少女のような無垢な笑顔で僕を見つめ、僕は馴れない笑顔でそれに返す。
「亮!!縁日だ!!りんご飴探すぞ!!」
「あぁ、そんなに走らないで…」
おかしい…、何かおかしい…。賑わう人、楽しい雰囲気、その中に混じるナニか…。遠くから感じる、覚えのある…、覚えのある…!?
その時500メートル程離れた建物の上で何かが光ったような気がした。そう、まるでスコープが光で反射ような…。
瞬間、僕は八雲藍の周りに結界を発動させた。が…
八雲藍は林檎飴のように紅い線を引きながら倒れた。
綺麗な、綺麗な命の色をした円が地面に広がっていく。




