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孤独詩  作者: めけめけ
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しみわたる夜

酒と女とタバコという、ありふれたキーワードで綴った一コマ

 君が僕の知らない誰かとコンビニに入っていった。

 二人は楽し気な距離感なのに、遠くからでもそれがわかる僕の視力が疎ましかった。

夜風が生暖かく、タバコの煙も淀んでいる。

 扉を開けて入ればエアコンが効いた空間に軽快な音楽が流れている。

 三杯目のハイボールを注文して、タバコを吸いに外に出たその瞬間に僕の良く知る女性を見かけ、結果的にタバコが吸い終わったあとに隠れるように店の中に入り、注文したばかりのハイボールを半分ほど飲み干してしまった。

 店の前を二つの影が通り過ぎる。

 彼女の顔は見えなかったが、僕にはどんな表情をしているのか容易に想像ができた。

 時間がいくらたっても消えてなくならない記憶がある。それは楽しくもあり、苦い記憶でもある。

正確には楽しかった記憶が別れという結果を得て、苦みが加わったことで、甘さと苦さの記憶のカテゴリーに二重に登録されたことで、より見つけやすくなったということになる。


 もちろんそれだけではない。

 別れがあっても、その苦い記憶を呼び覚ますような事象に遭遇しなければ記憶は薄れていくのだろうが、二人の距離はあまりにも近すぎた。

 別れと言っても恋人のような恋愛感情を含む関係性の別れとは過ごし違う。ただ、言語化をして丁寧に内容を説明したとしても、つまりは恋愛感情のもつれでしょうと人には言われてしまうだろう。そう、言われることは受け入れるとしても、そうであるとは、僕は未だに思えていない。


「良き隣人でありたい」と僕は彼女に告げて、彼女も「そうであってほしい」と言葉で言ったわけではないが、それを好意的に思ってくれていた時期は確かにあったのだ。

 いつだったか彼女と人と人との繋がり、「友達」や「仲間」や男女間の友情や距離感について話したことがあった。僕は彼女に「友達」になりたいとは思っていないと言った。互いの状況からきれいな恋愛関係にはなれないことを理解していたし、気に迷いが生じたときに堕ちていくような関係にならないように細心の注意をお互いにしてきたのだと思う。

 手を伸ばせば届く距離にいても感情に任せて触れることを避けていたし、同時に触れることになんらためらいもなかった。


「良き隣人でありたい」という言葉はそうした面倒な理屈めいた事を簡潔に言い表す苦肉の策のようなもので、「ありたい」ということは「なってはいない」すなわち、僕は単純に彼女に片思いをしていて、それを堪えるための方便に過ぎなかったし、彼女もそのニュアンスを受け止めてくれていたというのに。


 僕は失敗をした。


 一線を越えてしまえば、そのあとどうなるかは童話のように明らかだ。のぞいてはいけない扉の隙間、超えてはいけない時間、入ってはいけない森の中、言ってはいけない言葉。


 でも失敗をしたのは僕だけではない。彼女はずっと僕を試し続けた。いくつかの試練に耐えたものの、最後の最後の誘惑、禁断の果実を目の前にして、それを鷲掴みにし、食らいつき、むさぼりつくすことへの欲望を僕に止めることができなかった。


 できないと彼女は知っていたのだろうか。


 言ってはいけない言葉、僕の奥底にずっと隠していた「好き」という気持ちを言葉にしたとき、すべての魔法は解け、「良き隣人」はオオカミの姿に変身し、月に向かって咆哮する。

 封印されていた過去の記憶、お互いに許すことも譲ることもできない不安や不満が大地が引き裂き二人の距離を隔てる。


 今僕は彼女を観ている。

 彼女に僕は観えていない。


 それはとても寂しいことではあるが、おかげでウイスキーがいつもより深くしみわたる。


 今宵は深い眠りにつけそうだ。

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