表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独詩  作者: めけめけ
31/52

現実の扉~地下鉄は闇を抜けない

映画『ジョーカー』を見て地下鉄と闇をテーマに何か書きたくなりました

”つまらない現実”という言葉は、たぶん中学生くらいのときに佐野元春だったか、誰かの歌詞か言葉か。そんなものを引き出しからひっぱりだして書いてみました

つまらない現実から逃げることに、僕はほとほとに疲れてしまった

逃げても逃げても追いかけてくる現実

立ち止まり、振り返り、向かい合っても

過去と言う変えられない壁となってそれは押し寄せてくる


ならばと僕は未来と言う希望や夢と言う扉を探して地下鉄に飛び乗る

そこには僕と同じような服を着て、違う場所に向か人がいる

どちらまで? と尋ねてみると

昨日行った場所へ

明日も行く場所へと彼は応えた


どうやら僕は乗る電車を間違えてしまったようだ

今どこを走っているのか、どこに向かっているのかもわからない

降りたいと思った時には、扉は硬く閉ざし、窓の外には自分しか映らない


車内アナウンスが次の駅は通過致しますと僕に告げる

乗り換えの案内はない

暗闇を抜け、薄明かりの中に立ち並ぶ人たちが僕の目の前から次々と消えて行く

彼らはこの電車に乗ることは許されていない


やがて最初の停車駅に着いたとき僕はこのまま終着駅前行ってしまったら

どんな世界が待ち構えているのかを考える

ここで降りる人たちの流れに逆らい、ここで乗る人たちの流れに逆らい

僕は考える


やがて出発のベルが鳴り、もう考えている暇はないのだと僕に告げる

行先も伝えずドアが閉まろうとした瞬間

僕は心の声に従うべきだったと後悔をする


空間を断ち切るようにドアが閉まり、僕は再びドアの窓に映る自分に対面する

なぁ、この辺りで降りた方が良かったんじゃないのかな?


僕が尋ねるよりも先に、目の前のぼんやりした僕が問いただす

また、やっちまったなと


そう悪くもない人生だったと、僕は僕に言い訳をする

つまらない現実さ

いつものことだ


暗闇を走り抜け、地下鉄は次の停車駅に向かう

僕はネクタイを外し、シャツのボタンをひとつ開けてため息をつく

疲れてしまっているのなら、いい加減、楽になってしまえばいい

たったそれだけのことなのに

ベッドの中では眠れない

空いている座席に身を沈め、僕は深い眠りにつく


今度目が覚めたとき、そこが一体どこなのかはわからないが

そこが僕にとって向かうべき場所ではないことは知っている

あなたと僕は 違うのだから


終着駅

そこに僕を待つ者はいない

開け放たれた扉から、闇がすっと中に忍び込んでくる

ハロー、ダークネス

マイ・オールドフレンド!


かつて落ちた闇に挨拶をし、僕は席を立つ

闇を潜り抜けてもそこはまた、闇だった

地下鉄は折り返し運転でもとの闇に戻るのだと言う


「出口」と書かれた表札を探すが見当たらない

やっぱりそうだと僕は思う

僕は闇を抱えた人々とすれ違いながらホームをさまよう


時々奇声を上げてこの世界からいなくなろうと試みる人に出会う

それはどこにでもある風景

珍しくもない

とこしえの闇は安っぽい蛍光灯の灯りに照らされている


つまらない現実

僕がこちら側にいる限り、やつは存在し続ける

向こうの世界を垣間見る勇気は若い頃に使い果たしてしまった

若さなんてそんなものさ

老人はいつも遠い目をする


僕は若くもなく老いてもいない

現実と言うどうしようもなく当たり前の存在を前に

ただ、立ち尽くしているだけなのだ

諦めるほど老いてもいない

立ち向かうほど若くもない

笑えるほど無邪気じゃない

泣き叫ぶほど愚かじゃない

信じられるほど清らかでもない


それが現実

現実にいきている僕自身

それが現実

現実は僕

僕はつまらない

つまらないのは、僕だった


ならば


僕は卑屈でも悲しげでも笑うことにした

楽しんでいる振りをしようじゃないか

現実を笑え

自分を哂え

笑う門に何が来るのか

僕はネクタイをゴミ箱に捨て代わりにコミックスを拾い上げる


面白くもないのに笑える

やがてにやにやとした男が僕に近づいてくる


やあ、兄弟

決心はついたかい?


彼は僕が拾い上げたコミックスを指差していう

ページを最後までめくってみろ

面白い物があるぜ


僕は言われるがままページをパラパラとめくるとそこに見知っている男の顔を見つけた

その男は銃を持っている

返り血を浴びながらも怒るでもなく恐れるでもなくただ笑っている


僕は気分が悪くなり、コミックスを閉じて男に手渡した

”僕の趣味じゃないです”

男は大声を上げて笑い、そして僕を憐れみ、そして僕を哂い、そして僕を笑った


男は小躍りをしながらゴミ箱にコミックスを放り投げ去りざまに僕にこう告げた

”つまらない奴につまらない人生を、おもしろい奴には面白い人生を”


僕にはどうにもその言葉が心地よく聴こえた

”つまらない奴につまらない人生を、おもしろい奴には面白い人生を”

僕は心を決めた


つまらないことはつまらないんだな


そうわかった瞬間 現実の扉が開く


つまらないが、これが現実である



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ