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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校二年生 -梅雨-
98/100

arrival -aratana_basyo-

「さて、到着したわね。」

「結構遠かったね。」

「そうね。」


 魔法都市の入口、橋上にて。


 海辺の集落から数日かけてたどり着いた。いつものようにのんびり馬車での進行。大陸北東部の沿岸から大きく西へと移動、こちらの季節もあちらと同じく夏へと向かう途中なのだけれどまだまだ夕方から夜にかけては涼しい日々であった。


 距離があったため日数がかかったが、待ち受ける場所としては最高のポイントだ。この世界で唯一まともな研究機関、魔法研究所が目玉のここ。日夜いろんな効果を持った魔法の道具が開発されているに違いなく。次回アップデートを間近に控えた現状、備えとしてあらゆる種類の魔法具や魔法薬が手に入るここならば、今のうちのメンツに足りぬ部分の穴埋めができるであろう。


 秘匿度の高い研究も行われたりするためなのか雰囲気を出すためだけの設計なのかは知らぬが街は大きな湖の中の離れ小島に、外界との接触を地理的には制限する形で構築されている。とはいえその小島と対岸とをつなぐ橋の往来は盛んなようで、制度的な意味での入島制限とかそういう面倒なことは特にしていない模様。


 こんな風に新たな場所への到着に感想を抱く私が引き連れる面々も橋の往来の盛んさを助長する要素の一つである。もう間もなく、中にたどり着きそうだ。


「久しぶりに足を伸ばせますわね。」

「馬車での寝起きも悪くなかったけど。」


 道中私の居ない昼間スケさんとともに足を伸ばしまくって地勢調査だのモンスター退治だの楽しんでいたセリナの言。情報元はイクスから。なお本人にその自覚は一切ない。いつものことである。一方アドラは規律正しく馬車の周囲の監視役をいつでもこなし続けていたらしい。旅って性格出るんだよなぁと思いつつ街の入り口をくぐった。


「今日はまだ早いけど、やっぱり宿の手配から?」

「いいえ、ここではそれは必要ないわ。」

「?どゆこと?」


 仕入れた情報によるとこの街、研究所はもちろん多くの場所で雑務その他を請け負う人材を常に募集しているとのこと。商売目的でもない限りはそこに応募すれば宿食事その他の類は充足されるため、わざわざ有料の宿に宿泊する必要などないのである。


「、、、ということなのですよ。」

「なるほどね。」


 以上のことを大まかに皆に説明する。


 スケセリの師匠コンビ二名は力仕事全般の最大戦力、なお魔法の実験台としてもスケは最強である。


 日々の研究にひと時の潤いを欲するならばセバスのお茶入れスキル。これが最大のセールスポイントとなることは間違いない。


 細かい調査ならばイクスとアドラのコンビ。データ絡みならイクスが、街の噂絡みならばアドラが完璧に何でも仕入れて見せましょう。


 貴重な錬金素材の調達ならば我がメンバーの一人、ウドーにお任せ。葉から木片から、エンシェントトレントの素材をごく少量でも手に入れられるのはここだけ。大量に取ると本人が不調を訴えるかもしれないのでほどほどに。


 そして栄えある頭脳担当の私ことミラージュ。事件解決なんでもござれ。


 うん、完璧なメンツね。これで売れないはずが無いわ。


「ということで、人員募集を見に行きまーす。まずどこ受けても受かるっしょー。」

「おっけー。」

「ほいさ。」

「なんかお主の言い草が腑に落ちぬが、まあよかろ。」


 酒場の募集掲示板を眺めてみるも、イマイチどこが良いのかわからなかった。別に給金が欲しいわけでもなし、選ぶ基準と言えば面白そうかどうかぐらいしか、無いんだよなぁ。


 じーっと眺めて、他にないならとりあえず給金の高いところがいいかと募集欄の金額を見ると、意外すぎることに宿泊施設の人材募集が最も高待遇なことに気づく。


 んー、研究施設関係ばかりが乱立してるせいで供給が追い付いてないとか?商売目的の来訪者は多そうだもんな。橋渡ってたのも、それっぽい出で立ちの人ばっかりだったしな。


「ちょっとそこのあなた方、大所帯で募集板を眺めて、もしかして今お仕事をお探しです?商人には、見えませんね。」


 特にどうでもいい思考を繰り広げていたところで声をかけられた。目立つ集団だしな。そちらの方を振り返ると、中々に理知的な雰囲気のお嬢さん、私よりは年上ぐらい、の姿が。もし現代であったならば間違いなく眼鏡美人の烙印を押すであろう顔立ち。纏う衣服もすっきりした魔法系研究職特有のローブであった。


「はい。そうおっしゃるあなたは?」

「よくぞ聞いてくださいました。わたくし幻術研究所教授イルシナ様の筆頭秘書、カスタと申します。」


 幻術、か。


 うむ、魔法系統の中では一番面白そうだな。それに目的にも叶う。ただの攻撃用の魔法道具とかうちのメンツなら腕力でどうとでもなるし、それに加えてレオを呼べば倍増。回復においてはカメリアやクーラさんに出張ってもらえばいいし。一方幻術はリュウに頼るしかないものな。めんどい、とかいつものように言われたら詰むわけだ。こりゃーこの縁、有効活用すべきか。


「わかりました。あなたのところでよろしくお願いします!」

「ええ、そうでしょうとも。渋るのはわかりますが、今ならなんと、すぐに幹部!って、え?今なんと?」

「あなたのところで、お願いします!」

「ええと、本当です?」

「はい。」


 他のメンツの感想を一応聞いてみる。


「ふむ、それがし幻術の類はもっとも不得意とするところであるから、良い修行になるやもしれぬ。他と比べれば無意味でない分良いのではないか。」


 自身に対しては完全無効化なのに苦手とはこれいかに。外見で騙されるとかか?


「初級レベルでも役立つって意味では一番よね。」


 魔法も使えるアドラ、確かに他の系統だと中途半端に習得したところでな。


「私は何でも構いませんわ。」

「お嬢様に同じく。」


 セリナ、酒場に長居が嫌なよう。しかし安心せよ。ここでのモテる条件はきっと魔法の出来。クイックンでも披露しない限りは取り囲まれることも無かろう。セバスの方はいつもの定型文である。


「僕も幻術は興味あるな。」

「そうじゃな。わしも使えるようになるかのう。」


 この二人は興味の対象が広い。何でもよいってことでもある。つまり、全員一致で可決か。


「ということで、よろしくお願いします。」


 ぺこりとカスタさんにお辞儀。


「これは、ご丁寧に、どうも。で、では、こちらへ。早速イルシナ様の元へご案内いたします。」


 いきなりトップに御面会とは。そういえばさっき今なら幹部とか言ってたし、人材が不足してたんだろうな。ちょっと、不安になって来たかも。






「す、素晴らしい。よくやりました、カスタ!」


 面会したイルシナさん。おばあちゃん的な外見を想像しながらカスタさんの後ろを歩いて付き従っていたのだけれど、私やセリナ、アドラと同い年か、多く見積もっても数歳上ぐらい。部下のカスタさんと同年代である。これで教授、だと?早熟天才魔法少女、からの昇進ということか。


「いえ、その、思いがけず二つ返事で了承していただいたもので。」

「私たちの目的に一番叶う所から誘いを受けたので。」

「ほう、その目的とは?」


 ある程度簡略的に、面子の紹介をすることにした。


「こちら、レジェンダリー・スケルトン・チャンピオンのスケです。脳筋です。で、こっちがその弟子のセリナ、脳筋です。その横、セバス、執事です。お茶入れが特技。その横森人、アドラ、斥候。後、にぎやかしの私、ミラージュとイクス、木です。」

「こりゃ、お主、わしだけ適当すぎるんじゃないかのぅ。」

「ヤング・トレントのウドーっす。」


 ボコッとウドーの人で言えば横っ腹の辺りに肘鉄を入れて改めて名前を紹介した。


「わ、わしゃ、、、いや、間違っちゃあおらんか。」

「ええと、その、すごい面子、ですね。」

「ほら、ウドーのせいで引いちゃったじゃない。」

「わしのせいじゃないわい。」


 うーむ、第一印象のぶちかましは失敗したか。けど無意味に不信感を与えないことには成功した、と思う。早く打ち解けたいしな。


「なんにせよ、力仕事全般はこの二名が。情報収集などはアドラが。そして細かい雑務はにぎやかしの面々で処理ができますです。けれどもまあ、からめ手と言いますか、そういう方面にはめっぽう弱くてですね。」

「なるほど、それで幻術科に。どんな人材でも、現状入ってくれるだけでありがたいのです。しかし報酬の方は、どのようにお聞きに?」

「イルシナ様!」

「いーえ、カスタ。ここはちゃんと説明しておかねばならぬでしょう。」


 なんか問題があるよう。零細なのかしら。とりあえずこちらの要求を告げてみよう。


「えーと、そのことについてはまだ何も。ただ、先にこちらの要求を申しますと、変化、幻視無効、幻覚作用無視のスクロールをそれぞれ最低でも人数分いただきたい所存です。」


 その発言を聞き、目を丸くしたイルシナ教授であった。


「えっと、それ、だけですか?」

「もちろん、他にも頂けるならばいただきますが。」

「イルシナ様、大当たりですよ!大当たり!レジェンダリークラスが!このリーダーの少女もマナの巡りはどー見たって常人には見えませんし、あの弟子の少女も中々、森人も貴重です!それににぎやかしといったあのトレント、ヤングとか、冗談が過ぎるって話でしょうよ!エルダーですらあやしいかと。あの少年も含めて見た目は確かに若いものばかりですが、ですが!何よりこのお茶!」


 カスタさん、テンション高。お茶効果だな。入室してすぐ準備に入ったセバスの淹れたお茶、早速効果を発揮したようだ。


「まあそちらがそれでよいのでしたら、こちらは何の文句もありません。」

「はい。」

「ではこちらに各員サインをお願いします。一週ごとに更新ですので。その期間中のそちらからの解約はきつく処罰されます。よろしいですか?」

「問題ないっす。」


 どのぐらいここにとどまり続けるかはノープランだが、一週間区切りなら問題ないな。






 それぞれ署名、あるいはマナによる押印を終えた。


「それで、人材不足のように見受けられますが、何か原因があるのですか?」


 まず一番気になったことを聞いてみた。


「そうですね。研究員の進路希望先としてうちは毎回希望者ゼロなのです。」

「それはまた、どうして?」

「私がまだ若すぎること、が一番の要因ではないでしょうか。ただの繰上りでポストに就いたに過ぎないと、噂されておりまして。」


 ふーむ、ねたみ、やっかみの類だろうか。


「事実ではあるのです。」


 やや自嘲気味にそうこぼしたイルシナ女史であった。


「イルシナ様のおっしゃることも完全に無いことは無いのですが、一番の原因は単純に魔法系統として派手さに欠けることが。」


 思わず口に出たイルシナさんの愚痴?にカスタさんがフォローに回る。


「あー、それはあるかも。」

「おい、イクス君や。」

「あ、ごめん。」


 その私とイクスのやり取りを見て、明確に肩を落としたお二人であった。うむ、これまた失敗。


「警備隊の捜査などにもきっちりと協力して復権しようとしているのですが。」

「前任のセキ様のようにはいかず、、、ああ、セキ先生さえいらっしゃってくださればこのような事には、、、」

「は?」


 ひどく聞き覚えのある名称であった。スケ-SKE-の字の入れ替えのSEK、日本語翻訳に当たって言葉触りのいいように母音継ぎ足しからの、スケとセキ。まさか、同名の別人物がいるとは思えない。


「いえ、前任のセキ様さえいらっしゃれば、と。」

「えーと、スケさん?」

「知らぬ。」


 すっとぼけているわけではなく、本当に寝耳に水のようである。


「そのセキさんって、あのセキさん?こいつと同じくレジェスケの、女性で、普段は幻術で肉を映してる、美人の?」

「ええと、はい、その特徴でしたら、間違いないかと。」


 おーん。職場ほったらかして、あの娘、何やっとんじゃ。おかげで残された二人、非常に困っとるやないかい。つーか職場、あったんか。






「わが娘が迷惑をかけて、すまぬ。」

「その父親の連れとして私からも、すみません。」

「い、いえ、まさかセキ先生のお父様とは知らず、、、」

「二人とも。イルシナさんもカスタさんも。まずはどうすれば幻術科が復権できるかの方が先、でしょ。」

「そうね。」

「そうですね。」

「おっしゃる通りです。」


 うーむ、ここでのリーダーはイクスで決まりのようだな。まだ科に入って五分ほどというに既に頭を張っている感が出ている。


「で、セキさんがいたときはどういう活動を?今との違いを明確に、説明をお願いします。」

「はい。主に警備隊の事件捜査に協力を。我々が関与した上での解決率は100%でした。」

「おおー、さすがセキさんね。」

「はい、わが身が情けないばかりです。いなくなられてからというものそれはもう、数字が落ち込みまして、、、」

「ミラージュ、、、」

「ご、ごめん。」


 自然と発生した感想だったが、それは今のこの二人に対する貶し行為に同値であった。反省。


「その事件捜査って、どういう類のものなの?」

「はい、盗難から殺人まで、事例を上げれば何でも。」

「盗難なら私が行けるわね。殺人とかは、お二人の仕事?」

「アドラ、犯人と1v1なら確かに二人の仕事だけど、調査自体はあんたが一番よ。」

「じゃな。こやつら、その方面は役立たずじゃ。」


 しかしそういう方面で考えると、幻術ってすごいな。変化で潜入捜査はもちろん、相手の思考を読み取ったりとか。そして残留思念の具現化もその範疇だという。パラパラとめくった捜査資料にそんな風に証拠をあげた例がいくつもあった。というかその領域までに術を広げたセキさんの功績が、偉大ということか。そしてやはり不可視化は最強スキル筆頭である。習得、目指してみるか?


「よーし、だったら今すぐ、事件の調査に行きましょう!今巷をにぎわせている事件は何?」

「魔法杖盗難、でしょうか。」

「そうですね。」

「うっし、得意分野ね。情報、よろしく!」


 イクスを指して要求した。


「んー、、、ん?んん、、、」

「どした?」


 完璧なネタバレをして良いのじゃよ。まずは一つ、景気づけに一発ドーンと手柄をだな。


「犯人どうやら、この研究所の関係者みたいなんだけど、いいのかな?」

「え?」

「は?」


 二人同時で驚きの一言。そうじゃろうな。このスーパー名探偵ことチート検索機能持ちのイクス君なら、幻術など回りくどいことせずとも一発よ。あれ、それって権威を回復させることになるのか?いや、証拠だ。そうだ。お前が犯人だ!と指さしてもポカーンとされるしな。説得材料としてこの二人の力を発揮してもらうのだ。


「どこのどいつよ。」

「えーと、破壊魔法科のメンバーの一人だね。どうやら杖に蓄えられたマナを集めて大規模な実験がしたいらしいよ。」

「よし、早速確保!行くわよ!」






「一体何なのですか、いきなり押しかけてきて!」


 プッ、落ちこぼれの二人組の登場だ、と小声が聞こえた。イルシナカスタの両名を指しての言葉であろう。こやつら、今に見ておるがよい。吠え面かかせちゃるけんのう。


「問答無用!そこのお前!盗んだ杖、返しなさい!」

「は!?い、いったい何のことを、、、」


 イクスの上げた特徴に一致する男を指して告げた。すっとぼけやがって。魔法の杖と言えばマギの大事な愛用品、、、のはず。あれ、そうだったっけ。まあいいや。解決が先じゃ。


「そこの倉庫、見させてもらうかんね。調べはね、もうついてんだから。スケ!」

「一体何の権限があって、、、」


 言いがかりはよしてもらいたい、という言葉など聞かぬ間に、力担当のスケが私の命令とほぼ同時に固く閉じられた扉を強引に開いた。


「な!封が、、、」


 最強の腕力の前にそんなもの無力じゃ。中から出てくる、ドガドガと。杖の山。


「かくほー!」

「はい!」


 うっし。一仕事完了。






 無事盗人を憲兵へと引き渡して、手柄一つ。


「これ、良かったの?」

「最初の一発ぐらいはガツーンとね。次からはもう少し慎重になりましょ。」

「そだね。」


 一仕事終えて心地よい汗を拭きながらイクスと感想を言い合った。


「電光石火、、、でしたね。」

「そうです、、、ね。」


 あなたは、爆弾を引き連れて来たのではないですか、と小声でイルシナさんがカスタさんに言葉を送ったのが聞こえてしまった。


 中々に鋭いですな。さすが、教授の名は伊達ではない。が、爆弾は爆弾でも、身内に被害を与えたりなどは多分、しないのである。たぶん。


 次の事件はどんなのかな、と残りの猶予期間を目一杯楽しむ気満々で本日はログアウトすることにした。


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