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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校二年生 -春-
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interlude: Merx's 2nd challenge

 とある日、授業終了後。本日も私はその時間帯における定位置にてお茶を淹れる作業を行っていた。ここ数日はさしたることも起こらず変わらぬ日々である。


「実は本日、皆さまにご報告がありまして。」


 そんな風に仰々しく話を切り出したのは玲央青年であった。私は特に気にすることなくカップの準備をし、淹れ終わったお茶を黙って次々注いでゆく。


「何よ。もったいぶった切り出し方ね。言いたいことがあんなら早く言いなさい。」

「はい。実は、スカウトされまして。」


 意外な言葉が飛び出た。各員の様子を眺めてみるも大げさなリアクションを取ったものは一人もおらず。であるならば。思考する。彼が述べたスカウトとは、特定の才能その他を持つ人材を発掘する行いのことであるに違いない。軍事行為としてのスカウト、偵察を受けたわけではない、と判断される。


(次のターゲットは彼、でしょうか?張り付きますか?)


 内部通信にてユウギリから応答があった。


(いえ、違います。おそらくそういう意味のスカウティングではありません。有能な人材を発掘する行為の方でしょう。)

(なるほど。了解です。)


 私と同じく勘違いしたであろうユウギリへと返答して、話の流れを追う。そういえば、この子はなぜに鏡様と椿少女以外には姿を見せないのか。シャイ、なのかもしれない。かくいう私も。


 ふと昨年夏の映像が脳裏に再生された。今となってはあの時全力で逃げ去っているべきだったかもしれぬと、もう一つの選択肢が、可能性が生まれる。もしそうしていたならば、その後に起こった諸々に対して彼女たちには不思議な現象が続くものだと思われただけであったろう。余計な心労の原因は本来彼女が関与すべきでない事柄に首を突っ込もうとする意志なのだから。


 その意志を曲げられぬことが歯痒い一方でそうしてくれることにありがたみを感じつつ、それでいてあの場の判断のせいでそうなってしまったことに後悔して、正しくやり直せたならば、観測域の外側で居続けられたならば、と。


はぁ。ならば、ならば、ならば。何と無意味な事か。思考リソースを無意義なもしで割かれることを避けられない。やはり私は、間違いなく故障中である。


 あの猫は不調なく息災でいるだろうか。覆せぬこととはいえ、そうしてただ陰から見守り続ける自分の姿を想像するのは悪からぬ心持ちを発現させる。そういった存在のことを何と呼ぶのだったか。


(守護霊とか、守護天使などと呼ぶそうですよ。)

(、、、そうですか。)


 思考が外部に漏れていたか。気を付けねば。恥ずかしいではないか。しかし、映し身としてこの世に存在するだけの私には不相応な言葉であるな。


「ふーん。今どきそんなこともあるのね。」

「確かに。一昔前、って感じの話ね。」


 涼子様と鏡様の返答内容が気になりサーチしてみる。スカウトされる人種で検索。結果将来有望なスポーツ選手の事例がほとんどを占めていた。玲央青年はスポーツの類には力を入れていないはずであるが。


「一体どのようなスポーツを?」


 気になって質問をしてみた。


「スポーツ?」


 鏡様に疑問符をつけられる形で返された。違ったのであろうか。稀有な事例としては芸能関係などがあるが、そちらであったか。


「デジタルゲームの大会で昨日、運よく優勝しまして。それで今後も頑張るならチームに籍を置かないかと、申し出を受けましてね。」

「そうですか。」


 私の返答と同時にガタン、と座っていた椅子をふくらはぎで押し出すほどの勢いで鏡様が立ち上がった。


「プ、プロ、ゲーミング、チームってこと?」

「はい。」

「おめっとさん。」


 ズズッとお茶を口に含んで後、羽のような軽さで賛辞の一言を述べたのは龍青年であった。


「ありがとうございます。」

「いやー、おめでとう。高校大学と学生の間に活動できるのはいいさね。」

「はい。そうですね。」


 それぞれに、はにかみながら答えを返した玲央青年であった。


「その、どのようなゲームの大会だったのですか?」

「ああ、それはですね、これです。」


 端末に提示されたゲームはデジタルカードゲームであった。


「あー、そういや玲央っち結構はまってたからね。んで、優勝賞金は?」

「はい。結構な額、いただくことになりますね。いや、ほんと、運良く勝ち進めただけなのですがね。」

「それ!前言ってた!あれ!?なによ!大した額じゃないとか言ってたくせに!」


 以前昼休み食堂にて話題に上った件を思い出したのか、人差し指を玲央青年に向けながら大声で叫んだ鏡様であった。


「か、鏡さん、テンション、高いですよ。」

「そ、そう、、、ね。」


 そのまま力なくしおれて椅子に座りなおした鏡様、ひどく落ち込んでしまっている気がするが、いまいち原因が判然としない。仲間が喜ばしい結果を持ち込んだのだから、落ち込む理由にはならないと思うのだが。


「そんなにうらやましいなら、お前もやってみたらどうだ?」


 龍青年からの提案。なるほど、うらやましさを感じていたのか。


「いや、だって、カードゲームでしょ?お金かかる、じゃん。」

「そうなのですか?」

「椿っち、普通のゲームだとパッケージを買えば基本全部入ってるけど、カードゲームはそうじゃなくてね。カードを集めるのにある程度の時間かお金が必要なんよ。強いカードは中々引きにくいからねぇ。」

「そうなんですか。だったらお金持ちが強いということですか?」


 じっと玲央青年を見つめてそう言葉を述べた椿少女であった。


「たとえ玲央先輩がお金持ちでも、高校生が大人に経済力で敵うとは思えません。」


 資金力があるかどうかの判断は置いておいて、椿少女の言及は的確である。


「なはは、そりゃーそうさね。」

「はい。」

「けど、そうさねぇ。竹刀も持たずに立ち会う相手がいて、当然負けて、竹刀が買えなくて負けたって言われたらどう思うよ。」

「防具よりまず竹刀だろーが!って、突っ込みましょう。」


 鏡様の鋭利な一言が部室内に木霊した。


「ああ、そりゃそうか。でもまあ、そういうこと。」

「すいません、よくわかりません。」

「つまりですね、そういった入手確率の低いカード類をそろえた上で初めて土俵に上がれるのですよ。お金や時間がほかのゲームに比べて多くかかるのは確かですが、いくら費やしたかが直接の勝敗には、中級層以降は関係ないのですよ。その辺りから既に揃え切った相手しかいませんのでね。」

「竹刀なしじゃ、予選も勝ちあがれないわね。」


 ちらと龍青年の方を見て一言追加した鏡様であった。


「いや、俺も大体全部持ってるぞ。集めること自体はそこまで実はかからんのだな、これが。剣道道具一式よりはるかに安い。膨大な時間をかければ、支払いゼロでいけんことも無い。」


(すべて揃え切りました。龍青年の言うコスト比較は適切です。)

(そうですか。)


 ここ最近のユウギリのブームは彼らのあらゆる発言の真偽をチェックすることである。気持ちはわかる、が時折突拍子もない一言を述べられることもあるので注意が必要である。


「んー、でもさすがにそれを親に頼るのは違うじゃん?その、膨大な時間を費やすわけにもいかんだろーよ。てかあんた、どうしてそれで予選通過してないのよ。カードゲームとか、先読みの勝負でしょ。超得意なんじゃないの?」

「参加資格が、な。」


 対象のゲームに対し昨日の大会およびその参加資格を検索した。


「昨日の大会、一つ前の予選の時点で三か月間のランキングを常に高位で維持する必要があったようです。」


 鏡様に情報を伝えた。


「ほへー、随分と長丁場ね。」

「そうなんだよな。いくら先読みだの状況判断だの言ったって、カードゲームだからな。手札と引きに左右されるだろ?トッププレイヤーでも勝率は6から7割。ひたすら対戦し続ければ大きなプラスになるんだが。」

「さぼったと。」

「まあ。素直に白状すれば6,7割出せてたかどうかも怪しいがな。」


 さっそく検索してみる。こういうものはデータ履歴が残されていることが多い。


「龍青年の勝率、61%ですね。総対戦数は控えめですので収束はしていないかと。一方玲央青年は63%、対戦数が多い中でこの数字は立派でしょう。」

「なるほど。100やって+26ってことか。上はそんなんばっかだろうし、そりゃ確かに時間かかりそうね。」

「ですね。中には少ない試合数を9割出して上位に登る方もいらっしゃいますが、対戦しないで放置するとランクが下がってしまうので。月末締めの集計を三回、その幸運を三連続で維持できるならそれは実力でしょう。」


(上位、有効データ内での最高勝率は71%ですね。)

(そうですね。しかし試合数が他に比べると明らかに少ないです。収束はしていないでしょう。玲央青年の言う放置型の生き残りでは?)

(かもしれません。)


「よく考えられてますね。」

「ですね。おまけにカード効果も運要素が左右するものが多いのですよ、このゲーム。その辺りも龍がイマイチ本腰を入れられない理由なのです。」

「ふーん。でもスポーツ全般、アベレージを競うタイプと一回のスーパープレイで決まる物とに大別できるわよね。」

「んー、野球はどっちです?」

「アベレージを競うタイプね。最後の一球がどんなにすばらしくても、それまでの百球が駄目なら駄目だもの。打者の方は、打率とか、まさにそのための記録って感じでしょ。」

「なるほど。」

「あとはバスケとかゴルフは前者だと思うわ。スーパープレイってのはどれもあるけど、それ一回じゃ勝ち負け決まらないもの。」

「ふむ、ホームラン一発で決まらないか?」

「投手のエラーと考えればアベレージよ。」


 鏡様、野球に対しては辛らつな模様である。


「逆にスーパープレイ一回で決まる物ってなんです?」

「そりゃ椿ちゃん、サッカーでしょ。うん、間違いないわ。偶然でも何でも、一点入って守り切れれば勝ちだもの。」

「お前結構サッカー好きだよな。だが、その守りきるためのディフェンダーの方はアベレージが要求されるんじゃねーか?」


 ふふん、とその言説を待ち構えていたかのような表情を浮かべた鏡様。


「甘いわね。甘すぎるわ。お子様用カレーよりも甘いわね。DFとは、試合通して常にベストプレーを要求され続ける過酷なポジション。アベレージ程度じゃ、守りきれたもんじゃないわ。おまけに本職の守備に加えて前線への正確な球配給、これは説明しなくてもわかるわね。他にも、全力スプリントからの攻撃参加などなど。その効果、おとりになって敵DFを引きつける、実際に前線でボールを受けてクロスを上げたり切り込んだり。まさに攻防兼ね備えた能力が要求される、現代サッカーにおいて最重要視されるポジション。その際完璧をただの一回でもできたならば、ゲームを決められるわ。」


 鏡様、熱弁である。サッカーに対する彼女の言説はお子様カレーというもの並みに甘いのであろうか。


「ベストを要求され続けるのは、ある意味アベレージの高水準を要求されるのと変わんないんじゃない?いや、詳しく知んないけどさ。」

「おっしゃる通りです!しかし、サッカーの魅力は、そこじゃないのですよ。試合中何度ヘマしようと、どれだけミスろうと、大事に至らなければ良いのです。そしてたった一回の完璧があれば、すべて帳消しになってしまうところなのですよ!」

「なるほどね。そういうことなら野球じゃワンアウトを完璧に取れても残りの26アウトが駄目なら大惨事さねぇ。」

「そうなのです。」

「鏡さん、随分と詳しいですね。」

「まあね。」

「それは点をいれられた方のキーパーやらディフェンダーのエラーってことにはならないのか?」

「うっさいわね。本来入りにくくできてるんだから、ぶち込んだら攻撃側のスーパープレイよ。野球のスコアとサッカーのスコア、比べてみなさいよ。数字は語る、よ。」


(野球の方は得点おおよそ3.5、失点も同程度ですね。一試合合計7点。サッカーの方は3点前後で推移しています。半分以下ですね。)

(そうですか。では真でよいですね。)

(そのようです。)


「めんどくせーからいいや。」

「まあでも、サッカーは点が入らない印象あるさね。」

「そうでしょうとも。」


 私の勝ちね、という満足げな表情を浮かべた鏡様。本当に、このところ機嫌がよい。


「今度の球技大会、サッカーで出るのですか?」

「そーよ。我が完璧なる采配でクラスを優勝へと導くわ。」

「何お前、こんだけ力説しといて、監督なの?ディフェンダーじゃねーの?フィールドプレイヤーですらなく、監督なの?」

「仕方ないじゃない!蹴ったらあらぬ方向にかっとんでいくんだから。」


 この間の練習で即戦力外通告だったのよ、、、と小声でこぼしたのを私は逃さなかった。


(ユウギリ、シュートの威力のみで活躍したFWの例は?)

(、、、無いことは無いですが皆体格が良く前線の競り合いで勝つタイプですね。)


「あー、脚力“だけ”は立派だもんな。」


(ユウギリ、小回り及びスピードも加味して。)

(小型のスピードタイプはボールの扱い精度が高い例がほとんどです。)

(そう、、、ですか。)


「うっさいわね!」


 残念なことに、助言を授けられるようなデータは得られなかった。何にせよ本日はいつも以上に話題が弾んでいるようである。その後球技大会における各人の参加種目へと話題は流れていった。






「豪運の持ち主のお前には、だから、向いてると思うがな。奇跡の勝率9割越え三連続が、見れるかもしれん」


 いろいろと話題をめぐった後、話は再び元の場所へと戻って来た。


「なはは。そういうのって統計的には正しく収束するんじゃなかったっけ?」

「そっすね。」


 うーむ、と腕を組み考え込む鏡様であった。


「鏡様、とある筋から全カードをコンプリートしたアカウントを入手しました。お使いになりますか?」


 先ほどユウギリが確認作業に用いたもの、有効活用させてもらおう。


「え?マジで?」

「はい。」


 んー、と再び考え込む鏡様であった。


「!そういえば、例の勝負、あんたの完敗で終わったわね。ここであんたが玲央に勝てば、勝ちよ。」

「おお、それは良いですね。やってみましょうか。」


 ひどく乗り気な玲央青年であった。論旨としては、大会優勝した玲央青年に勝てば大会出場できなかった龍青年に勝ったことになる、と言いたいのだろう。


「なら俺はこっち側かな。」


 玲央青年側につく龍青年。


「よろしい。では、メルクス対龍の代理玲央の決戦、緊急開催ね。」

「ルールはトーナメントで一般的なBO5でいいな?」

「同じデッキで三先?」

「いや、四つ用意で互いに一つ禁止指定、先に残りの三つを全部勝たせたら勝利だ。」

「なるほど、面白そうね。」


 まずはデッキ構築。とりあえずカード評価を調べて、投入するものを決めていく。


「んー、それどういう基準で入れてるの?」

「高評価の物から順に。」

「それならば勝てますね。あ、このカードはどうです?強いです。」


 椿様が指したもの、どでかい怪獣カードであった。最強クラスの戦闘力を保有しているものである。確かに良さそうなのだが、評価が低いのが気になる。


「ちょっと、素人はこれだから。これとこれなら、強いのはこっちなのよ。」


 鏡様が指したもの、小型の獣であった。戦闘力は低めの分類、しかし鏡様の言うとおり、かなりの高評価カードであった。


「確かに、評価はこちらの方が圧倒的に上のようですね。」

「え?こっちはすごく貧弱そうですけど。」

「こういうのはね、タイミングと状況で価値が一変するものなのよ。このゲーム自体はやったことないけど、この二択なら間違いなくこっちよ。序盤で出して問題なし、終盤でも一応の仕事ができるもの。」

「特殊工兵のようなものですね。」

「そのあんたの喩えはよくわからないけど、こっちのデカ物は、そうね、ポンコツな戦車ってとこかしらね。一発ぶち込めればいいけど、動き遅すぎ、防御力皆無で破壊されやすい、で折角場に用意してもまず活躍なんてしないわ。そんなのに貴重な枠一つを使っちゃ駄目なのよ。」

「なるほど。」


 確かに。小回りが利くことは重要なポイントだ。


「これじゃ遅々として進まないわね。もうサイトでトップデッキをコピーしましょう。そっちのが話が早いし間違いないわ。」

「それは問題ないので?」

「問題ないわ。憧れのプロプレイヤーモデルのスパイク買って使うのと同じよ。」

「なるほど。」


 という鏡様の助言により自作デッキ作成は断念して上位デッキを上から順に4つ、作成して準備とした。


「よし、後はメルクス、他のデッキも含めて動きを全て理解するのよ。」

「他のも、ですか?」

「そーよ。玲央の4つも、間違いなくこの中からの4択だわ。どれが出てきてもいいように、学習しておくのよ。」

「はい。」


 指令の通り約20のデッキの構成その他を覚え、実際のプレイ映像を高速再生で眺めまわす。


「先輩、ここまでした上で、勝つにはあとどんなことが必要なんです?」

「そうね、、、別ゲーでの経験からになるけど、引き及び手札のカードを切るタイミングね。選択肢が2つ以上あるときどっちを選ぶかとか、一つだとしてもそこで使うのか、待つのか、とか。」

「んー、待つ意味ってあるのです?」


 こくこくと、私も頷く。良い質問をしてくれた。


「いやさ、例えば、場を一掃できるカードを抱えてたとするでしょ。例えばこれ、ね。」


 画面上に提示されたカード、デッキの一つに入っているものである。


「盤面不利、撃ちたい、撃てるってな状況だとするわね。」

「はい。そこで撃つは、正解ではないでしょうか。」


 不利な状況をリセットできるわけだから撃たない手はないと思うのだ。


「そうなんだけど、撃った後もちゃんと考えないといかんのだよ。リセットした上でその後盤面有利にできる準備があるのかとか、もうちょっと極論言っちゃえばそこから勝つ手筋があるのかとか。」

「なるほど。でもそれは1ターン待ったところで変わらないのでは?」

「まあね。けど、もし返しの敵ターンで盤面に脅威が追加されたら、その追加含めて次の自分の番でリセットできるでしょ?」

「おお、なるほど。」

「支払うコストは返しのターンの敵の攻撃。それと待つことによるリターンの天秤よね。支払えないなら撃つしかないし、敵の手札枚数が少ないとかでリセット後の状況こちらが有利ならなんも考えず撃つとか、色々よ。」

「難しいですね。」

「カードゲームってそういうもんよ。で、相手も相手でこちらの手を読んでくるから、返しで何もせず優勢維持とか。大会優勝者なんだから、変に迷ったら大体手の内読まれると思ってかかりなさい。」

「刻みました。」






 結果、0-3の惨敗。大会優勝者というのは伊達ではない、ということであろう。準備したデッキは現環境で上位の物ばかりだったが。


「んー、メルクスさ、実は相当に運、悪い?」

「序盤プレイしなかったのではなく、できるものが手札に無かったのですか?」

「そうなの。*マリガン前も後も毎回。事故りを三連続。プレイがどうとか、というのじゃないわね、これは。」


(注:最初の手札が気に入らないとき、そのうちの一部あるいは全部を戻して再度引き直せるルールの事です。 玲央談)


 確かに、序盤高コストの物ばかりが手札に舞い込み何も出せず、そのせいでできた序盤の劣勢を覆せずにどの試合も敗北した。


「ま、そういうこともあるわな。」

「なはは。乱数操作とかはさすがにできないか。」


 システムに既に組み込まれているものを改変するのは骨が折れる。一度の対戦のみに影響するようにとなるとなおさらである。やってやれないことは無いけれども。今はサポート要員もいるのであるし。


「やろうと思えばできるとは思いますが、今回限りで影響を与えず留めるには労力が。」

「それちょっと興味あるわね。」


 鏡様が興味津々に目を輝かせて答えた。


「玲央。泣きのもう一戦。メルクス、最高のブン回りを再現してみなさい。」

「わかりました。」


 とはいえ私はあまりその手の行為は得意でなく。


(可能ですか?)


 ほとんど懇願するレベルでユウギリに尋ねた。この期待は、裏切れぬ。


(乱数生成時の調整をすればよろしいので?)

(はい。)

(わかりました。少々お待ちを、、、はい、ある程度のパターンならば常に再現可能です。)


「ある程度のパターンならば、再現可能だそうです。」

「だそうって、何よ。まあいいわ。龍、ブン回ったら最強の奴、どれ?」

「これだな。こういう手順で、、、」






 結果、圧勝。


「世界が、取れるわね。」

「結局何戦しましたっけ?」

「10だな。すべて、全く違いなく同じ手順だった。」

「どー考えても不正でさね。運がよいでは説明がつかんさ。」

「んー、そうですね。」


お気に召さなかったよう、である。


「まあサッカーでも流れるような美しいゴールばかりじゃ飽きるしね。ラッキーゴールとか不運なPK献上とかがあってこそよ。」

「オフサイドの誤審もな。」

「お、いいじゃない。何にせよ本気を出したこの子相手にデジタルゲームで勝てなどしないということよ。あ!そういや前に、、、」


 その後も本日は話題が尽きることは無く。






「龍、これからゲーセン行くわよ。さっき私が言ったこと、その身で体験するがいいわ。」

「まあいいが、いくらなんでも大げさすぎんだろ。あれは乱数とかないだろーが。とっさの判断は、直感は、積み重ねた経験というものがだな、、、」

「面白そうね。あたしもついていくさ。」


 結局そのままメンバー全員で向かうこととなった。


「これよ、これ。ぜーったい勝てないわよ。」

「おー、懐かしいな。まあ見てろって。たかが数時間やったぐらいの相手、単にお前の腕が落ちただけだって証明してやるよ。」


 以前ご褒美にと連れて入ってもらったレトロゲーム喫茶へ到着した。龍青年と早速対戦、以前の挑戦者たちと同じく完璧に打ち負かした。


「、、、は?」

「ね?」

「世界が、、、取れるな。」


 悔しさ一割、放心九割といった表情を見せて感想を述べた龍青年であった。


「このゲームが現役ならねぇ。しかしここ、コーヒーおいしいねぇ。」

「はい。」

「ですね。」


 今回の対戦会はおおむね有意義であったようである。

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