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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校二年生 -春-
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bamboo princess

「セバスは悪くないわ。正座を解きなさい。」

「いえ。」


 本当に律儀な男である。何がそこまでこの少女に忠誠を誓わせるのか、本当に彼の過去、二人の出会いとか出会ってからのあれこれといった細かい設定が気になってくるのである。ちなみに日本式のこの謝罪スタイル、以前私がビオプランタでクーラさんに私が行ったのを真似している。そういうのを覚えている点もまた律儀度合いを高める。






 説明された状況は極めてわかりやすい。


セリナがここハルモスの街でいわゆる腕っぷしとして少し噂になった。私と同じく安い喧嘩を喜んで買い漁るスタイルだ。見た目だけならトップクラスの女セリナ、酒場その他、今までも声をかけられることは多かったのだろう。流れのままに腕利きの自負を持った男どもを張っ倒し続ければ話題にもなる。


これは私のワンミス。影響が出るほどに長居した、させた。


そしてここは音楽の街。住まう女性たちの多くは繊細でか細くてお行儀良くて。そんな感じの人ばかり。その手のタイプに食傷気味だった街のモテ男たちは、群がる蛾のようにその新たな光源に殺到した。もう一度言おう。見た目だけなら、申し分ないのだから。


 そんなセリナの理想の相手は、もし私が男だったら、と言わしめるほどであるから武人である。それもそんじょそこらの腕自慢程度では満足しない。なので当然、生来武芸など一切興味のなかったこの街の男になびくはずもなく、素っ気なく、いや、苛烈に、拒否していたらしいのだけれど、その反応が逆に新鮮で余計に火を燃え上がらせる結果となったそうだ。


 ここまでを聞いて、スケセリの最も苦手な案件だということは明確に理解した。


「それで、うっとうしく付きまとって来る者たちを遠ざけるために、イクス殿の知恵をお借りしたのですわ。」


しかしながら、そんな彼らはめげることなくわが手を可能な限り煩わせまいと、セバスやイクスの力を借りて私の居ぬ間に一計を案じたのだ。


これも私のワンミス。私に相談なしにアクションを起こさせてしまったのは、彼らをほっぽり続けたせいだ。


 しかして、彼らの作戦は悪くなく。むしろ素晴らしいと褒め称えるべき見事なものだった。絶対に実現不可能な無理難題を押し付ける。セリナは武器類が好き、だから欲しい品がいくつかある、それを手に入れて贈っていただけるならば申し出を受けましょう、と一人に一品ずつ指定した。言われた方は納得し、頑張って探す。見つかるまではうっとうしく絡まれることも無くなろう。


一つの欠陥を除き、素晴らしき、ベストアンサーに思えるそれ。唯一の欠点は、もし本当に見つけてきたらどうするんだ、という反論である。けれどその誰しもが思い当たる明確な急所に対して完璧な防備が、単純明快な前提がある。


そう、その依頼の品の全てが、我が馬車内にあるものだったのだ。


「そんでまあ付きまとわれなくなったわけさね。いやあ、ありもしないものを探し続ける男たち、滑稽だねぇ。悪女の業、だねぇ。」


いずれも彼らが遺跡巡りで手に入れた一品ばかり。それら馬車内に転がっていた数々の武具類を、セバスの鑑定眼とイクスのデータ解析でもって出自を明らかにして有効利用した見事な案なのだ。おそらく唯一品を依頼としてお願いしたのだろう。それならば見つけようがない。


が、ここで再度の逆接のしかしが起こる。今回の私の行動によってその全てがアドラの里に集中してしまった。これも我がミス。あれ、これ、結局悪いの全部私じゃね?






ということで冒頭の状況に至る。


セバスが謝っているのはそのことを私に告げるタイミングを逸したから。それもまたさっさと出て行ってしまった私が悪い。


さて、この事実。判明すれば求婚者全員森の里へと殺到する。もちろん黙ってりゃいいのですぐにそんなことにはならないが。


しかし私が妨害したせいで達成できなくなった一人は、今頃使いの者が報告内容について頭を悩ませながら帰宅中のはずだが、報告を聞いた主人が諦めなければすぐさま再交渉に赴かせるはず。


その際目ざとく他の品を見つけてしまうこともありうる。何故に全てこんな場所に?のクエスチョンから品の持ち込まれた要員が当然私であること、さらに私とセリナのつながりにまで及んで出来レースを指摘してくれば、窮屈な立場に陥るのは私である。知らなかったとはいえ頑なに譲り渡すのを拒否したわけだから、一歩下がって結果だけを眺めた場合作為があったと思われても仕方ない。


そうなると、まずい。私たちがハルモスを旅立った後、流れのままに折角送った弓がテゲリオさんの手を離れてしまっては、よろしくない。


 ではしばらく様子を見るか?例えば弓はあきらめて、代わりに他の依頼の品をすべて持って帰ってくることもあるな。指定されたものではないが、他全部ですからなんて言われたら、頷かざるを得ない、か?


つーか、面倒くせぇ。転び方が、わからん。


「いやー、ミラっち、いい感じの気分転換っしょ?」


 転びようが無いように支えを置きまくるぐらいしかすることないな。まずは里に再度急行して懸念のブツどもを返品していただく。弓のことも合わせて事情をこちらから打ち明けたほうがいいか。その交渉に今度は何を持って行くべきか。店、まだ開いてるか?


んで、それらをこなした上でさっさと街からおさらば、か。今日中に終わるだろうか。いや、使者の帰還に要する時間を考えればそう急ぐ必要もないか。つーかむしろ帰還途中で始末、、、いや、その発想はいかん。確かに簡単だが、いかん。


面倒くさい。あーもう、何が気分転換だよ。


「いえいえ、クーラさん。面倒事は今月末のアップデート以後の対策の邪魔になりますよ。」


 落ち着いて精神を研ぎ澄ませておきたい時期なのに。


「何が来るかわかんないのに対策しても意味ないよねぇ。」

「いえいえ、無い知恵絞って可能性を模索するのですよ。」


前回と同じくどこか別領域へ飛ばされると仮定して、別々の場所にならないよう全員で固まって、転移後最初の行動は周囲の様子を探りつつ自由な出入りが可能か判断して、と事前に設定しておくべき決め事はいくつもある。しっかりと知恵を絞れば、完璧なガイドラインが出来上がるかもしれないのだ。


「そ。で、今から夜逃げでもするのかい?」


 うむ、そうしたい。


「そう、したいのですが。」


 しかしてそのために、やっておくべき後始末はいくつもある。贈った弓を守ることが最優先事項だ。


いや?ちょっと待て。


「先輩、ニタニタしないでください。」


 肉食獣の笑顔は威圧感がある、と感じた。そして一つ、見落としていた情報がある気がした。


「いやあ、煮詰まった中での、いい息抜きになると思うよぉ。ヘビーな思い出なんてひとまず忘れて、ライトな騒動の解決で今は楽しもうじゃない。」


何か隠してるな。その笑顔に思考が少し邪魔されたが、そこに思い至って考えてみて、ようやく見落としていた事実に気が付いた。


「スケさん、私が出発する前に話があるって言ってたわよね?何を言おうとしてたの?」


 そう、そうなのだ。今の依頼品の配置になったのはスケさんが私に話を持って来た後。おまけに私が武器類を持って行こうとしたのはその後の突発で、それまではすべて馬車内におさまっていたのだ。報告すべき問題、騒動など彼が話があると述べた時点では生じない。


「それが、先ほどミラージュ殿を探していた理由なのだが、依頼の品を持参してきたというものが現れたのだ。あまりに不可解なもので、今度こそ力を借りようと、な。」


 なるほど。それは確かに、面白い。いいこと思いつくじゃないか。そのアイディア、是非パクらせてもらおう。


 最優先が無事達成されることが彼女の返事次第で確定する。いったん深呼吸して、にっこりとクーラさんに微笑み返した。


「弓一丁、依頼いたします。」

「ん、乗った。」






「結婚させりゃ、良くねーか?」


事も無げに、さも簡単な事じゃねーかとでも言うかのように、最終手段を提示する龍。


「いやいや、龍さん。そんな簡単な話ではないですよ。」

「そうか?」

「そうよ!」


 全くこいつは、女の人生で数度はある大事な決断の内の一つを、一体何だと思っているのか。たぶんフェミニスト、の玲央の爪の垢を煎じて飲ませないと。それでも足りないかもしれない。


「いや、いいねぇ。」

「何がです?」


 私のテンションの高さに面食らって気まずそうにお茶を飲み続けていた椿の返事であった。


「いや、しょうも無いことでしょうも無く議論して。こういう方が、うちらだよねと思って。」

「そっすね。」

「ああ、えっと、そうなのですね。」

「?いつも通りじゃないですか。何かあったんです?」


 確かに、しょうも無いことではあるのだが。龍のいい加減な発言に対し憤懣やる方ない私とは対照的に玲央は話の流れに不思議顔。ほんとに、幸せな奴だな。こいつはきっと、知らぬほうが良い。知ればたぶん真面目な彼のこと、私以上に思い詰めてしまう。


「何でも無いわよ。ただ面倒ないざこざのせいでのんびり落ちつけなくなって、ちょっとイライラしてるだけ。おまけに龍の無思慮な発言ですもの。イライラも振り切れるというものですわ。」


今現在のセリナの様子を脳裏に思い描いた。時間的にはアドラを連れての遺跡探訪から帰宅中といったところだろうか。笑顔は多分、曇っていないだろう。ちゃんと解決するから心配するなと伝えてある。


「口調がセリっちになってきてるよ、がーみー。」

「そうですね。お腹でも満たして落ち着いてはいかがです?」


 臆面もなく言い放たれた。


「そう、させてもらうわ。」


 お茶うけに用意されていたクッキーを手に取りポリポリと口内でかみ砕いた。


「ふう、まったく。月末アップデートからの攻撃を想定してあれこれ考えなきゃいけないのに、余計な事柄で、この話し合いの時間が、無駄に、なるんです。」


 少し落ち着いてから一言。弓に関しては解決策を見つけたが、セリナの騒動そのものは、解決しますと伝えた手前放置しておさらばするのもいかがかと迷っての議題提出である。すっきりと解決できる案があれば聞いておきたい。


「元々大した話し合いなんてしてねーだろ。それより、偽物を用意するほどの入れ込みって相当だろ?いい相手じゃねーか。」


 そういう問題だろうか。プラスにとれば確かに聞こえはいいが。


「詐欺じゃん。」

「そうとも言うな。」


 自分のために困難をものともせずに頑張る行為に心を動かされるのであって、大事なのは物そのものではない、というのは物質的に満たされた環境で育ったこと由来の考え方だろうか。贈る立場での食品類という解決策は結構理に適ってると思うが、婚姻に関しては、どうだろうな。


「ドラマとかで、指輪を贈るじゃん?なんていうか、ドラマティックなシーンで。えーと、あれ?本当に、なんて言うんだっけか。」

「プロポーズのことですか?」

「そう、それ。」


 喉の奥に引っかかりすらしなかったが、玲央が代弁してくれた。結婚してください、ってオファーを提出するシーン。指輪の箱をかぱっと開けて、中身を見せるあれよ、あれ。


「ドラマだけでなく、現実でも贈りますよ。」

「そうなんだ。でさ、あれって、指輪が大事なの?それとも形式として確立してるからの行い?なんか、高級レストランで食事してーとか、いろいろルールがあるんでしょ?指輪そのものはさ、別に無用の長物?じゃん。そこんとこ、どーなのよ。」

「いや、別に特定の規定ルールなどはないと思いますが、、、」

「両方だろ。実際金持ちだけの市場だったら今の装飾品産業なんて供給過多で立ち行かねーだろうしな。中流層にも無駄遣いさせるためのいい伝統だと思うぜ。そういう無駄遣いありきで経済は回ってるからな。」

「龍さん、、、」


 玲央の説明に割り込んで龍の意見が通った。ふむ、確かに非常にわかりやすい効用効果がそこにはあるようだ。


「鏡さん、納得しないでください。本来は王侯貴族の間の行いで、価値が高いものを贈って誠意を示したのですよ。それが庶民の間に広まったのです。あとは特にほとんどのケースで用いられるダイヤモンドの指輪などは、石言葉に永遠の絆というものがありますし。素敵でしょう?」

「ふむ、、、」


 結構詳し目な解説があった。玲央と龍、二つの異なる立場からの裏書き。経済的な理由というのは龍の意見とはいえ素直に納得できる。しかし、玲央の方は、どうだ?


「価値が高いものでって言っちゃうと物々交換的な側面が出てきてちょっとやな感じしない?」

「手付金と考えようぜ。証文だ。男女とも、つけてりゃそれと明言しなくても周囲の人にはわかるしな。日常生活の邪魔にもならん。別に男からしか送っちゃいかんという厳密なルールもなし、ジェンダー的にも問題ない。家計が合わされば、一応返ってくるわけだしな。」

「おーう、確かに。理に、適って、いるか、、、?」


 役に立たないことが大事だということか。役立てるタイプのものだと、消耗していつかは壊れるだろうし。何か癪だが、異常なほど納得できてしまう理由である。やはり社会的通例というのは効率だとか効用とかいったものがあるから根付くのだろうな。


「さっきからおとなしく聞いてたけど、あんたら二人、ロマンが無さすぎない?いかに理系とはいえ、さ。今回はさすがに玲央っちがかわいそうだわ。」

「そうですかね?いや、でも、玲央の理由をロマンチックに取るだけだったら、、、そうですね、埴輪でいいじゃないすか。」

「埴輪?なんで?」

「埴輪、、、ああ、そりゃー確かに。言いたいことは多分だが、わかったぜ。」


 なんかわかられた。今日はそうそう起こることがない龍と気が合う日であったか。


「意思が通じたらしい龍さん、鏡さんの不可解な発言の説明をお願いします。」

「いや、文化財になるぐらい価値が高くて、おまけに墳墓に飾るわけだろ?そりゃーつまり死ぬとき一緒に棺の傍に置きますよってメッセージだ。」

「うわーお、、、お姉さん、言葉が無い、ね。発想が突飛すぎるわ。それは何?理系的な、サイエンティフィックな思考でもって推測できるもんなの?」


 私はそうは言っていないのに、ほぼ正解だとでも言わんばかりに涼子先輩がまくし立てた。いや、うん。正解なんだが。


「いやいや、それならばダイヤモンドの方に軍配が上がりますよ。死してなお輝きを失わぬわけですから。」

「いつでも叩き壊せる埴輪のが良くない?ほら、離婚とかの時にさ。」

「どうして離婚前提で婚姻の誓約をする必要があるのですか!」

「なはは。」


 珍しくテンションをあげた玲央であった。


「私は可愛い造形の埴輪の方が、指輪よりもうれしい、かもしれません。」

「なはは。そう思える椿っちの心根が可愛いよ。」


 確かに。深―く首肯した。


「実際もらうなら、換金が簡単なダイヤの指輪の方がよいわね。うん。」

「だから!なぜに、壊れること前提なんですか!」

「玲央、あんたの大好きな言葉、諸行無常と一言、返しておきましょう。ええ。」


 適当に思い浮かんだ言葉をそのまま発した。


「、、、確かに。日本人的美意識とダイヤモンドは、そぐわないのかもしれません。」

「玲央っち、あんたはいったいいつの時代を生きてるつもりなんだい?」

「か、鎌倉時代に成立だったと、習いました。」

「正解。」


 答えたのは受験の記憶も新しい椿であった。確かタイトル平家物語だよな。鎌倉って敵じゃね?まあいいや。






「コホン、失礼しました。では、気を取り直しまして、起こったことは戻せないですし、今日はその、セリナさん絡みの騒動の治め方をこれから考えましょうか。」

「そうね。悪かったわ。」


 玲央からのスムーズな議事進行であった。自分の方から下らぬ話題提供で時間を無駄にしてしまったと悟りつつ、頷いた。


「情報であふれかえるこことは違って、向こうの話題は中々静まらないのよね。重力加速度10分の一とかだわ。」


 もちろんこちら側も、あの弓のように何らかの効果が及ぼされれば話題がなかなか落ちないことはある。より高く飛翔することもあり得る。それは善意の第三者であったり悪意ある口コミだったり、あるいは商業的な目的だったりと様々なのだが。


「七日じゃ無理か?」

「たぶん、無理ね。私については二度目だし、実際どの程度かはわからないけど、恋愛ってそれなり、でしょ?」

「そう、だろうさねぇ。懐かしの女狼さんで確認とれるんじゃない?」

「なるほど。でもどっちにしても七日はかけられないっす。早期解決が望ましいっす。」


 引きずる引きずらないは別にしても、覚えているかと問われたらまあ忘れてない、よな。変なところで現実味のある設定をしているのがこのゲームだ。悠長にしていられる時期でもなし、早いこと解決させたい。


何にせよ誰かと結婚させる案は即却下。セリナが望まぬ相手じゃダメ。男どもをあきらめさせる案がいる。


「んじゃ、現実に即して重力でも作ってみたらどうだ?あるいは冷却装置、か。」

「なるほど。冷めさせるには何がいいかしら。」


 龍の一言を聞いてぱっと思いついたものは世に広く知れ渡っている一つの事実、経年劣化であった。思いそのものが劣化するのか思いの対象が劣化するために引き起こされるのか、因果の順序はわからないが、熱が時間経過で拡散してしまうのと同じくそれは確実に起こる。


しかし向こうじゃ、どうだろうか。少なくともセリナは多分歳とらないよな。そもそもさっきも言った通り、そんな長丁場では解決ではない。もっとこう、急冷させるようなのじゃないと。


別の女性か何かをぶつける、とか。この場合、先ほどとは違って不思議なことに熱力学の法則は壊れる。他のものへと熱が移る際、平衡を突破して移り続けるのだから。しかし弾が無い。


「恋から醒める瞬間って、経験ある人、挙手。」


 より良い相手が登場する以外の思い付きはなかったので、皆に意見を尋ねてみた。相手の嫌な面を目撃した、とかか?ドラマやらなんやらから得た知識を元に掘り出そうとしてみるも、イマイチパッとしない。発言の後周りを見てみるが。


「ちょっと、挙手!」


 再度の呼びかけに対し、手をあげた者は皆無であった。


「コホン、では物語に習い、天へと連れて行くのは?」

「お話通りですね。ロマンティックで素敵です。」

「そうさねぇ。でも準備その他めんどくさいかも。」


 無かったことのように流された。椿のこぼした言葉通り、ここには一度としてなかったロマンティックがそこにはある。手の届かぬものへと恋をした男たち、美談にもなろう。


「いいわね。」


 それならば、こちらがすべきことは簡単な台本を用意しつつ男どもが品物を入手するのを待つだけだ。


「そりゃ、ちゃぶ台返しじゃね?」

「真なる古典名作にいちゃもんつける気?長らく広く受け入れられてんだから、ありってことでしょ。」

「そうか。まあ何でもいいさ。」


 なら聞くでない。


「次の行き先は、どのあたりを想定しているのですか?」

「そうね。魔法都市あたりにでも行ってみようかしら。距離離れてるしスケさんはともかく他の面々は喜びそうだし。」

「んじゃあ、、、」


 ある程度の方向性は固まった。皆でヴァルハラにでも旅立ってもらおうかしら、ね。






 帰宅しいつものようにログインして、ハルモスへと降り立つ。招待を送って私はクーラさんと二人で早速森の里へと向かった。


「これなんですけど。」

「オッケー。すぐ作るさ。」


 テゲリオ邸にて。居合わせていた彼に弓を借り、贋作づくりである。ここは引けないラインだ。


「ミラージュ殿、昨日おっしゃられていた悪巧みですか?」

「善巧みです。」

「なはは。」

「そういえばクーラさん、前の剣の時にも思ったんですが、こういうのって小道具で、衣装じゃないですよね?」

「まーね。でも何が幸いするかわかんないし。とはいえ現実にはここみたく高品質な材料を潤沢に使えたりしないだろーけどさ。加工の手順だってまた違うだろうし。」


 なるほど。


「でもミラっちんとこだと手先が覚えていってく気がするから不思議だよねぇ。身体記憶ってやつかな?」

「かもしれませんね。」






「できた。」

「おお、そっくりそのままですね。」

「確かに。見事な腕前だ。我が里で働かないかね?」


 なんか勧誘されとる。


「なはは。見た目だけさね。中身はただの弓よ。」

「そうか。それだけでも十分なのだがな。まあ、別の大義があるのであろうな。」


 両者共に控えめな言葉のやり取りであった。


「ここの里の人じゃなければ、同じよね。」


 製作された贋作を手に、弦を引いてはじいてみる。テゲリオさんにも手渡して、引いてもらう。特殊効果は表れない。


「そう、かな。つくり自体はむしろこちらの方が上かもしれないぞ。それで、これを、再訪してきたものに譲ればいいのか?」

「そです。まさか同型の偽物があるなんて思わないでしょうし、本物と信じて交渉に応じるでしょう。その際代価のふんだくりはご自由に。他の品々も同じようにどうぞ。今日この後か、遅くても明日か明後日あたりには殺到してくるはずだから。」


 酒場で現在他の面々が噂を広げているはずである。後はのんびりとあれこれ考えながら大根を頑張って育てることぐらいだ。

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