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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校二年生 -春-
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watashi_nari_no_kaitou

たった今、私の精神は、長い長い故障から直った気がした。その一瞬間だけ、悟った気がした。


盛大に汚れたローブを脱ぎ去って、まず目の前にいたCM-EXの汚れをまだ綺麗な部分で拭いた。メルクスの方を見た。そこまでは届かなかったようだ。ほっと一息ついて、その後自分の顔を拭いた。上手く拭き取れなかった。


裏返して、それでもなんだか汚い気がして、制服に移ってはいけないと思った。


染みができたら、目立って変だよな。それは駄目だよな。


「水道は、通ってるのかしら。」

「はい、あちらに。」

「CM!」

「いいのよ。この子の判断は適切だったわ。うん。最適だった。あなたたち二人に、咎はない。私が、さっき、この子についた汚れは取ったから。あなたには一滴も、かかってないわ。大丈夫、全部私が、引き受けるから。」


水道でしっかりと洗い流そうとしてローブの置き場に困った。顔を洗おうと両手で水をすくうのに、持ったままではできなかった。


洗面台に、置いてはいけない。すべてこれは、私が引き受けなければいけない。そうしてすぐに、わかった。


パタパタと折りたたんで、手ごろなサイズにして、頭に乗せた。わかってみれば簡単な事だった。その全ての汚れを、自身の身の内だけに留めるには、汚れのほんの一部ですら、纏う衣服に、メルクスに、この新しい子に、部屋の設備に、自分以外のあらゆるものに負わせたくないのならば、置き場所は頭上にしかなかった。


傾けて落としてしまわないように首を立てたまま両手で水道から水をすくって顔をバシャバシャと洗った。


ほとんどの水が首筋を落下して肩口や胸元に落ちるけれど、水はきれいだから、染みになったりはしないので安心だ。


「鏡様、申し訳ありません。このような、お目汚しを、、、きっちりと、再教育いたしますので、、、」

「いいわ。臭いけど、洗えば落ちるわ。」


裏側の、まだ汚れていない側の布地で濡れた顔をごしごしと拭った。


「あなたの愛称も考えないとね。素敵な名前、付けてあげなくちゃ。」


濡れた顔を拭きながら、CM-EXへと言葉をかけた。


「椿様から、案はいくつか。」

「そ。サプライズのつもりだったのね。申し訳なかったわね。」

「いえ。」

「知らない振りするわ。後輩の喜ぶ顔、見たいもの。あなたも、今日のことは知らないふり。私とメルクスの二人で対処したってことで、よろしく。」

「はい。」

「じゃ、今日は解散。」


部屋を出て、そう言えばどこから出ればいいのか、と考えていたら、メルクスに屋上からまた、と教えられた。


オレンジ色の夕日が見えた。とても美しかった。


鏡はいつか割れてしまう。例えばこの屋上から落としてしまえば、木っ端みじんに砕け散るわね、それは物理学よね、と思った。


少なくとも責任を果たすまでは、地面に叩きつけないようにしないと。そう決心した。


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