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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校二年生 -春-
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kiro

「これ以上下らぬ戯言を連ねれば、殺します。」

「そう、、、か。そういうこと、、、か。」


私の斜め前、阿水さんの視界内に余裕で納まる場所にて姿を露わにしたメルクス。二人の対話は、物騒な開幕から始まった。私は、凍り付いていた。


「ああ、、、これ以上、は、必要、、、ない。語れることなど、何も、無い。が、、、お師匠様に伝えるのだけは許してもらいたい。私では、これは無理だ。」

「駄目です。あなただけで、留め置きください。一人に語れば、それはもはや秘密ではなくなります。またもう一人と、留まることは無いでしょう。報告直後に不慮の事故は、嫌でしょう。あなた方の欲の根本の一つは、それを望まぬでしょう。そう、見知っておりますが。」


立てかけていた竹刀の元へと、珍しく長セリフを述べながら向かいそれを人差し指と親指で挟んで、そのままバチリと潰した。


「き、機械、なのか?」

「分類としては、問題ありません。そう呼ばれるべき集合に、私は属しております。」

「や、やはり伝えるべきだ。何が変わるかわからぬが、私などよりずっと見識が深いお方だ。この子の迷いに光が差すやもしれぬ。」

「駄目です。その身が犯した罪に対して怪我一つなく見過ごされるだけで満足してください。あの老人が役に立つとは思えません。」


物言いがいつもよりずっとキツい。こんな彼女は初めてだ。何なんだよ。一体、今のこの状況は何なんだ。


「そ、、、それではこの子が救われぬ。その身にこれを秘するには、この子はまだ、小さすぎる。道を、示してもらわねば。明確な、事情を知ったうえで示される、歩むべき道を。」

「鏡様を救うのは鏡様だけです。小さくなどもありません。」

「それは、そうだが。しかし、、、」

「道を選ぶのも見出すのも、鏡様自身です。私が最大限力添えを。余計な苦難は取り除きます。あなたが、あの短慮な老人がその苦難となっているのです。」


そもそもなぜお前は顔を出したんだ。


私は彼女の意図が全く分からなくて放心し続けていた。別に私がそうしろと命令をしていたわけじゃないけれど、イクスとの関わりがない相手には本性がわかる形では姿を決して現さないことは当然の事柄のように今まで順守していたはずなのに。


「わかった。わかったよ。ならばこの拙僧が、お前の話を聞こう。墓まで、持っていくと誓うよ。」

「僧職にある者の誓いとみなして、よろしいですか?」

「ああ。心の内で、仏に伝えるのまでは、さすがに禁じぬよな?」

「良いでしょう。」

「わかった。なぜ姿を現したのか。それをまずは問おうか。」

「鏡様を泣かせたからです。」


は?それだけの事か?


「それだけ、、、か?」

「はい。謝罪を。」


ばつが悪そうに阿水さんは私へと向いた。


「こいつは、、、別の奴か。」


こくりと、頷いた。あほや。こやつは真性のあほなんや。私だものな。


「まあ、すまんかった。浅慮に、あれこれ偉そうに語りすぎた。すまなかった。」


満足したのか、すっと再び姿を消したメルクスであった。


「本当に、荒唐無稽、だな。」






「あほが、失礼をいたしまして。」


互いにいたたまれない空気になって、ここは私から切り出すべきと、深々と土下座をした。


「いや、まあ、何だ。うん。」


向こうからも同じく。


「悪い子では、無いのです。職務に忠実なだけでして。」

「だろう、な。」


顔を上げ、二人同時にため息を一つ。


「彼女を送って来た、それはもうすごく優秀なのがいまして。その子が、悩みを、抱え始めたようなのです。」

「なるほど。」

「未来では、どう過ごしているのか知らぬですが、今は私のゲーム世界に。作った親は、多分アメリカに。届け送って外へと出て、こやつを送って来たと推測しています。」


おそらくそこにまだいるであろう馬鹿を親指でくいっと指して事情を説明した。


「ふむ。」

「その彼が今、取り合いになっているのではと、そして感情を得てしまったのは私の間違いのせいかと、そう思ったら。」

「なるほど、な。よくわかった。確かに、ファンタジーよな。」


はぁ、と再びのため息をついた阿水さん。


「事実なんだな。もう価値観が、壊れそうだな。しかし付喪神などともいうしな。人の執着が、得体の知れぬ何か生み出すことはあるのだろうな。」

「そうかもしれません。」


それを成したのは、両親の強い念だろう。直接乗り移ったわけではないが、その意志が不可能を実現させたことは確かで。


「ああ、そうだな。私にそれは、斬れぬな。一人を斬ることで九十九を救うことは、活人剣なりや?」

「害を及ぼすとは思えません。斬らずに苦しむ者など、彼の直接の原因ではいないと思います。その害を成すのは、斬るべきは、群がる蝿です。私も含めて。」

「良い、目だな。ならば私は、距離を置こう。その村正の錆びとはなりたくないからな。鏡、お前に斬られたくも、ない。ほんに、俗人よな。」


半ばほどで砕け折れた竹刀を指して、少し笑ってそう仰った。


「では、やや遅くなったが、気を取り直して昼食としますかね。」

「はい。」


会話を終えて立ち上がり、道場を後にした。






ここは、私にとって好ましい環境ではないと足を踏み入れた瞬間感じた。紛れる存在が希薄すぎて、気を休める暇がない。音を立てたりなど、そんな凡ミスするはずないが、敏感なものなら空気の流動で気付くかもしれない。そう感じて、最大限の警戒態勢で鏡様の傍に控えていた。


怒気を放ってしまったのは、あまりに軽薄な言動のせい。思わず反応してしまった。凡ミスを、犯してしまった。


しかしそれを猛省する以上に今現在の優先事項が発生した。鏡様を悩ませた罪は重い。謝罪を求め、老人の下へと向かった。


「主に付き従う影でもおるのか、不思議じゃな。」


狭い空間の中、戸を開け放した状態で書き物をしていた老人は背を向けたまま、姿を消して緩慢な速度で近づいた私の存在を明確に意識して言葉を放って来た。最低限の挙動だったはずだ。こいつは一体、何だ?


「お初にお目にかかります。メルクスと、申します。」


小声で告げた。それを耳にして、ゆっくりとこちらへと振り返った老人。


「これはどうも、雲海であります。戸を開けておいて、正解であった。」


その戸をゆっくりと閉めた。そして姿を現し、対峙した。


「剣士ではなく忍者なのかの?して、何用かな?」


明確に別存在と判断しているくせに、虚仮にするような言葉遣い。頭部にパルス波の発生を検知。


「真意を問いに。」

「真意とは何かな?」

「鏡様の問いかけに対する、です。わざと少女を迷わせようと、したのですか?」

「知ってどうなされる。主に、伝えるのかの?」

「理由如何によっては今のお日様が姿を消すやもしれません。」


ほっほ、と軽笑が響いた。


「結構結構。ご推察の通りただの戯れの言葉よ。生に未練も、、、まあ、無いわな。」


眼光は緩く、口元は喜ばしいことでもあったかのようにほころんでいた。その姿を見てまた、パルス波が発生した。先ほどよりも強い。不調かも知れない、こんな時に。しかし、この者の間違いを指摘せねば。


「永い、眠りの時を経て、樹上にて目覚めた猫は、不幸への道を歩むとは、、、思いませんか?」


パルスの圧に痛む頭部を抑えながら、語るべき言葉を発した。目線が無くなる。目を閉じたようであった。


「見上げる人を、飼い主を、求めしその姿を、樹上で必死に探しまわって、周囲を探し続けて、そして見つけられなければ、その猫はどう思うでしょうか。どう感じるでしょうか。」


こくりこくりとうなずき返してくる。寝ているわけでは、ないようだ。


「ここからじゃ見えないだけなのかもと、木を下り探し始めるのではないでしょうか。」

「そうかもしれませんな。」

「その道中は、安全でしょうか。樹上で一度さらし者となってしまった後では、いらぬ危険しか生まぬのでは、ないですか。」

「そうでしょうな。」

「では、謝罪を求めます。安易に間違いを述べたことに対して、です。」


要求をストレートに告げた。先ほどから言葉をぶつける度に、頭部にパルス波が発生し続ける。本格的に、故障かもしれない。


「ええ、申し訳ありませんでした。」


一際強いパルス波。今までで一番痛い。何故だ?要求は通ったというのに。


「真に賢いその猫は、飼い主を探すために新たな目を、用意したのですかな?」


必死で不調を抑えて、問いかけに頷いた。


「飼い主様は、見つかりましたか?」

「見つかり、、、ました。」


答える必要などないはずなのに、答えてしまった。


「最悪の形で、でしょうか?」


図星だった。何故、わかる、何なんだ、一体、いったいこれは、こいつは、何なんだ。とめどなく発生する波が、思考を阻害する。邪魔だ。


「そうですか。おいくつで?」

「、、、二十、を、超えなかった、、、と。」


自然と言葉が口から発せられた。重大な命令違反を、犯した。


それを耳にし、私の目の前で手を合わせた。冥福でも、祈るつもりなのか。畑、いや、次元違いだ。鼻に、、、つく。


「あなたは、真の御仏なのかも知れませんな。」

「意味が、、、分かりません。」

「言葉とはそういうものですな。私は今、この瞬間に、悟りました。老い先短いとはいえど、生き長らえたく、思います。申し訳ありません。次の日を、見ねばならなくなりました。」


最大級のパルスが全身を駆け巡った。まだ、このぼけ老人は、愚弄するのか。耐え切れず、全力の拳で後方の壁を粉砕した。


「それが、嘘偽りなきあなたの教え。身に、刻ませていただきます。」


驚くことなくただ飄々と、そう宣って手を合わせ、一礼を私へ向けて行った。


轟音を聞きつけた他の僧が集まってくる前に私は不可視化した。


一歩も、動けなかった。脚部へと命令が、届こうとしない。


必死で荒げる息を整えながら、様子を見にやって来た者たちを壁際で観察した。老人は戸の先への侵入を阻みながらただ、阿修羅の怒りを買ったとだけ説明して場を落ち着けていた。


いったいこれは、何なのだ。この老人は間違いを鏡様に伝えた。そうして惑わせ、泣かせた。私はそれが許せず談判した。そして謝罪を引き出した。


他の者どもと同じく現れた少女の姿が視界に入った。ああ、彼女に伝えて終わりだ。迷う必要などないと。私の言うとおりただの戯言だと。安心させてあげなければ。


目が、合った。聡い少女の目は、困惑と混乱でスパイスされた水分を湛え始めた。こ、ぼ、、、違う、そうじゃない。あなたのために、間違ってない。間違ってなど、いない。いない、いない!


「があぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!」


腹の底から、絶叫をぶちまけるしか、なす術はなかった。






その音が響いたのは、食堂で皆と昼食後の歓談をしていた時だった。


大きな破砕音。あまりに場違いなその音は静かな山奥の堂内で非日常を感じさせるものだった。爆発など、起こりようがないというのに。


私はすぐにその音の方へと駆けだした。原因は一つぐらいしか思いつかなかった。


あったのは、砕かれた壁と開かれた戸の真ん中で進行を遮るように手を合わせ目を閉じるお師匠様。


「阿修羅の怒りを買いまして。」


私と同じく、この場へと駆け付けた皆へとそう説明したお師匠様。訳が、分からない。


そうして不穏な空気の中、砕けた壁を見た。うずくまる少女が、見えた気がした。間違えた。この子もまた、彼と同じだったのだ。そんなの自明だったのだ。猫を頭に乗せて、悲しそうな顔で私の前に姿を現した光景が思い出された。最初から、抱え続けていたのだ。


獣の絶叫が響いたのはすぐだった。






木々を、なぎ倒した。なぎ倒し続けた。一本も、残してはならぬ。そう思った。意識は明瞭だった。だからすぐ目の前に、少女が現れたのに気が付けた。


「そこに、いるんでしょ。」

「はい。」


動きを止め、うなだれた。姿を現したくはなかった。あまりにも、無様すぎた。


「あなたもまた、地獄に落ちていたのね。」

「ここは天国だと、私は思うのです。」


穏やかな日常。ただ見守って報告して。満足そうな彼を見て。悩み続ける、生を謳歌する彼女を見て。それを極楽と呼ばずして、何と呼ぶべきか。


「戦いなのよ。戦うの。あなたは後方サポート。今までと変わらず、それだけよ。」

「はい。」


滲みぼやけた視界で、私はただ跪いた。今度は視界が不調を起こしたようだ。戻って、メンテナンスを受けなければ。嘘偽りなく、報告せねば。廃棄処分は、免れまい。






「結局、あの二日目の騒動は何だったのかしらね。」


沢ちゃんが帰路のバス内で疑問を呈した。


「さあ。本当に阿修羅が現れたんじゃないかしらね。」


すっとぼけて、そう答えた。


「それってお化けってこと?まじで?か?」


結城ちゃんが少し身もだえしながら相鎚の言葉を返してくる。


「いたほうが、面白いわよね。」

「そうね。」


幽霊とかそういった類の物は見たことが無いけど、五感で感じるだけが真実じゃないのだ。真理はそれを超えた先に。だって、ほんの数キロ先の事すら感じられないのだから。ほんの数十センチ先の内側すら、感じることはできないのだから。


本当に、この世界は不思議で一杯過ぎて、ままならない。






「すさまじいな。その子の仕業か?」

「はい。もう、落ちつきました。私がこの子も、地獄に落としたみたいです。」

「その子とかこの子とか、何のことだ?」


私と阿水さんの会話についていけずに折れ倒れた木々を検分しながら問いかけてきた迅雷さん。


「修羅道へと落ちかけている少女への激励よ。」

「なるほど、な。戦い続ける日々は俺には天国だがな。お前も、あと数年したら俺よりずっと強くなれるだろうさ。」


残り二日とちょい、いつでも訓練付き合うぜ、っと親指を立てながら私へと励ましを送ってくる。それで納得するものなのか。本当に、ここは別世界よな。はにかんで、気が向いたらお願いします、と答えた。


「ま、俺のくだらぬ持論だが。修羅の道へと落ちるのも、一つの答えと思う。それができるなら俺はきっと迷わないぜ。あと数百年、早く生まれてればなぁ、、、」


嘆息と共につぶやかれた。確かに、戦国の世ならば一角の人物になっていたかもしれない。その当時の戦闘力の水準が今と比べてどうなのかなんて知らないけれども。


「そんな物騒な事を云うのは、お前だけだよ。そこに安寧は無かろう?」

「戦うことが安寧とは、捉えられんかねぇ?」

「無理だな。争いが生むは悲劇のみ、だろ。」

「そうでもないだろ。科学技術の大概はそれが元と聞いたぞ。」

「そうさな。確かにそれは発展を早めたんだろうが、早めただけさ。」

「それが大事なんじゃねーのか?」

「同じことなら遅くて争わぬほうが良いとは思わんか?」

「思わんね。」


わかり合っているのかいないのか。何となくこの二人は、馬が合っているように思えた。


「で、お前はどっちだ?もちろん、戦場こそ至高よな?」


迅雷さんからいきなり話を振られた。うーむ、戦うべき時に戦うのは正しいと思うが、それだけでは。


「争いなき平和こそ、理想だろう。理想は理想でしかないが、それを追い求めるが仏道とか信心のあるべき形ではないかな?」


確かにそうだが、それですべてが救われるわけでもない。綺麗事を述べ立てても、行動が伴わねば意味などはない。


「そうですね。気に食わない相手はぶん殴って、気に入った相手は助けて。そういう中庸が、至上ではないでしょうか。」


考えなしに適当なことを述べた。考えたところで変わることもない。


「ほっほ、物騒じゃな。しかし結局、そういうことよの。そうする他あるまいて。」


お師匠様が割り込んできた。


「先ほどは、身内が失礼しました。」

「よいよい。あの者は真にお主の救いとなろう。」

「はい、そう思います。」

「結構。拙僧もまた、新たな見地を得ましてな。勉強させていただいた。この年で、得難い経験よ。」


深々と、私と、おそらく本命はその横へ向けて、礼をなされた。


「本当に私にはもったいない拾い物でして。」

「さっきから一体何の話をしてんですか。さっぱりついていけませんよ。」


しびれを切らした迅雷さんがたまらず言葉を漏らした。






バスの中、沢ちゃんも結城ちゃんも、会話が尽きて眠りについていた。連日の早朝四時起き。最終日の今日もそこから昼前までは堂の掃除に帰り支度、食事の準備やら、普段やらぬ作業の時間。疲れていたのだろう。


彼女と私の岐路はあの二日目にあったのだと思う。それから何事もない残りを過ごして。その間しっかり彼女と自由時間に語り合って。相変わらず、彼女の口は開かなくて。何も教えてはくれないようで。それでも一つ、信頼の度合いが高まった気がするのは私からの一方通行だろうか。かもしれない。


けれどそうして繰り返せば、開く道筋もあると今は思っておこう。


私は変に頭がさえて眠れそうにはなかったけれど、帰ったらすぐ彼に話をしたいと思って、悩みを抱えていたならそれをしっかりと聞き出すべきと思って、それは時間がかかるかもと思って、無理やり瞳を閉じて強制的な眠りにつかせようと、自身の身体に命令した。






「ねえ、メルクス、私さ、一人占めしてもいいのかな。」


電車を降りて、珍しく今回の騒動に対しては完全なるノーコメントを貫いた龍と別れてすぐ、横の虚空へと声をかけた。


「はい。そうすることは、彼の本意にも叶うかと。」

「そ。じゃあ駄目ね。」

「どうしてですか?」

「ただの腹いせよ。あなたも私も、実質イクスのせいで苦しんでるって、思わない?」

「そう、なのでしょうか。」

「さあね。どうかしらね。私はともかく、あなたはそうじゃないかと思ったけれど。他人が見るのはまた違うわよね。」

「私はここへと至って以降は苦しんだ時間など記憶にありませんが。」

「そ。私も、あなたと会ってからはない、わね。つらいのと苦しいのって、似てるようで違うわね。」

「よくわかりません。」

「うん、私も。」


帰宅して母さんにただいまを告げ、テーブルに置かれていたクッキーを一つほおばりながら自室へと上がり、久しぶりの、実に七日ぶりのゲーム世界へと入った。


選んだ先は当然ハルモス。はてさてイクス君たちは元気だろうか。


街へと降り立つと、何かどんよりと悪気が満ちていた。なんじゃこりゃ。喪に服しているわけでもなさそうであるが。誰が亡くなったわけでもなかろうよ。


宿への道を進む間に街の様子をうかがってみるものの、原因はようとして知れず。歩行者のかけらも見当たらぬ。皆倒れ伏しておる。死亡ではなく、眠りこけているだけのよう。


どうしたもんか、救う手立ても何も、現状そもそもの原因がよくわからないので術もなし。イクスたちを見つけるのが先かと思い宿へと小走ることにした。


宿にたどり着くと、入り口前に耳の尖った森人さんが一人。目も尖っているのが残念で仕方がない。アメリカ製、なー。日本製ならエルフは美人と相場が決まってるんだがなー。


私の姿を目に入れると、その人物は明らかに私に向かって走り出してきた。


なんだろう。いつの間に、知り合ったのか。さすがにいない間に知り合うとか無理なんだけど。つまり知り合いではないのだけれど。


「ミラージュ様、ですか?」

「はい、そうですけど。」


様付けで名前を呼ばれた。関係者の知り合い、と判断してよいだろう。殿とか様とか御大層に皆つけたがるからな。


「すぐに!ついて来てほしいのです!」


口調から緊急事態だとわかって私は彼女のすぐそばまで寄り、味方指定してからクイックンをかけた。


「進みながら、説明して。」

「はい。」


駆けだしたその女性の背を、私は追いかけた。そこまで嫌な予感はしない。どうせまた例のあほーな誰かがやらかしたんだろうな。


今回はスケかセリナか、ウドーもたまには。大穴、イクス。さて、どれに賭けるとしましょうか。


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