looking at the mirror
心持ちの方はまた別として、生活自体は何がどう変わることもない。ここ数日は春休み、というもののおかげで午前中や昼間にも現れたミラージュだが、基本普段は夕方過ぎまではいないのが普通なのだから。
彼女が去り、日の沈む時間を過ごして後の翌日朝、いつも通り特にこれといったすることも無いときの街における行動を彼女が来ないこの七日間、まずは行うことにした。情報収集と簡単な依頼達成。
それら両方を充足させる場所が酒場である。なぜ酒場なのかは以前気になって聞いてみたのだが、古来よりそういうしきたりなのだという。仲間を集めるのも、話を聞くのも、依頼を受けるのも。つまり大概のことは酒場で済んでしまうわけで。不思議である。
「お酒にはそういう効果があるらしいわよ。」
私にはまだわかんないけどね、と小声の末尾が続いたのが印象的だった。後に調べた結果、そのミラージュの教えは完全なる嘘だということが判明したが、ただの飲み物にそんな効果があるわけないことは彼女もわかっているだろうし、告げられた言葉の意図がどういったものかを掴む方にすぐさま思考を変えた。もちろん、今もって謎である。
しばらくミラージュが来ないってことは遠出が必要なものも受けられるってことか、選択肢が広がるな、なんて積極的に本来の方向へと思考を押し込めながら、ウドーと共に昨日見つけた良さ気な酒場へと向かった。街内の状況をより詳細に把握したりこなせる依頼をこなして小金を稼いだり。役に立っているかどうかはわからないけれど、少なくともそうすることは僕にとっての経過時間を有意義なものへと変える一つだと思う。
それだけだ。彼女は何も要求しない。僕も何も欲求が出ない。だからそれだけ。
「これ何かは、いいんじゃないかの?」
いつも通り張り出された依頼を一つ一つウドーに声に出して説明して、そのうちの一つに了解をもらう。
「素材採集だね。危険は大きくなさそう、、、だね。」
噂話はミラージュが巻き起こした騒動の事で持ちきりだったため、ここにやって来た目的の片方はつぶれた。もう片方はせめてとどれか一つは受けようと思った。
素材収集、雀の涙の納品。希少な一品らしく報酬金額もそれなりだ。手早く済みそうでもある。存在する場所を検索したら割と近い位置にあることがわかった。メアに乗って向かえば昼前には終わりそうなことを把握して早速依頼受理の申請を行うことにした。
「この依頼でよろしいですね。」
「はい。」
特に問題なく手続きが終わって酒場を後にした。いつもなら街で受ける最初の依頼の時にはあれこれと取り留めなく絞られながら渋られるのだが、ハルモスの酒場最初の依頼というに、そのいつものチェックが無かった。見た目が成長したわけでもなし、この辺りはいい加減な街なのだろう。
「このまま向かうのかの?」
スケさんたちの手助けはいるかという意味の問いかけだろう。僕は首を横に振って一人でも問題ないと答えた。
「メアに乗っていくよ。徒歩だとちょっと遠いからね。」
「そうかの?何かあっては怒られるのはわしじゃがの、、、」
「大丈夫だよ。今回は、本当に。ただ目的地まで行って取りに行くだけだから。ウドーはまだまだここの観光が終わってないでしょ?分業しよう。情報収集は頼むよ。」
「わかったのじゃ。」
別に一人になりたかった理由があったわけでもないけれど、そういう方向に進むように不意に言葉が選ばれた。ウドーの方は僕のその言で納得した。彼の欲求はそれで満たされる。
宿に戻り、メアにまたがって空を飛翔した。風の音、空の色。今日は曇天灰色雲。
眼下に広がる世界。データ量にしてそれなりのものを抱えているそれ。既にほとんどの事柄はデータとしてこの身の内にあるけれど、直接触れてみないことには。それでようやくつかめる気がする。最初のミルクがそれを教えてくれた。一切合切そうして触れ合うには、それなりの時間がやはりかかる。今のペースだと、最高効率で進めても十数年はかかる。
「受ける刺激を処理する機能は脳にあるけど、そこに全てがおさまっているという考え方は前時代的ね。だからあなたも、こうしてここに立っているんじゃないかしら。」
疑問に対する彼女の返答は明快だった。ひっくるめれば、経験と呼ぶそうだ。感覚が大事なのだろう。内の広がりも外の広がりも、及ぼすはずの経験を伝える役割を果たすそれが無いと、効果を発揮しない。そしてデータの読み取りでは、それが介入しない。事前に無用なものかどうかを判定できれば、徒労を行うこともない。そんな判定を行うのもまた、経験だという。
「馬車の両輪みたいよね。片輪では、車の底がこすれてしまうもの。」
「四輪あるけど、後の二つは?」
「そうね、、、希望と思い出、かしらね。前進も後退も、その二つがないとする意味ないもの。」
気付くと、すぐそばまで大鷲が飛んできていた。どうやらこの辺りは彼の縄張りらしい。初めて見るであろう変わった飛行物にちょっと困惑しているようだ。敵対の意志はないこと、伝えられるだろうか。方向は変えずにスピードだけを緩める。隣に来た大鷲の翼の一部に触れてみる。
羽根の手触り。ふわふわゴワゴワ。同時に伝わるデータ。大柄な体格に似合わず温厚なモンスターのようだ。クアァーと一声、大きく空気が振動する。それが僕の体にぶつかって伝わる。彼の領地はここまで。旋回して僕らから離れていった。
外へと出る意味がないから、容易に飛び越えられるはずのその境界を出ないわけじゃない。ただ設定で出ないようになっているから出ないのだ。
僕には設定されたものはないから、出られるならば出てもいい。けれど出る意味があるのだろうか。今更になってそういう考えが浮かんでくる。そのアイディアのことは、不安と呼ぶのだという。
「杞憂ともいうわね。」
とも言っていた。
採集地点上空にたどり着いた。
木々が鬱蒼と生い茂る森、下を徒歩で進むには入り込んでからかなりの距離を方向がわかりにくい状態で進む必要があり大変だろうが、予想通り上空からなら直線最短距離で労なくここまでやって来れた。
降り立った場所で問題なく依頼の品を採取して戻ろうとメアに近づいた時、足元に小さな振動を感じた。矢を射られたらしい。下を向くと僕の足のすぐそばの地面に突き刺さっている一本が視界に新たなオブジェクトとして発生した。
その矢の向かってきた先を羽根の方向から予測して見てみると、弓に二本目の矢をつがえ引き絞った状態でこちらを睨む森人がいた。ここは彼の縄張りなのだろう。彼もまた温厚な性格なのだろう。緊張はもちろん、相当に困惑しているようだが、そんな状態にもかかわらず一発目に放った矢は明らかにただの威嚇でとどめている。
「イクスと言います。初めまして。」
名乗り、ぺこりと頭を下げた。
「あ?ああ。」
テンションが緩んだ。次の矢は来なさそうだ。こういう対応もまた経験の賜物。続けてすぐに非礼を詫びる。許可なく入り込んだ侵入者という扱いで間違いないだろうから、敵対の意図は全くないことを伝えようと言葉を続けた。
「すいません、この植物を取りに来ただけなんです。もし大事なものだったならお返し、、、いやでももう抜いちゃったから、、、すいません。」
「そうか。そんなもののために外からここまで、、、いや、それはいいが、それにしてもどうやってここまで。さほどの達人には見受けられないが。見張りからの報告はなかったが、、、」
む、やはり見た目は変わっていない。そりゃーそうだ。そして見張りからの報告がないのもそれはそうだ。
「この子に乗って。」
そう言って実演して見せた。背にまたがって宙に浮いて、くるりと縦に一回転。
「そうか。これはまた、随分と希少な騎獣のようだな。空を駆けるのか。しかし納得した。折角だ、我らの里に立ち寄ってはいかないか?少し、頼みたいこともあるのだ。」
「できることでしたら構いませんよ。そう多くはないですが。代わりにここの話を聞かせてくれたら、うれしいです。」
「そうか、すまない。歓迎する。」
握手を交わした。
「テゲリオだ。では、ついて来てくれ。」
森の中、彼の住む集落があった。
道々テゲリオが語ったことには、外界とのパスは実力が伴っているもので里の外へと出る意思を持ったものが時折帰ってくるだけらしく。前者はともかく、後者の関門が大きいためにその数は非常に少なく、時折里が困った事態に陥ることがあるのだそうだ。
戦闘系ならスケさんだけど、すぐに連れてくるならセリナかな。細かい資材調達ならセバスが適任だな。なんて先の展開を推測しながら案内されるがままに里内を歩く。
天然の樹木を生かした住居群、今まで訪れた街とは一風変わった作りになっていて面白い。森人の存在はデータで知っていたけれど、やはりこうして直接知覚するのは違うな、と感じた。
里内を彼の目的地まで案内される間、道々すれ違う人たちに奇異の視線を向けられた。外見的な特徴のせいだろう。彼ら森人は一様に耳と目が鋭く尖っていて、髪色はブラウンとブロンドの中間ぐらい、瞳の色は緑色である。そんな中を白髪青瞳では目立つというものだ。
「ここだ。すまんな、皆珍しがってしまって。外の者が訪れるのは久しぶりなのでな。」
「いいですよ。僕の方も結構みんなをじろじろ見てたし。」
「ああ、そうか。君にとっては我らの方が珍しいのだな。では、中へ。」
テゲリオが扉を開けて、屋内へと入っていく。僕も付き従ってお邪魔する。
「アドラ、帰ったぞ。」
「ああ、父さん。おかえ、、、り?」
家屋内入ってすぐ、一人の女性を目にするなり声をかけたテゲリオ。後ろに付き従っていた僕を見るなりその特徴的な細い目を通常サイズにまで広げてわかりやすく驚いたその人はアドラという名前。先ほど握手した時に入手したデータによると、彼の娘だそうだ。
「稀人だ。おまけに空からやって来た。お前の願いを聞き届けてくれるかもしれんぞ。」
依頼は、この子の願いを叶えることのようである。一体どんな願いか。。
「そう、空から。外には、空を飛べる人もいるのね。」
羨望のまなざしを受けた。別に僕が飛べるわけではないのだが。しかしこれは、また、だろうか。里から出てみたいとか、そういう話だろうか。
「あの大樹、見えるでしょう?あの天辺に、行ってみたいのよ。」
「自力でなくていいならすぐだけど。でもどうして?」
単純な事実と端的な疑問を述べた。
「私はもちろん、挑戦する人は多いけど、自力でいける人なんて父さんか兄さんぐらいだわ。登ってる最中鳥とかいろいろ襲って来るんだもの。」
「だろうな。」
事情を詳しく聞いてみた。テゲリオの息子、アドラの兄であるその人は、大樹登頂を果たし、しばらくの後外へと出ていく宣言からの電光石火の旅立ちをぶちかましたようなのだ。
「一体何を見たのか、ずっとずっと気になってたの。たまに帰ってくるけど、教えてはくれないのよ。父さんに聞いても同じだし。」
「きっと、、、いや、そうだね。見てみないことには始まらないよね。」
「そうね。あなたは、わかる側なのね。」
より高い何かを樹上から目撃したんだと思った。求道者の類だ。スケさんのように。追い求めてやまぬ何かを持つ人。希少な一つを見つけた人。
「いや、僕はまだ、わかろうとしてる最中、かな。」
「そうなの。じゃあ私と一緒ね。」
「そうだね。じゃあ、行ってみよう。」
外へと出て、メアに二人またがった。リュウやレオの事を思い出して、意識してゆっくり速度で上昇することにした。
やや緊張気味な僕の後ろ。肩に小刻みな振動が伝わり続ける。空を駆けるという初めての体験が引き起こしたもので間違いない緊張が彼女の眼を閉じさせているかもしれない。先ほどから押し黙り続けているし。
「着いたよ。」
後ろを振り向くと、推測通り閉じられていた目があった。それを開けることを促す。見ないことには来た意味がない。本当に高い木だ。ウドーの本体と比べてもそん色ないかもしれない。そこから見えた景色、僕にとってはそう驚くこともないもの。山々にまた別の森、草原。この高さからだと、はるか先に海原も見えた。
「どう?何かわかることはあった?」
恐る恐る目を開けて、眼下に広がる光景を黙って眺めていたアドラ。しばらくその様子を待って、声をかけた。
「あのずっと向こうは、空の一部なの?あの川の途切れたところで、地面は終わりなの?あの先に進んだら、落っこちるの?」
海原を指して問いかけてきたので、素直に答えを返した。
「色が少し濃いでしょ?あれは空じゃなくて、海っていうんだ。塩水で満たされた場所だよ。」
本当に、しょっぱいのである。
「そう。わかったわ。ありがと。もういいわ。戻りましょう。」
「父さん、私も里を出るわ。」
家の中へと戻ってすぐさま、テゲリオに向け放たれたアドラの言葉。そんな気はしていた。
「そうか、、、それもまたよかろう。今回はイクス殿のお供として従えば安全だし、お前でも大丈夫だろう。」
「うん。ありがと、父さん。」
なんか僕に関係する話がとんとん拍子で当事者の僕の同意なしに進んだ気がするのだが。
「えーと、僕の一存ではアドラを一緒に連れていくかは決められないんだけど、、、」
一応釘はさしておく。街まで連れていくのは構わないのだが、その先もとなると。なぜにそうなってしまうのかを問いただしてみたら、返ってきた答えは次のようなものだった。
条件の一つ目の方、里外出の許される実力基準に対し、現状アドラは届いていないそうだ。その掟自体は失敗を経験したことで生まれたものなのだそう。道理である。せっかく送り出したはいいが、未知の危険が待つ外界。永遠に戻らぬ者となっては悲しみしか残らない。
その基準の最低ラインが、森内でのモンスター全種に対して苦戦せず相手取れること。満たさないことには単独外出は許可されないのだとか。それちょっと厳しすぎないか?
「それ僕でも無理だよ。危険地帯に飛び込まない限りはそんな僕でも問題なくやっていける場所だよ。外は。」
この集落周辺のモンスター分布データを参照しながら、真実の情報を告げた。ギリギリでもまず間違いなく外なら一線、、、は言い過ぎだが二線級はある。全く持って問題ない。知らないから、わからないから過剰に臆病になっているのだろうと感じた。
「だからだ。危険か危険でないかの判断がつかん。そこが問題なのだ。そしてそれが一番の重大事だろう?だから何が起こっても問題ないと思えるぐらいでないと、一人旅立たせるのは許されんのだ。」
それを聞いて素直に納得した。そしてテゲリオは娘の思考をある程度読んでいたようで、娘を思う親心というものもあってか、僕がやって来たのを、ある種の天啓と捉えたようである。また大げさな。
「ん?でもお兄さんの方は稀人の案内もなしに一人で出て行ったんでしょ?それはどうして?」
「兄さんは心配する必要が無かったから。」
「ああ。あいつがやられるなどあり得ぬ。実際数十日に一度は戻ってくるしな。」
「でもあんなのを黙ってたなんて許せないわ。」
頬を膨らませて怒りをあらわにするアドラ。
「話したところで信じぬだろうよ。」
「それもそうね。」
この家の、木製の枠の外には、また別素材の枠がそのまた外には別の枠が広がるそうだ。外へ外へと進んだ先、そこには主に真空で包まれた暗黒の枠があるのだそう。それを模しているのが夜空なんだという。
そのまた外はどうなっているのか。無限に続く囲いの連鎖が続いているのだろうか。どこかに終わりがあるのだろうか。
「もうほとんどあきらめてたんだけどさ。父さんが拾ってくれたチャンスだし、私も一人じゃ不安だからお願いしたいよ。兄さんは足手まといとか言うに決まってるもん。せめてその、許可がもらえる人にお目通りが叶わない、かな?」
「どうして出たいと思うの?」
「んー、どうしてかしらね。行ってみたいと、見てみたいと、触れてみたいと、思っちゃったのよね。」
改めて考えてみたら謎ね、と最後に小声でこぼして、思案にふけり始めた。
「きっと行って過ごしてみたらすぐに見慣れるようなものなんでしょうね。こんなものかなってさ。この森の景色みたいに。前にやって来た稀人も、最初はこの里の景色に驚いてたけどすぐに飽きて帰っちゃったもの。そうね。けどさ、晴れた空より青かったのよ。綺麗だなって、思ったのよ。」
滔々と語るアドラ。
考えても仕方がない類の事柄なのだろう。ただ感じた瞬間に、真実になってしまうんだろう。僕は、どうだろうか。彼女に手を差し伸べられた時、その背を追って初めて酒場に入ったとき、外のことを聞いたとき、何を感じていただろうか。
その時と今とでは差がつきすぎていて、上手く比較することができなかった。増えたのか減ったのかすら、わからなかった。そういう簡易な不等号で表すことのできない領域が追加された。そう思うことにした。
「七日先まで、その人はいないんだ。街で待つ?その間に一人でも大丈夫ってなるかもしれないし。向こうに戦闘指導のエキスパートもいるし。断られて駄目だったらまたここに戻すことになるけど。それで、どうかな?」
テゲリオの方を見て、承諾を待つ。ゆっくりとうなずく彼。
「十分だ。感謝する。駄目だったとしても街での生活が楽しかったならば今後の修練にも身が入るだろうしな。」
「やったー。じゃあもう、出発しましょう!そうしましょう!」
喜びはしゃぐアドラを宥めて落ち着かせて後、七日後に一度連れ戻しに来ますとテゲリオにしっかりと約束をしてから、二人メアの背にまたがって里を後にした。
「空を駆けるのは、慣れた後だってきっと楽しいわね。」
「そうかもね。」
相変わらずスピードは抑え目で街へと戻った。
「おおー、兄さんの言ってた通り。石造りなのね。」
「そだね。」
アドラの感想を横に流しつつ、上空から目立つ存在を探した。広場、壁の傍で路上演奏に浸っていたウドーを見つけてそのすぐ傍に降り立った。
「おお、ずいぶん遅かったの。ん?なんじゃ、そ奴は?」
「ちょっと事情があって。ウドーと似たような感じ。」
「なるほどのう。」
始めて見る街の様子。人工の建物の大きさやら聞こえる音の多さに戸惑いつつも興味津々にきょろきょろとせわしなく首を動かしていたアドラ。ひと段落着いたのかメアから彼女も降り立った。
「トレント?エルダーさん、にしては若いわね。不思議ね。意思疎通ができる若木なんて。さすが外の世界だわ。騒々しくてうるさいのはいただけないけど。」
馴染みのある存在であろうトレント、見た目は確かに理由があって若木だけど。
「わしゃエンシェントじゃ。この見た目は、でかい図体のままじゃと不便じゃから変えておるだけじゃ。」
「!失礼、致しました!」
結構深刻な謝罪をウドーに向けて行ったアドラ。樹齢おおよそ三桁突破でエルダー、そこからさらに数百年でエンシェントなのである。
「かまわんよ。礼儀正しい良い子のようじゃな。あ奴にも見習ってほしいもんじゃが。」
「ウドー、縦に真っ二つになっちゃうよ。」
「むう、確かにわしの土壁ではあれは確かに防ぎきれんのう。」
そんなことしないだろうけど。彼女がいない時のウドーの軽口に対する返し。いつものやり取りだ。
「そ、そんなの兄さんでも、、、」
「あ奴は短気じゃからな。この間も大蛇相手に馬鹿をやらかしたんで理由を聞いたら、むかついたのよ、とか言ってじゃな、、、」
仲間自慢的な感じでミラージュのことを情感交じりにアドラに伝えるウドー。結局のところ好感度は相当に高いのだ。
「そうですか。そのようなお方が、、、それで、ウドー様が私にご指導なされていただけるのですか?」
ちょっと変な言葉づかいで恐縮そうに述べた。
「違うよ。」
「よーわからんが、わしがそなたら人の術を教えられる道理が無かろう。魔法ならばまあできんこともないが。」
「そうですか。」
ほっと安堵と残念さの両方が混じった一息。森に棲む彼女にとって、ウドー並みのトレントは冗談じゃなく御神木扱いなのだろう。
「ひとまず宿で待とう。あと三人、常に一緒のメンバーがいるから。紹介するよ。その三人が指導してくれる人だからね。戦闘担当が二人と、街での暮らし担当が一人。」
昼前には戻ると言っておいたのだけど、里での時間と帰りの速度の小ささが響いて既に夕方間近。
「わかったわ。」
エンシェント様を連れてる人たちなんて、、、と切れ長の目を期待で一杯にして元気な返答をした。んー、その期待、裏切ることにならないといいけど。
「じゃ、ウドー。僕は依頼の品を届けてくるから、宿までアドラの案内をお願い。」
「わかったのじゃ。」
「アドラ、ウドーについていってね。僕もすぐに合流するから。」
「うん。」
納品を済ませ、宿へと向かった。既に他の三人と会っている頃だ。果たしてどうなっていることやら。




