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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -春-
75/100

ordering by marks -yosan_kaigi-

「それではこれより前期部活動予算決定会議を始めさせていただきます。」


厳かな儀式の開始を告げる一言。幕が上がる。龍メモ最後の一文曰く、この学校での最も無駄な時間の過ごし方、らしい。






「では、我々からの提案は以上です。基本的に前回の据え置き。特に目立った活動実績を上げた部もありませんし、妥当なところと思われます。賛同の方はそのままご着席を。意見のある方は御起立願います。」


意見などあるわけもなく。しかしもうこの役員さんの最初の説明の段階で飽きてしまった私の、早く終われという思いとは裏腹に起立者多数。


さて、なぜ今私がこのような場に参加しているかと申しますと、昨日龍からどうしても読んでる書物から離れたくなくて、と説得の連絡を受けたのだ。聞けば玲央からはすでにどうしても抜けられない用事があって、と断られたらしく。


姉御に雑務を任せるわけにはいかんだろ?と言われては首を縦に振らざるを得ず。また正直にさぼりたいだけだという意味と同値の理由を告げてきたことにも好感が持てて、まあ楽しそうだしいいわよ、と承認したのだ。代わりにリドルの答えを思考するタスクを押し付けた。なかなかいい取引だったかな、と思うのである。


そうして四月のまだ始業式も始まっていない今日、私は本来休みのはずのその日の昼過ぎを会議室にて過ごしていた。


何か時間つぶしの本でも持ってくるんだったわ。


あれやこれやと理にかなわぬ過大要求を突き付けていく面々の様子を眺めながら思った。


勿論、我らがゲーム研究会は学校側から支給される部費など当てにはしておらず、0で全く構わないのだけれども、恐ろしいことに欠席時は存続の意思なしと判断して部室取り上げが可能となる校則があるんだとか。


余っては、いないらしい。ちょうど私たちの立ち上げたゲーム研究会、それで埋まった形になるらしく。新規の申請がありますとか言われるかもしれないと思って、一体何を研究しているのかと問われればつらつらともっともらしいことを返す備えを昨夜行っていたのだけれど、どうやらそういう話はないようだ。が。


「男子サッカー部よりうちのが勝ち進んだんだから、部費の増額を望みます!減額対象はもちろん男子サッカー部からで!」

「異議あり!そもそも部員の数がうちの方が二名多い以上、それは暴論です!メジャースポーツでもあり、今年度の新入部員の数も多いことがうちは見込まれます。いずれの部も優勝、準優勝その他目立った実績を上げていないことは生徒会側に賛成です。それゆえ、均等に部員数での配分を提案いたします!」

「女子サッカーもメジャーよ!」


龍メモその一、男女の各サッカー部の仲は最悪。


「ならば野球こそ最メジャー。そういうことなら手をあげさせてもらう。さらなる増額が必要だ。」


龍メモその二、野球部キャプテン、ピッチャー。得意球、一塁牽制。なんだこれ。わずかな気のゆるみも逃さず差すということか?


「いや、テニスこそ!」


龍メモその三、周りに合わせるテニス部部長。粘り強く返し続けるプレイが得意だとか。シコラーと注意書きがしてある。どういう意味だ?


「えっと、バレーは女子も男子も結構メジャーだと思います。」


龍メモその四、女子バレー部主将、体格は女子にしては少し大きめだが、気は弱い。強烈なスパイクを保持、とある。前回何かぶちかましたのか?


「では部員数か競技人口で比例配分を決案の一つに入れましょうか。競技人口とするとどう数値を定めるかがまた問題となりますが。」


知らんがな。競技人口を拡大解釈すれば、あらゆるジャンル全部が全部ひっくるめていいなら、ゲームには勝てんぞ。おそらく、な。現役で遊んでる輩は、高校生なら七割は越える、だろ。実際e-sportsプレイヤーって相当な数のはず。






「すみませーん。」


それぞれの特徴を出したぶつかり合いが起こっている中、超絶に気を抜いた声を意識して出して手をあげて、空気を換える。すでに変な方向に議論が走り出し始めている。このまま待っていてもらちが明かず、そうしてそのまま夕方までここに座り続けることになりそうな気がして一旦場を落ち着けることにした。何気に龍メモが的を射ていて面白かったのだが、そんな些細な遊びもすぐに終わってしまうだろう。


「はい、何か?ええと、ゲーム研究会の方ですね?」

「はい。そうです。その、据え置きのこの前回の部費は、どういう基準で算出されたものなんでしょうか?」

「前の期の据え置きです。」

「じゃその前の期は?」

「前の前の期の据え置きです。」

「えっと、、、じゃあ、、、その前の前の期は、、、?」

「三度前の据え置きです。」


開いた口が塞がらない。それはつまりだ。議論が一切纏まらず、疲れ果てた末の据え置き同意決議ということか。何という、不毛。龍がこんなメモを書く以外にやることなく座っていた理由がわかったわ。


「ええと、その、、、では最近での、据え置きでない部費決定時の判断基準の提示を願います。」

「存じておりません。」


存じろよ!そこがお前らの仕事だろーが!


「そうですわね。ここしばらくずっと据え置きということは、今日この場で新たな基準を設ける良い機会ということ。素敵な意見をありがとうございますわ、ゲーム研究会様。わたくし、カードゲームが好きですのよ。」


知らんがな。龍メモその五、華道部主将、かぐや、とあだ名?が書いてある。お嬢様なんかな。


「あー、、、と、そうですね、、、百人一首なら、多少自信がありますが。」


瞬発力だけはあるからな。一時記憶もそこまで悪くはない。


「ふふ、素敵なお返しですわね。」


にっこりと笑顔を向けられた。


「ええと、議論の的になってる件での提案ですが、競技人口は狭義に取れば文化部が0です。広義に取ればそれが逆転するのでは?例えばゲームなんて、ほぼ全員触れたことがあるものと思います。」

「なるほど。では何か別案がありますか?」


私の質問のせいで今日この日据え置き以外の結論に至る雰囲気ができ始めている。ここで即決できるような提案をすれば早く帰れるが。


「そうですね、、、うーん、、、んー、、、あ!こういうのはどうでしょう。」

「どうぞ。」


ひとまず新しい石を一つ、池に投げ入れてみることにした。


「その、部活動の活躍具合はどこも雀の涙、だったらそこで、つまり武で判断はできないですよね?うちの学校の抱えてる標語の一つ文武両道に習って、文の方で決着つけるのはどうでしょう?」

「つまり?」


ごくりと、運動部の連中が生唾を飲み込む音が響いた。


「春休み明けの実力試験の部内平均点か最高点か、何でも良いですがそれで増額を願う部は互いの据え置き予定の追加予算をプールして白黒つけては。」


まあ一蹴されて終わりだろうが。


「では!うちは増額を望みます!」

「わたくしも。」


なんか比較的おとなしかった文化部の奴らが急にうるさくなった。せやな、そうやったな。激しい身体疲労を伴わぬうちらには、残り数日すべて費やし詰め込むという手段が取れる。めちゃくちゃ有利な案だわな。しまった、余計にヒートアップさせてしまったか。


「一つ質問が。」

「どうぞ。」


野球部主将が手をあげる。なんだ、牽制球を投げるのか?


「学年の違いはどうする?例えば三学年の平均点が著しく低い場合にはその学年の部員を多数擁する部には不利でないかな?」


普通にスローボールだった。いいストレートや変化球が投げれるなら勝てるだろうしな。


「最高点で勝負にしましょう。それならば公平ですし、部員の多いほうが有利とも言えます。」


相当に自信があるコマを有しているのか、テニス部主将からのリターン。最後の一言がいやらしい。


「数字の勝負だし、数学一本勝負!女子バレー部はそう提案します!」


私が言い出しそうなことをヒートアップしたテンションで強気に言い放った。周りもうんうんとうなずく者多数。なんか思いがけずまとまりそうな流れになってきたぞ。


「異議あり!」

「はい、どうぞ。」

「ゲーム研究会は算数オリンピック入賞者と優勝者を一名ずつ擁しております!明らかに自部の有利となる提案かと!」


おお、懐かしい。しかしそんなこと知ってる人がいるんだな。


「ええと、うちは部費の増額を望みませんが。」

「そうですか。第三者の視点から建設的な意見をありがとうございます。では、決を採ってしまいましょうか。ちなみに生徒会も、部費増額に名乗りを上げることにいたします。」


おい!きらりとはめている眼鏡をきらめかせて、のりのりに司会進行役の生徒会役員が一言放った。一体何に使うんだ、何に。ファミレス会議か。


全く蚊帳の外から眺める、仁義なき学力競争が決まってしまった。






「いやあ、歴史は繰り返す、ですねぇ。」

「どういうことです?」

「以前、全く同じ試みで余剰の部活動予算の配分を決めたことがありましてねぇ。」


職員室、せっかく学校に来たんだし、上ちゃんに何か面白い話でも聞こうかと訪れて言われた一言。先ほど決まった内容のまとめに目を通しながら、そう私にこぼした。


「そうなんですか。」

「そうなんですよ。うちの運動部は本当にどこも弱いですからねぇ。強い弱いでその活動の良し悪しを判定してはいけないとは思いますが、実績というのは明確な事実ですから。それがどこもないとなると、難しいですよね。文化部は文化部で必要なもの以上を与えたところで、何が変わるということもないですし。それでこういう、別のところで明確に数値化して優劣をつける案は時折出てくるんですよ。」

「私が出しました。」


素直に白状する。


「そうですか。まあ、いいんじゃないでしょうかね。今回のルールなら三年生の成績で決まりますしね。最高学年として、プライドを見せる機会にもなるでしょう。」

「ん?何でです?」


不思議な一言を放った上ちゃん。二年でもすごいのがいれば最高点勝負には出れると思うが。


「今回二年生は私が数学を作成しました。平均点は20点ぐらいを想定してます。」

「はあ。30点満点でですか?」

「いえ、100点満点で、です。」


んー、それ試験の意味あるのか?追試受験者ほぼ全員にならね?そんな疑問顔を浮かべていると、上ちゃんが追加の言葉を放った。


「ちなみに数学の試験時間は午後一時から五時までの四時間です。途中退室トイレ休憩持ち込み自由。もちろん最後まで、楽しんでくださいな。予算を獲得して、エンドユーザー向けの機材を購入してみるのもいいのではないですか?」

「うちは参加してません。」

「ああ、それはもったいないことをしましたね。」






「鏡様、学習の手助けならお任せを。」

「ありがと。でもねぇ、有名な定理どころの類型とかからは出したりしないと思うんだよなぁ。」


帰り道、メルクスと他愛ない会話を繰り広げていて、話題は先ほどの上ちゃんの発言のことに。端末すら持ち込みオーケーとは大きく出た。それで想定20パーセントの得点率か。数学ならでは、だな。数学以外に情報検索能力もまた試されよう。


「ふむ、指導者としては失格なのではないでしょうか。自信を喪失しかねない暴挙です。」

「まあ、その程度で折れちゃうならそれでいいって思ってるんじゃない?それに周りほとんどそうだったら、そういうもんだと納得もできるし。プロ・マスマティシャンなんて、なりたがってなれる確率、どれくらいよ。捨てる判断もまた、大事でしょ?私は既に社会科は全部捨ててるわよ。」

「なるほど。」

「別に何ができたってできなくたって、口さえ動けば食って生きていけんだから。ま、あんたは食い物食べる必要ないんだけどさ。で、何度も聞くけど、本当に敵の攻撃はないのね?」


本当にここ数日何度も繰り返し聞いた事柄。


「はい。嘘偽りなく、いまだ0です。」

「そう。」

「推察するに、こちらの防護が厚いと見て向こうでの思考誘導に判断を切り替えたのではないかと。」

「厚いわけ?」

「はい。数体、既に増援をいただきました。」


なんと。聞いておらぬぞ。


「まさかSK-EX01とか、UD-EX01とかそういう個体名じゃないでしょうね?」


ジョーク交じりに聞いてみた。


「、、、」

「うそ、、、でしょ?」


驚愕。


「はい。冗談です。」


ぐう、一本取られた。が、これは、つまり、未来にいるということは確定か?少なくともクエスチョンマークを浮かべずに乗ってきたわけだからな。


「SKだけは呼んじゃだめよ。それは、絶対。奴は、危険。それ、絶対。」

「そうですね。」


冗談なのか本気なのかどちらとも判断つかない同意が来て、私は坂道を登った。あの背に乗ったらこんな坂、苦もないだろうけどな。でも絶対、シケンを探して街を巡る気がするわ。いや、未来ですでに、やらかしたかもな。






「大体の出自は調べたぞ。」

「ありがと。」


リュウから話を聞く。


「イクス、カメリア、しっかり聞いておくのよ。」


万が一私が理解できなかった場合に備えて二人を保険で備える。はい、と素直な頷きを返すカメリア。イクスはあんまし内容は気にしていないよう。


「で、だ。たぶん逆読みだ。狂信的な人々、次々動物の姿に変える、ブドウ栽培、そういうとこから古代の神の名前が出た。」

「逆読み、、、じゃあ今回の一件、、、」


スティーブン?製作者?確かにそこからなら勝手に私個人のこの場所に侵入する術があるのかもしれない。ここよりも向こうよりも、まず何より一番のファンタジーであるピンポイント爆撃、製作側が完全に絡んでいるなら、可能なのか?


「可能性は高いが。が、どこからにせよ、今回は本当に言葉通りお遊びで送ってきた案を俺は推すな。」

「どうしてよ。」


確かに、プレイヤーはあいつだった。私とカメリアはただあいつのプレイに付き合わされただけ。遊んでたんじゃなくて、遊ばれてたのだ。


ただ作りかけかリリース待ちが以前のように届いて、そのイベント内の神にいいようにもて遊ばれるイベントだったのかもしれないが。


「手ぬるい。」

「そう、かしら?」

「そうだ。お前も椿も、壊れてない。一時的にですらだ。お前は特に、意図せぬ差異で壊れたろ。結構な長期にわたって。それに比べるとな。本気で攻撃してきて不意打ち食らってたら、今頃精神病棟送りだったかもな。俺ならいくつか、そうするような案が浮かぶぞ。」


ほーん、そういうこと言うんだ。このサイコパスめが。勘違いはなはだしいわね。


「この子はもともとめちゃ強いわ。で、私は成長してるの。女ってのは成長著しいのよ。そんなことにも思い至らないなんて、まだまだね。でしょ?」


カメリアへと視線を向ける。キラッキラとした目を私へ向けて頷き返すカメリア。


「ふん、言っとけ。で、ただの差異かどうかは五月末の大型アップデートで判別はつくだろ。」

「まあ、そうね。私はロスパーに乗って風車に突貫をかましたいけどね。」

「ドンキホーテかよ。」


それもまたよかろう。実現するといいな。


「なんにせよありがと。これで貸し借りは無しね。」

「ああ。俺の方も、助かった。」

「そういや気になってたけど、あんたいったい何の本を読んでるの?」

「超凄腕スナイパーの活躍を、描いた作品を、な。」

「ああ。」


そりゃいつまでたっても読み終わらないわよね。そんなピンポイント狙撃がまた来るのか、来たとしたら、今度は舞台を飛び越える。観覧席で眺めるその依頼主を、舞台の上に引きずり込んでやるわ。


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