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箱庭の君  作者: 鏡 龍彦
高校一年生 -春-
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tanraku

雑居ビル、と呼んでいいかはわからないが、カメリアの設置していたポイントからその屋上へと向かってそこにて外の光景を眺める私。


夢から醒めてすぐのような、まどろみの余韻を感じてしまう。この街の中央、他より一際大きな建物真理省。中からはひっきりなしに外へと流れる灰色の雲。頂上にはとぐろを巻いた巨大な蛇。先ほどからずっと私と目が合っている、気がする。


「やっぱり、このままここを出ましょうか。」


もう一度同じことを提案してみる。この惨状を見て取れる中、もっとも楽な手段だ。知らぬ存ぜぬで押し通す。今度は同意を得られない気がする。私自身がそれはないだろと性懲りもなく思ってしまう


「そうですね。捨て置いてよいかと。」


私の隣で同意を示したカメリア。この子もこの子で、今回は逆側に変なスイッチが入ってんな。ちょうどいいバランスが大事なんだけれども。私にはできないその舵取りをお願いしたかったのだけれど。仕方、無いか。


さて、こういう時に役に立つのはあ奴よな。顔をその方向へ。キラキラ輝く双眸二組。


「スケさん、ありゃ間違いなくティラノより強大ね。行きましょうか。周りの迷惑に、、、はムリかしらね。」

「そうであるな。」

「セリナ、あんたは今回留守番。岩盤を削る威力、見たでしょ?万が一もあり得るわ。皆のこと、任せた。」


不服そうな顔で、しぶしぶながらも納得してくれた。


「じゃあ、行きましょうか。」


ビルの屋上伝いに移動を開始した。


「なんかこういう状況、前にもあった気がするわ。」

「そうであったかな。」

「私は側面から。スケさんは正面から注意を引いて。」


また全力の一振りで、首を落とす。スケさんには悪いが、本当におとりになってもらわなければ。そこら中動き回られれば、辺り一帯更地と化す。侵略者らしく、敵の首魁をぶっ倒して新たな統治を始めれば。皮算用で試算した。


ただじっと私にその両目を向け続けてくる。スケさんのことはお構いなしに、横へと回り込む私の方へその長い首を伸ばして。射程に入ったのだろう。私の体は、他の何かへと変えられた。機動力も筋力も、慣れ親しんだ体の動きができなくなって発揮できずに、私はそのまま蛇の口内に吸い込まれ飲み込まれた。






「カメリアさん、ポイントここに置きなおして。」

「どうなさるのですか?」


ビルを飛び跳ねる先輩とスケさんの後姿を眺めながら、返事をした。彼が戦闘の役に立ったりはしないと思う。私も多分、一緒に行ったところで軽く体当たりを受けて終わりだろう。一回分のおとりにはなる、か。


「メアを連れてくるよ。それなら邪魔にはならないから。」

「そうですか。」


じっとしていられない気持ちは彼にもあるのだろう。彼が触れたせいで敵対したと、責任を感じているのかもしれない。一時の不快感で敵対へと誘導してしまった私には、その思いは強く。


ポイントをその場に設置した。


「イクス様、全員でイセティコまで。ミラージュ様が、敗れましたわ。」


え?


「わかった。」


数瞬の後、ここ最近すっかりおなじみとなって見慣れた芸術の街の光景が、視界の先に広がった。






腹の中、ゴロゴロと転がされ続けた衝撃のせいかすぐに変化は解けて、やべーお決まりの溶解液で溶かされるー!と一瞬パニックになったが、そんなもの無く。そういやこいつは機械とケーブルの集まりだったわねと思い出して、おそらく口元へと辿るであろう蛇の体内を進んでいた。壁の方は斬り込んでみてもすぐに修復してしまって埒が明かなかった。


結構な距離転ばされた気はするが、まあこっちのが近いよな。逆から出るのは何となく抵抗感がな。それに蛇の構造は詳しくないし、無いかもしれんしな。うん。自身の無知を幸いに、それが考えうる最善と言い聞かせて進んでいると、見覚えのある顔があった。


ペットをお探しで?と声をかけられ、そうね、と冊子を受け取る。


「ふーむ、ネコやら犬やらの個体数が少ないのは理由があるのかしら?」

「そうですね、ソシノイドのつかさどる生物ではないから、ですね。」

「ふーん。」


特に情報価値はないな。これを作った誰かの中に、ティラノや犬猫好きな奴がいて、そういう設定にしたんだろう。


「そういえば、何であんたはここにいるの?」


真っ先に聞くべきことのはずだが。やっぱりまだ寝ぼけてるのだろうか。


「敵対するつもりはなかったのですよ。より良くするために、ほんのお遊びのつもりで。ただ楽しんでもらおうと、ね。」

「遊びは、あまり感じなかったけどね。私のジョークのせいで、外は今すごいことになってるでしょ。」

「そうでしょうね。」


おそらくスケさんと真っ向から対立して、互いに暴れまわっているのだろう。あいつは変化とか、効かなそうな気がするからな。いや、食らったうえで、これなのかもな。微振動が体内にまで響いてきている。


「あんたさ、イセティコの美術館に来たかしら。」

「ええ。新しくできたと聞いてつい数日前、訪れてみました。素敵な建物でしたね。」

「そ。」


偶然見つけたペットショップ、それもまた、勝手な思い込みか。最初から掌の上だったわけだな。


「顔は三つで、全部かしら?」

「さあ。何のことでしょう?」

「で、あんたは一体どこのどちら様かしら?」


腰の紐から鞘を少し左手で体側に引っ張って、右手でしっかりと柄を握って、膝を軽く曲げ腰を少し落として問いかけた。


「きっとあなたには簡単なリドルですよ。ああ、そうそう。次もまたきっちりと招待いたします。あなたのいない間になんてことはありませんのでご安心を。あと、ここからだとお尻の方が近いですよ。では。」


粒子となって消え去った。


「次、ね。」


顔を見せたら即ぶった切ってやるわと強く心に決意を刻んだ。






外に出て、反対側の方に顔を向けると、遠目にスケさんの果敢に戦う姿が見えた。宙ではイクスがメアにカメリアと二人乗りで援護を行っていた。


「おお、ミラージュ殿、戻られたか。」


すぐさま駆け寄って、スケさんたちに無事な姿を見せた。


「排泄は自然の摂理であるからな。普通の生物ではない故多少心配しておったが、、、」

「それ以上いうでないわ!」


おそらく目の敵にしているだろう私の登場に、蛇は再びそのにらみを向けてきた。すぐさま私の目前に立ちふさがるスケさん。


「スケさんには効かないのね。」

「左様。メアの騎乗を代われば回避しながら突っ込めよう。」

「それ無理。意識持たないわ。」


見えなくなった私の代わりに先ほどからひっきりなしに動き回って蛇のヘイトを稼いでいるメアの背。私を心配したのかそこへの同乗を決心したんだろうが。まあ人が耐えられるものではないわな。意志の力で何とかできるものではない。


「ではいかがいたす?」

「目は、潰してみた?」

「イクス殿が試みた。すぐに修復しておった。それがしが頭の一部ごと吹っ飛ばしても同じく。」


そんなに簡単な攻略法ではだめか。まあ私にできることなんて、力任せの全力の一振りしかないんだし、考えるだけ無駄だな。


「スケさん、おんぶしなさい。」


ガシッと彼のでかい左肩に左手をかけて、背に飛び乗る。腰に下げた雷刀が目に入った。これなら、、、彼に任せてしまえば、それで済むが。


「これでよいか?」

「うん、ありがと。」


後ろ手にされた左手。そこに足をかけた。ちょっと不格好だがこれで見られることなく近づけるだろう。


「で、どうなさる?」

「下あごをまずは上方にぶっ飛ばして。そっからは私と一緒に全力で頭部を斬り刻む。わかりやすい、でしょ?」

「であるな。」


視界は大きな鎧の背中。長い歩幅で前へと進む。補助をかけつつ、音を待つ。強い衝撃。蛇の頭が、白い後頭部の上へとせり出したのが見えた。背から飛び降り攻撃開始。一瞬の間すら置かず修復を阻止し続ける。


「イクーース!カメリアを!」


延々頭部を斬り続けながら、大声で指示を飛ばした。傍に寄るメア、たたき起こされるカメリア。


「私に延々回復魔法を、かけ続けなさい!」


直に命令して、スケさんの腰に差さった補助武器を奪い取った。許容量を超えるまで、ショートするまで、黒焦げるまで、何でもいいから延々ぶち込んであげるわよ!


私の完全に八つ当たりの雷が、コイル野郎に落ちた。






「雷抵抗をあげる魔法を、次は覚えます。」


目を開けた。泣きそうな顔のカメリアが、必死に治癒を続けていた。二度目ともなると、耐えられるものね。おかげで夕飯を食いっぱぐれずに済みそうだ。この子の家からじゃ、間に合いそうにないものね。


「そんなものきっとないわよ。」


変な意地を張らずに、やっぱり任せておけばよかったかな。それ以前に、どうして戦ったんだっけ。ああ、そうだ。悪夢だからだ。


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